第3章-前編 ―戦士ミズラ、灼熱の砂漠を渡る―
しかし、時間が経過して太陽が昇り始め、辺りが明るくなってくると、モンスターの気配が濃厚になる。
「ハリー、手ぇ貸せ!前方に2体だ!!」
「待ってトータス、背後からも敵が…ジャック、後方は頼んだよ!」
「了解。ハクヤク、下がって!!ミズラ、援護を!!」
「分かったわ!!」
怒号のように声が飛び交い、剣戟が響く。
ビハラの宿の主人が言ったように、砂漠には蛇系のモンスターが多数存在していた。
何も無い分、見通しは良いが、いかんせん流砂を避けることを考えると、敵を避けるのは難しい。
しかも、やつらは突如地下から現れることもあり、全く持って油断ができない状況が続いた。
ハリーの大剣が敵をなぎ払い、向こうからの攻撃はトータスが捌く。
ジェイコブの槍は的確に敵を貫き、そこへミズラの矢が雨のように降り注ぐ。
誰かが傷つけば、すぐさまハクヤクの術が癒した。
いつものコンビネーションが発揮されているにもかかわらず、敵の数もあってか、いつもよりも消耗が激しかった。
「ちょっ、いつもより明らかに軽いのに、なんかめちゃくちゃ疲れんだけど…」
ようやく敵が途切れた時点で、トータスがぜーはーと肩で息をした。
「トータス、大丈夫かい?
…正直僕らも、君の心配が出来るほどの余裕はないんだけど、ね」
ハリーも、地面に突き刺した大剣に寄りかかり、ため息を吐く。
「だから言ったじゃないですか。砂漠を甘く見ないように、と。
砂漠における戦闘は、通常の倍は消耗し、体力も半減に近くなるというデータだってあるんですからね」
ハクヤクはそんなことを言うが、そう言う彼もやはり辛そうではあった。
額をハンカチでぬぐい、盛大に息を吐く。
「…つーか、砂漠が無いアバロンになんでそんなデータがあるんだ?」
「知りませんよ。おそらく、砂漠に明るい傭兵から聞いた話を、気候風土を踏まえて学術的にまとめた人が居たのでしょう。
何しろレオン陛下以前のデータでしたから、現在でも通じる説かどうかは分かりませんでしたが…むしろ現状は、酷くなっていると言えるかも知れません」
懐から術酒を取り出し、ハクヤクは「正直なところ、魔力は温存したいので、回復以外のフォローは難しいと思って下さい」とそれを飲み干した。
「まぁ、あまり術が効いてる風でもないし、それは妥当な判断だね。
僕らの目的は、敵の殲滅ではなくあくまで目的地に着くこと。
これからますます暑さも増すだろうし、とにかくテレルテバを目指そう」
「そうだな。むしろ、これだけ戦闘を繰り返してきても、進路が殆どずれていないのだから…幸運なのか、わたしたちが賢く立ち回ったからなのか」
方位磁石を見て、ジェイコブはそう苦笑した。
立ち回るもなにも、そんなことを考えている余裕などなかったのだから、殆ど幸運だろう。
「ハクヤク、テレルテバまでの残りの距離はどのくらいだい?」
「正確な距離はつかめませんが…この調子で進めば残り1時間といったところでしょう。
というよりは、正午を過ぎれば間違いなく、今まで以上に体力の消耗は激しくなります。
最も暑い時間帯に敵に囲まれたりしたら、それこそ命に関わりますよ」
「ちょっと、怖いこと言わないでよ!」
ミズラはそう怒るが、ハクヤクは平然と「あくまで、そういう可能性もあるという話ですよ」と言い返した。
そんなやりとりに、ハリーは「大丈夫だよ」と苦笑する。
「よほどの事がなければ、そうはならないんだから。
僕らは必ず、任務を遂行してアバロンへ帰るんだ。そうだろう?」
「…そうよね、ありがとうハリー。この暑さで、ちょっと弱気になってたわ」
そうほほえみ返して、ミズラが前を向いた、その時だった。
なんとも言えない感覚と、かすかな異音に気づいたのは。