第3章-前編 ―戦士ミズラ、灼熱の砂漠を渡る―
夕食後、宿の浴室を借りて湯浴みをした後、濡れ髪のまま部屋に戻ったミズラは、とりあえず明日以降に備えて、弓の手入れをすることにした。
余談だが、現在アバロンに伝わっている弓技は、今から180年ほど前、伝承法の初代皇帝・レオンとその息子である2代ジェラール、2人の皇帝に使えた猟兵・テレーズが技術としてまとめたモノが基本となっている。
以降、猟兵団の中ではそれを礎に技を発展させていった。
特に、現在の技道場に残されている技の多くは、5代皇帝アメジストの側近として知られる、猟兵・アグネスが書き足したものだ。
元々、ステップで生活する上で身につけたミズラの弓道は、アバロンへ来てから更に実践的なものへと変わっていった。
それに伴い、弓にしても弦の材質、張り方などを独自にいろいろと研究してきたのである。
実を言えば、未だしっくり来る状態にはないのだが。
「威力を取るか、連射を取るか…とりあえず早撃ちにしておこうかな」
弦を強くして威力を上げれば、当然それだけの力が必要となり、構えに余計な時間がかかる。
今までの道程で、何度もこの部隊で戦ってきたことから、とりあえず自分の役割は確実にダメージを与えることより、敵を攪乱させることだと分かっている。
ミズラの弓で敵を分散させ、最前列のトータスが敵の攻撃を捌きつつ前進、ハリーとジェイコブが攻撃し、ハクヤクが術でサポートする。
それが、現在の基本戦法となっている。
もっとも、同じ戦法が砂漠でも通用するかは微妙だが。
食堂のおじさんには、「砂漠には恐ろしい毒蛇もいますからね、くれぐれも注意してくださいよ」と念を押された。
「毒蛇ってか、基本野生のモンスターなんか、あたしだってステップで散々相手にしてきたし…ま、なんとかなるわよね」
そう独り言を呟いて、手入れを終えた弓を仕舞う。
夜も更けてきたことだし、ここはさっさと休んで明日に備えよう。
ミズラは、生乾きの髪を結い上げてベッドに転がった。
しかし、この時の彼女は…いや、皇帝ハリー一行は、まだ砂漠の真の脅威を知らずにいた。