双子月


もちろん、そんなことは、本人も周りも気にしていない。
独身で実家の遠いピーターやアガタは、従姉の子、親友の子として、ハリーを実の甥のように可愛がっているのである。

「そんなわけだから、僕らは5歳で引き離された。でも、生まれる前から一緒だった双子の姉弟が離れ離れになるのは、どうにも不安でね。
僕は慌てて、父と兄に頭を下げて、ネラックでホーリーオーダーの修行を始めたんだ」

「じゃあ、ピーターさんがホーリーオーダーになったのは、アガタさんに再会する為…ですか?」

「まあ、平たく言ってしまえば、ね。同じ土台に立つには、自分もホーリーオーダーになるしかなくって。
ところが、僕は元々、何に才能があったわけじゃない。剣も術も、学問も平凡で、特に何に優れてるわけじゃなかった。
でも、フォーファーからはアガタが類い希なる才能を発揮して、どんどんホーリーオーダーに近づいてるって噂が聞こえてくる。正直、焦ったよ。このままじゃ、また置いて行かれる、って」

本人は笑って言うが、ハリーはその言葉の重みを、なんとなく感じ取った。
歳の近い仲間が、自分よりどんどん先に進んでしまうのは、焦ると同時にどこか物悲しい。

「案の定、アガタは弱冠15歳で、正式にホーリーオーダーとして認定され、おば様の片腕として働き始めた。
僕はといえば、やっと基礎的な部分を終えて、上級の修行に進んだばかり。あの頃は、本当に憂鬱だったよ。同じ日に同じ親から生まれて、何故こんなにも違うのか…。
悩んでは壁にぶつかって、ますます嫌になる。その繰り返しさ」

「でも、ピーターさんはちゃんとホーリーオーダーになれたじゃないですか。それも、凄く優秀だったって、母から聞いてますよ?」

「いや、メディア姉さんには、剣の修行で散々しごかれたからなぁ…お陰様で、だよ。なんだかんだ言って、僕に唯一才能があったとしたら、それは"努力する才能"だったのかもしれないね」

ピーターがホーリーオーダーとして認められたのは、アガタに遅れること2年。17歳の時だったという。

「やっとホーリーオーダーになって、これでアガタと同じ場所に立てる、堂々と会いに行ける…と思ったら、ちょうどその頃、アガタは祖母の薦めで、アバロンへ留学に旅立ってしまったんだ。
祖母が元々、先代アメジスト陛下の下で働いていた縁でね。思えば、その時にはもう、アガタは次の皇帝候補だったんだろうけど」

3/7ページ
スキ