第3章-後編 ―戦士ミズラ、聖なる塔を登る―
「さて、このオレ様を倒そうってんなら、そいつはやめとくんだな。
あのむさ苦しい親父と同じ目に遭わせてやるぞ。
なんたって、このオレにはノエル様が与えてくれた力が…」
「それが、なんだというんだい?」
それまで黙っていたハリーが、愛用の大剣を振り抜き、前へ出た。
その目は、怯むことなく敵を真っ直ぐ見据えている。
「(ハリー…やっぱり、戦うつもりね)」
ミズラは、後ろ手にそっと矢を取る。
まだ構えはしないが、ジェイコブとトータスも武器を抜いた。
明らかに挑んでくる雰囲気を醸し出している一行に、今度は向こうが驚いたようだ。
「なんだって、おい!!ノエル様だぞ?
七英雄最強と名高いあのノエル様だからな?!
ノエル様は凄いんだぞ!!お前みたいなチョロい人間なんかと比べものになんないくらい、強くて逞しくてカッコイイんだからな!!
それに、あの方に従っていればいくらでも新しい身体を…」
「言いたいことは、それだけかい?」
これ以上ないくらいきっぱりと、ハリーはそう言い放った。
少なくとも、ミズラはハリーのここまで張りつめた声は聴いたことがない。
モンスターの方も、言いしれぬ緊張を覚えたようで、「いや、それだけって言われても…」と口ごもる。
「そうかい?ならば、こちらも訊こう。
君は、帝国の皇帝について聞いたことはあるかな?」
「おう、そりゃもちろん。オレたちにとっては、一番の敵だからな。
目の前に出てくれば、今すぐ首取ってやるんだけどよ。
登ってくるのは、むさいイノシシみたいな親父とか、お前みたいな大して強そうでもない人間ばっか…」
そこまで言って、獣は一端顔を上げ…明らかに、固まった。
大剣を構えたハリーが、それはそれは良い笑顔で自分を見ていたからだ。
ただし、何とも言えない迫力と、とんでもないオーラを纏って、だが。