双子月
アガタに遅れ、やはり留学という名目で、アバロンへ旅立ったピーター。その時に、従姉のメディアも共に海を渡ったそうだ。
そして、ピーターがアバロンに到着した、ほんの数ヶ月後に、先帝アメジストが崩御。
継承法によりアガタが、第6代バレンヌ皇帝となった。
「城下町で暮らしてた僕と姉さんは、すぐさまカンバーランド代表の従者として、城に上げられた。
さすがのアガタも、あの時ばかりは不安だったんだろうね。僕と姉さんの顔を見るなり、飛びついて声を上げて泣き出した。その時になって、僕のずっと先を行っていたアガタが、中身は全然変わってなかったことに気付いて…ちょっとだけ、安心したかな。
でも、アガタは皇帝。僕はただのホーリーオーダー。側近として一番近い場所には居られても、立場的には前よりずっと距離があった」
「でも、ピーターさんは副帝ですよね?だったら、皇帝陛下に準ずる立場になるんじゃ…」
クッキーを片手に、ハリーがそう言う。ピーターは、「まぁ、一応ね」と微妙な表情をした。
「僕が副帝に任じられたのは、アガタの即位から1年以上経ってからだよ。それも恐ろしいことに、僕本人の知らない内にね」
…言われたことの意味がわからず、ハリーは暫く、クッキーをかじりつつぼーっとしていた。
そして数秒後、「え~っ!?」と目を丸くする。
「じゃ、じゃあピーターさんは、気が付いたら勝手に副帝にされてたってこと…ですか!?」
「そういうこと。いつものように、アガタの仕事を手伝って、議会の議事題目を確認してたら、『副帝の選定について』って所に僕の名前があるんだから、驚いたよ。
慌ててアガタ本人を問い詰めたら、悪びれもせずにこう言うんだ。
『もうピーターにまで見上げられるのは、たくさんよ』って」
唯一無二の皇帝と、公式の場で同じ高さに立つことはできない。
アガタとしては、双子の弟にまで傅かれることに、違和感があったらしい。
「それにしても、本人に何も言わずに、いきなり議会に掛けるって…」
「言ったら、辞退されると思ったんだってさ。実際、その通りだったろうけど。
結局、議会で可決され、一月後には副帝任命式で、僕はこういう立場になった。変わったのは、公式の場でもアガタの隣に立って居られることだけで、やってる仕事は少し増えたくらいだけどね」