第3章-後編 ―戦士ミズラ、聖なる塔を登る―
慇懃無礼とも言える態度で、彼がそう話しかけた相手はハクヤクだった。
言われた本人は、「何故、そう思うのですか」と表情も変えず、目すら合わせないが、向こうは怯んだ様子もなく「あんたが一番偉そうだからだ!」と断言した。
「(いや、確かにそう見えるかもしれないけど…)」
ハクヤクは一行の最年長だが、ハリーと3歳、ジェイコブと2歳しか違わない。
単純に、その落ち着きから見える貫禄と、本物の皇帝があまりにも"らしくない"ことから、そう判断したのだろうが。
「こら坊主、いきなり入ってきて、挨拶もなしにそれは酷いんじゃねえか?」
トータスが背後からフードを引っ張り上げ、少年は「はなせ!」と暴れるも、元々大きすぎて裾を引きずっていたマントに足を引っかけ、転びかける。
「うわっ!」
「危ないっ!!」
そこを助けたのは、すぐ側に居たハリーだった。
いつものように「大丈夫かい?」と声をかけるも、少年は「このくらい、どうってこと!」と気丈に言い返す。
「オレはあんたたちに用があって来た!
単刀直入に言うぞ、オレを一緒にあの塔へ連れて行け!!」
少年はなおもハクヤクに向かってそう言うが、ハクヤクは顔を上げようともしない。
「坊や、我々は遊びに行くわけではないのだよ。
いくら君が勇敢であっても、危ない場所に連れて行くことはできない」
ジェイコブが真面目にそう言うが、少年はまったく聞いていないようで「オレだって砂漠の戦士だ!!」と、その威勢は収まらない。
「この辺のことなら、誰よりよく知ってるぜ!!
剣だって、そう簡単に負けやしない。
砂漠でぶっ倒れて、ここへ担ぎ込まれてきたそこの姉ちゃんより、ずっと役に立つ!!」
いきなり引き合いに出されて、ミズラは「ちょっと、それあたしのこと?!」と言い返す。
「他に誰が居んだよ!情けなく目回して、ここへ運ばれてきたの知ってんだからな!!
なんだよ、その変な服と髪。だっせぇ」
見ず知らずの少年にそこまで言われて、黙っていられるミズラではない。
動きやすさのために簡略化してはいるが、髪の結い方も服装も、ノーマッドの伝統的な出で立ちだ。
それを馬鹿にされてはたまらない。
「あたしは大ステップの民よっ!!ノーマッドを馬鹿にするなら、黙ってないわよ!!」
「ミズラ、落ち着いて…」
ジェイコブに宥められるが、ミズラの憤りは収まらない。