第2章―少女ミズラ、伝説の"皇帝の半身"と出会う―
「ねえハリー、聞いても良い?」
「なに?」
「アガタさんは、なんの病気なの?」
「…体内に、悪性の腫瘍があってね。手術での切除も難しくて、投薬療法だけ…。
でも、本人が延命を望んでいないから、それも殆ど痛み止めだけ。余命は、もってあと数ヶ月だろうって」
「そんなっ…どうして?!」
「『もう私には、半分しか残ってないから』…そう言ってた。
退位した時も、そうだったよ。『半身を失った私に、皇帝は務まらない』―それからは、ピーターさんの看病をして過ごしてたけど、亡くなって数ヶ月後には自分が発病して。
アガタさんにとって、ピーターさんは誰にも代え難い存在だった。
本人曰く、『自分が半分死ぬ、という感覚を味わう人間は、この世にはそういないでしょうね』って」
それが、アガタの選択。
ミズラは悲しかった。
だが、それを口にすることは出来なかった。
本人が選んだことに、口を挟むことなど…。
ふと隣を見ると、ハリーが墓石に手を当てたまま、目を閉じていた。
そして、その頬を伝う一筋の涙―。
「ハリー?大丈夫?」
「えっ?どうして?」
「だって、泣いてるわ」
ハリーは、自らの頬に手を当てて、そこで初めて気づいたようだった。
目元をこすり、ミズラの方を向いてニコリと笑う。
「ごめん、少し昔のことを思い出していて」
「…ピーターさんのこと?」
「うん。他にも、アガタさんやタウラス術士長…子どもの僕を迎えてくれた、城の人たちのことをね。
両親が、普通に僕を城へ連れて行くものだから。しかも、母なんか平然と僕をピーターさんやアガタさんに預けてね。
あの頃から、とても可愛がってくれたから…」
立ち上がって、ハリーは膝を払うと、「続きは、帰りながら話そうか」と涙の引いた顔で笑った。
すでに、かなり日が傾いていた。夕刻までという約束もある。
ミズラは、差し出された手に引き上げられて立ち、「聞かせて」と笑い返した。