第3章-後編 ―戦士ミズラ、聖なる塔を登る―
未知の場所に挑むという気負いからか、自然と一行は無口になるが、塔の中は本当に静かだった。
少なくとも、階段を上る途中で何かに遭遇したわけではない。
「…出て行ったモンスターですべて、だったのかしら?」
「その可能性は、なきにしもあらずですね。
とにかく、登るしかありませんよ」
そんな会話をしつつ、一行はあと少しで最上階というところまで来た。
ここで初めて、トータスが「止まれ!」と手を出す。
一行は緊張に息を呑み、静かに上階を覗いた。
そこには、数体のモンスターがうろついていた。
そして、その奥に1体のモンスターが鎮座している。
「…予想以上にでかい敵だな、ありゃ」
「なかなか力もありそうだ。
しかも、冥術使い…油断は禁物だ」
前方のトータスとジェイコブ、大柄な2人とハリーの大剣の隙間を縫ってミズラが覗くと、確かに大柄な、獣のようなモンスターがどっしりと構えている。
「どうすんだ?他のやつら全部相手にしてたら、色々面倒だぜ?」
トータスが一行を振り返ったその時、ずしりと音が立った。
見れば、ずっと動かなかったあの獣が、こちらに向かって一歩ずつ踏み出してくる。
更に直後、一行は耳を疑った。
「ほう、まだこの塔に登ってくる命知らずがいたとはな」
あの獣が、口を開いたかと思うと、そうハッキリ口にしたのだ。
「なっ、お前喋れんのかよっ?!」
最早見つかったとあれば、階段にいる必要はない。
トータスが勇んで上階へ踏み出し、その後に4人が続く。
蝋燭による明かりが灯された室内で、その獣は自慢げに笑った…ように見えた。
彼に敬意を示しているのか、他のモンスターは壁によって温和しくしている。
「オレは、ノエル様にこの塔を任されてるんだ。
そこいらのモンスターと一緒にされちゃ、たまらんな」
「…なるほど。どうやら、裏に七英雄がいるというのは、一応本当のようですね」
全く表情を変えず、ハクヤクはそう呟いた。
モンスターが喋るという事実に驚いていた一行は、その一言で冷静さを取り戻す。