第3章-前編 ―戦士ミズラ、灼熱の砂漠を渡る―


5人で2部屋を借りたが、1部屋は皇帝陛下へと宿が配慮してくれた個室である。

大部屋の方に集合した一行は、テーブルもないのでベッドに腰掛ける。

片方のベッドにハリーとミズラ、反対側にトータスとジェイコブ、その間に置かれた椅子にハクヤクが座り、メルー地域一帯の地図が広げられる。

「これが、メルー砂漠のざっとした地図です。
ここがワイリンガ湖、そしてビハラ。
ここに描かれているのが、メルーで唯一の河であるイロリナ河です。
目的地であるテレルテバは、このイロリナ河が海へと注ぐ、この場所にあります」

先ほど手に入れたらしい地図に、ハクヤクがペンで印を付けていく。

この砂漠がどれほどの広さなのか、これだけでは分からないが、とにかく現在地と目的地以外には何も描かれていない。

「もちろんこのビハラでも、テレルテバとは交流があったのですが…ここ最近は、交信が途絶えている、と」

「どういうことだ?そりゃ」

トータスが口を挟むと、同じ話を聞いてきたハリーが神妙な顔で「向こうへ行ったビハラの行商人が、いつまで経っても帰ってこないというんだ」と答える。

「現在、テレルテバの街において何者かが、街のシンボルである聖なる塔を支配している。
ビハラの行商人は、砂漠を縦断しているくらいだから腕に覚えがあって、現地の戦士と共にその塔に挑み…命は助かったが、深い傷を負ってテレルテバの医療施設に入っている、と」

「そういう手紙が来て以来、ビハラの人々はテレルテバに近づくのを止めた。
その後どうなっているのかは分かりませんが、恐らくは未だ塔は支配されたままかと」

「それじゃ、テレルテバの人たちは、モンスターたちに危害を加えられているというの?!」

ミズラは息を呑むが、ハクヤクは静かに首を振って「おそらく、人が何人も死んでいるような状態ではないでしょう」と言った。

「もしもテレルテバを支配しているものが、住民に危害を加えているなら、人々はなんとしてでもこちらなり、海を挟んだ向こうのヤウダなりに避難してくる筈です。
それがないということは、モンスターは手を出してきた人間でなければ、相手にしていないということです」

「…いずれにせよ、そのまま街を放置する気にはなれないね」

ハリーの小さなつぶやきに、向かいに座るジェイコブが頷く。

「それに、その聖なる塔を支配したモンスターの意図が分からない。
例え知能のある危険なものだとしても、たかがモンスターが街に進入して、なにか事を進めるとは考えにくいだろう」

「それってつまり、黒幕がいるってことか?!」

トータスが驚くが、ハクヤクは冷静に「そう考えるのが、妥当でしょう」と腕を組む。

「しかも、モンスターを従える…つまり、やつらが畏怖し、従わねばならないと考えるような相手です。もしくは、幻惑系の術を使っているか。
いずれにせよ、ただ者ではありません。そんな者を放置しておいては、いずれ国にとって危害を与える存在になるかもしれません」

「それもそうだろうけど、とにかくテレルテバの人たちが安心して暮らせるようにしなきゃ!
今のところ被害は少なくても、相手はモンスターでしょ?だったら、放置しておくわけには行かないわ」

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