第3章-後編 ―戦士ミズラ、聖なる塔を登る―
「そう言えば、前に返り討ちにされた人っていうのは…」
思い出したようにミズラが言うと、ハリーが「昼間、ハクヤクと2人で会いに行ってきたよ」と口を出す。
「この町を昔から守ってきた、砂漠の戦士団の団長殿…足のケガが原因で、今も松葉杖で生活されているけど、とても勇敢な人でね。
色々聞かせてもらえたよ」
「…まあ、小生に言わせれば、挑戦と無謀をはき違えている感が否めませんでしたが」
ざっくり切られてしまっては、どうしようもないが。
一行は、なんとなく彼の人物像を理解した。
「ええと、気を取り直して。敵の戦法は、どのようなものだったと?」
ジェイコブが話を戻すと、ハクヤクはメモしたページを広げながら「妙な術を使ってくるやつだった、とのことですよ」と指で追う。
「毒霧による毒攻撃に、催眠法…それに、妙な光を発して、それを直視したところ意識が混濁し、気づいたら倒れていたと」
「何それ…というか、よくそれで命が助かったわよね」
「まったくです。
いくら構造が単純とはいえ、何が仕掛けられているかわからない塔に単独で登る時点で、どうかとは思いますが…やはり、敵も命まで奪うつもりはなかったと考えるのが、妥当ではないかと」
「確かに、夜中に外へ出て何かしているといっても、ここまで人間に被害が及んでいないということは、人に手を出すことを向こうが禁じているとしか思えないね。
何の意図があってのことはか分からないけど…そう指示しているのは、七英雄ノエルなのかもしれない」
口元に手をあて、神妙な顔でハリーが呟いた。
天才軍師は、「小生も、そう考えていたところです」と帳面を閉じた。
「敵が使ってきた妙な術というのは、おそらく冥術でしょう」
「めいじゅつ?なんじゃそりゃ」
術に明るくないトータスは首を傾げるが、ハクヤクはそれに比例してため息が大きくなる。
「帝国兵である以上、そのくらいは一般教養のうちだと思いますが?」
「んなこと言ったって、歩兵の訓練には術法なんて一切含まれてねえし」
「あまりトータスを責めないで、ハクヤク。
確かに僕も、歩兵時代に冥術についてまで習った覚えはないから」
ハリーはそうフォローするが、ハクヤクは「一般歩兵ならともかく、これでも皇帝直属部隊なんですからね」と呆れたように言った。