第3章-後編 ―戦士ミズラ、聖なる塔を登る―
「あんた、自分がされていやなことは人にしちゃいけないって、教わらなかったの?
あたしが、そのぶっかぶかのマントと大きすぎる剣を笑ったら、どう思う?嫌でしょ?!」
「なんだよ、ステップって!!
つまり、草のあるところでしか役に立たないんだろっ!!」
更に言い返そうとしたところで、パタンと大げさな音がした。
ハクヤクが、無言で帳面を閉じたのだ。
思わず、言い合いをしていた2人がビクッと固まる。
「ミズラ、子どもの言うことに何ムキになっているんですか。大人げないですよ」
「でも、あたしにだってノーマッドとしての誇りってものが…」
「物の道理が理解できない相手にそれを説いたところで、無駄だということを悟りましょう。
そもそも、それを説くのは教師の仕事です。我々ではありません」
確かにその通りだが、ミズラとしてはなんだか腑に落ちない。
そんな彼女に、ハリーが「ここは、ハクヤクに任せて」と目で言ってきた。
「少年、ひとつだけ応えましょう。
まず、小生は名乗りもしない相手と口をきく気はありません」
そう言いつつ、ハクヤクは尚も少年の方を見ようともしない。
彼はマントのフードをおろし、それなりの敬意を示した。
「オレの名前は、ネマーン。
テレルテバ戦士団が団長・アルマノスの息子だ!!」
「あぁ、無謀にも塔に突っ込んでって、ケガして帰ってきたっていう…」
トータスが身も蓋もないことを言うが、少年…ネマーンは「親父を馬鹿にすんな!!」と食って掛かった。
「親父はこの街で最強の戦士だ!!誰にだって負けたことなんざねぇ!
その親父がやられたような相手を倒しに行こうなんて、いくらバレンヌの皇帝でも無理だ!!
だから、オレが一緒に行って助けてやるってんだよ!!」
どうやら、ハクヤクの言う「挑戦と無謀をはき違えている感」は、この息子にも受け継がれているようだ。
「…まあ、名乗ったようですから、いくつかは応えましょう。
まず、我々はバレンヌの中でも精鋭の部隊です。
確かに、地の利という意味ではあなた方は砂漠では最も強いでしょうが、広大なバレンヌ帝国から集められた人間たちです。
一口に、君の父上に敵わないとは言えないでしょう。
そして、我々はビハラの民から、テレルテバの現状を見てなんとかしてきて欲しいという要望を受けています。
これを履行するために、あの塔に登ろうとしているのであり、ただ興味本位で行くわけではありません。
危険なことは充分承知しています。
最後に…まあ、今更という気もしますが。
小生は皇帝ではありません。
偉そうに見える人間が皇帝だという考えは、いくらなんでも浅はかでしょう」