双子月
アガタには敵わないよ。
そう肩を竦めるピーターの姿に、ハリーは思わず吹き出した。
「父もよく言ってますよ。『女には逆らうもんじゃない』って」
「それはそうだ。ロンは、独身時代からメディア姉さんに頭上がらないんだから」
従姉にしごかれる親友の姿を思い出し、ピーターも一緒になって笑う。
思えば、ピーターがアガタを支え、反対側からメディアが守り、ピーターの側にはロナルドが居てくれた。だから、"副帝"という重い立場でもやっていけたのだろうと、ピーターは思う。
自分たち双子に最も近い立場にいた2人から生まれたこの少年は、どんな大人になるんだろう?
そう考えると、ピーターはハリーの将来が、楽しみで仕方ない。
2人でしばらく笑っているうちに、部屋のドアがノックされる。
ピーターが開けようとすると、その前に勢いよく扉が開いた。
「ピーター、書類全部片付けたわ…あら?ハリーじゃない」
宮廷内での普段着である、ホーリーオーダーのローブを身に纏った、皇帝アガタその人である。
可愛い"甥っ子"ハリーの姿を見るなり、たちまち笑顔になる。
ハリーは慌てて、「お邪魔してます」と頭を下げた。
「ちょっとピーター、ハリーが遊びに来たなら、なんであたしも呼んでくれないのよ。ズルいじゃない」
今年で御歳40になろうというこの女帝は、子どものようにむくれる。
見た目だけなら、20代後半でも通りそうなだけに、なんとも似合ってしまうのだが。
それにピーターは、呆れたように「ハリーが来てるなんて言ったら、アガタは仕事しないじゃないか」と言い返す。
「で、書類にサインは終わったの?」
「終わったわよ。だから、届けに来たんじゃない」
はい、と紙束を差し出して、アガタは空いている椅子に座った。そして、勝手にお茶菓子に手を伸ばす。
「ところでハリー、今日はどうしたの?」
「母が、タウラス術士長に用があるらしくて、一緒に来たんです」
「そう。で、そのメディア姉さんは?」
「突然ここへ来て、『ちょっと息子頼むわ』って言って、出かけて行ったよ」
書類を確認しつつ、ピーターが言う。
無責任な話だが、子ども好きで面倒見の良いピーターには、さほど苦ではない。
ハリーを可愛がるあまり、アガタが仕事を放り出さなければ、の話だが。