第3章-後編 ―戦士ミズラ、聖なる塔を登る―
その後ろ姿を見送って、盛大にため息を吐いたのはハクヤクだ。
「良いのですか、陛下?あのような子どもを、やる気にしてしまって」
「やる気になってくれることそのものは、別に問題ではないよ。
無茶や危険に飛び込もうとしなければね。
彼の自尊心を傷つけたくはないし」
主君の言葉に、ハクヤクは「そうは言っても、ヘタにしゃしゃり出て来られた日には、足手まといですよ」と眉を寄せる。
「そこは責任持って、もう一度僕が言い聞かせるよ。
それに、この戦いを見ておくことが、彼にとって良い経験になってくれるなら、それは良いことだろう?
いずれは、彼が街の戦士となる。子どもは、街の宝だからね」
「なるほど、ハリーらしい」
そうジェイコブは微笑み、トータスは「ま、あの調子じゃ当分先だろうけどな」と笑った。
ミズラも、「でも、若者が大切にされるのは道理だわ」と賛同すると、ハクヤクも諦めたように「陛下がそこまで仰有るなら、お言葉に従いますが」と再び帳面に目を落とした。
ちょうどそこへ、宿の主人が「お待たせしました、夕食が完成しましたよ」と顔を出す。
「よっしゃ、まずは腹ごしらえだな!!腹が減っては戦はできぬってやつだ」
「言っておきますがトータス、酒類は遠慮して下さい。
当たり前ですが、念のため釘を刺しておきますよ」
「わーってるっての。あー、腹減った!」
大げさに身体を伸ばすトータスに、釘を刺したハクヤク以外は笑顔になる。
何があるかわからないから、食事くらいゆっくり楽しむ。
アバロンの歩兵団には、そういった気風があることを、ミズラも理解していた。
特にトータスは、食べ物も飲み物も美味しそうに食し、決して無駄にしない。
楽しそうに食べる彼といると、一行も食事時は自然とリラックスするものだ。
「(何事もないと良いけど…いよいよ、目的の場所へ行くんだわ)」
そう思うと、胸の奥がギュッと引き締められる。
何があるのか分からない。
そして一行は、ある意味予想の斜め上を行く現実に直面するのである。
この時の彼らは、そんなことは知るよしもなかった。