第3章-後編 ―戦士ミズラ、聖なる塔を登る―
バッサリと、言葉で斬られた。
少なくともミズラには、その様子が目に見えた。
少年は、「マジかよっ?!」と呆気に取られている。
「じゃあ、帝国の皇帝ってのは…」
「僕だよ。そうは見えないだろうけどね」
ハリーが遠慮がちに手を挙げると、ネマーンはその顔をマジマジと見た。
「あのさ、なんかそんなに偉そうにも強そうにも見えないんだけど?」
「…君は一体、どんな人物を想像していたのかな?」
代わりにジェイコブが訊くと、ネマーンは「むちゃくちゃ偉そうおっさんか、むちゃくちゃ強そうなでかいやつ」と素直に答えた。
そして、ハリーはそのどちらでもないのだろう。
どちらかというと長身だがジェイコブほどではなく、歩兵団出身で筋肉質ではあるがトータスのように「見るからに」という雰囲気ではなく、貫禄という意味では年長者のハクヤクには及ばない。
もちろん、それは本人も自覚するところであり、「ごめんね、強そうじゃなくて」と苦笑した。
「でも、まだ皇帝として未熟者ではあるけど、それなりに学んできたつもりだよ。
何より、頼もしい仲間がこれだけいる。
君の父上の二の舞を踏むつもりはないから、心配しないで」
「べっ、別に心配してなんか…」
やんわりとハリーに諭されて、ネマーンはたじろぐ。
「(いつも思うけど…あのちょっと困ったような笑顔は犯罪だわ。
何も言い返しようがないもの)」
ミズラは内心で呟くが、もちろんハリーは自然にやっているのであり、わざとそんな表情をしているわけではない。
だからなんだというか、ミズラとしてはなんだかそれが…自分でもなんと表していいのか分からないような感覚だった。
「僕らが身内だけであの塔に登るのは、決して君たち砂漠の戦士を軽んじてのことじゃないんだ。
君が協力してくれるなら、お願いしたいこともある」
「お願いしたいこと?」
そう首を傾げたのは、トータスだった。
ハリーは真剣みを帯びた目で、「街の警護を頼みたいんだ」とネマーンの目を見る。