第3章-後編 ―戦士ミズラ、聖なる塔を登る―


辺りは完全に真夜中となり、ぽつぽつと点いていた民家の明かりも消えていく。

アバロンと違い、この町には街灯などの街明かりがないので、辺りは完全に暗くなった。

「こんな時に不謹慎かもしれないけど、星が綺麗…まるで宝石を散らしたみたいね」

愛用の弓を背負い、ミズラは裏の戸口から出て、空を仰ぐ。

もちろん小声ではあるが、トータスも「確かに、こりゃすげえや」と見上げた。

「アバロンより辺りが暗いからってのもあるだろうけど、それにしても見事なもんだぜ。
ミズラ、ステップのと比べてどうだ?」

「う~ん…星の配置が違うから、一概に比べられないけど…こっちの方がもっとハッキリ見える気がするわ。
気のせいかな?」

「気のせいではありませんよ」

意外なことに、それに口を挟んできたのはハクヤクである。

ミズラが「テレルテバって、星が綺麗に見えるスポットなの?」と訊くと、彼は「単純に、空気が乾燥してるからですよ」と答える。

「詳しいことは、無事に帰ってから。今はそれどころではありません。
皆さん、準備は良いですか?」

ハクヤクに続いて出てきたハリー、そしてジェイコブが静かに頷いて、木戸を閉める。

念のため、今日は住民には外に出ないように伝えてある。

この裏戸を含む宿屋以外は、窓もドアも完全に締め切り、施錠まで確認させているのだ。

そしてここは、一行がいざというとき撤退するために、戸は閉めても鍵はかけていない。

そのため、ネマーンを含む数名の戦士が常に窓から外をうかがっており、何かあれば戦えるように武装して控えているのだ。

これまで通りであれば、モンスターは手を出してきた人間以外には危害を加えていない。
狙われるのは、皇帝一行だけのはずだが、今日が例外になるとは限らない。

更に危惧されるのは、塔の中で起こった出来事により、モンスターたちがコントロールを失い攻撃を始める可能性だ。

「なるべく早く戻るようにしよう。みんな、良いね?」

ハリーの言葉に、一行は無言で頷く。
そして、いつも通りトータスを先頭に、少しずつ塔へと近づいていった。

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