第3章-前編 ―戦士ミズラ、灼熱の砂漠を渡る―
「みんな、気をつけて!何か来るわ!!」
「えっ、なんだぁ?」
剣にもたれ掛かっていたトータスが、気怠そうに顔を上げる。
ミズラは神経をとがらせて、音の出所を探り…「あっち!」と一行の右方向を指した。
その直後、砂埃が巻き上がり、巨大な影が姿を現す。
「ゲッ、マジかよっ?!」
剣を引き抜き、敵前方に繰り出しながらトータスが叫んだ。
砂埃が引くと、赤紫色の巨大な蛇が牙をむいていた。
「あれはサンドバイターです!!今までのとは比べものになりませんよ!!」
珍しく、ハクヤクが大声を上げる。
一行はその声と、禍々しい雰囲気から、敵がただの砂竜とは一線を画すものだと悟った。
陣形と戦闘態勢を整えることはできたが、敵はすぐさま攻撃をしかけてくる。
最初の牙による攻撃は、トータスが剣で振り払ったが、そのまま体当たりを敢行され、トータスはその場に膝をついた。
代わりにハリーが前線に踊り出し、振り上げた剣で敵の腹を切り裂く。
一瞬その痛みにもんどり打ったようだが、致命傷にはならなかったようだ。
「やばいぞ、こいつ!!とんでもねぇパワーだ!!」
なんとか体勢を立て直したトータスが、思い切りそう叫んだ。
矢継ぎ早に、トータスの槍とミズラの矢が飛ぶが、それでも敵は怯んだようには見えない。
「背後の警戒と、回復の術は小生が!とにかく、攻撃して下さい!!」
天才軍師にしては、非常に大雑把な指示が飛ぶ。
しかし、悠長に策を練っていては、こちらがやられそうな強敵なのだ。
「わかった!とりあえず、回復は信じてるからなっ!!」
そう叫ぶなり、トータスは再び剣を構え、突進していく。
普段は防御専任のトータスが攻撃に回れば、その分攻撃力の増加が望める。
正面をトータスが固め、ハリーとジェイコブが左右に散る。
そんな混戦状態でも、ミズラは味方を避けて矢を飛ばした。
しかし、敵も黙ってはいない。
自分を囲む男たちを無理矢理振り払って、攻撃対象を後衛に向けてくる。
長い尻尾を振り上げ、それが回復の術を唱えるハクヤクに命中しそうになった。
それにハクヤクも気づくが、咄嗟に防御の術を展開する余裕もない。
一瞬のことで、どうしようもなかったそこへ、「ハクヤク!!」と自分の名前を叫ぶミズラの声がした。
続いて、自分を包む白い靄。
敵から姿を見え無くさせる『霧隠れ』の術…突然視界から敵が消え、困惑したサンドバイターは、すぐ近くにいたミズラに対象を変えた。
術を放った直後で、防御態勢の出来ていなかったミズラは、長い尾になぎ払われてそのまま吹き飛ばされる。
ハクヤクが完成させた術を、そのままミズラに飛ばすが、彼女は砂上に派手に叩きつけられた。