双子月


「ピーターさんが、追いかける?先を行くんじゃなくて?」

「まさか。僕はいつだって劣等生だったよ。特に、君くらいの歳の頃はね」

苦笑しながら、自分のカップに紅茶を注がれ、ハリーは「あっ、どうも」と恐縮する。

内政に優れるだけでなく、武術-特に槍を得意とするピーターは、15年前の七英雄ボクオーンとの戦いでも、皇帝アガタと共に最前線に立ち、戦ったという。
その上頭脳明晰で、こんな細やかな気配りも出来る彼から、"劣等生"という言葉が出てくるなど、ハリーは思いもしなかった。

「みんな、僕を買いかぶりすぎなんだよ。僕は凡人、天才なのはアガタの方さ。
アガタは7歳の時には、ソフィアおば様の後継者候補として、フォーファーへ連れて行かれたんだから」

「つまり、ホーリーオーダーになる為の修行を、7歳から!?」

「そう。当たり前だけど、僕はネラックに置いてけぼり。おば様も、自分の跡継ぎをできれば身内からって考えてたみたいで、アガタ本人も知らない内に、フォーファー行きが決まってたのさ。
その前に、シーデー伯母様を…って話もあったらしいけど、伯母様本人が『術法より剣の方が性に合ってる』って、終いには家出しちゃったんだって」

シーデーというのは、ピーターの伯母で、ハリーの母方の祖母。
そもそも、ピーターとアガタの祖父は、カンバーランドが独立した王国だった時代、最後の国王となったハロルドの長男・ゲオルグである。

国を揺るがす内乱の後、彼が南のネラックで、その妹ソフィアが東のフォーファーでホーリーオーダーを組織し、更にその弟であるトーマが旧王家の代表として、首都ダグラスで皇帝代行となった。

ゲオルグは、内乱時代に時の皇帝・アメジストの側近として共に戦った、帝国兵のジェシカと結婚。前述のシーデーと、ネラック城主を引き継ぐウルバンという2人の子どもに恵まれた。
しかしソフィアは、生涯独身を貫き、子どもがいなかったことから、甥・ウルバンの娘であるアガタを引き取り、教育したという。

ちなみに、ホーリーオーダーになることを拒み、家出したシーデーは傭兵となり、同じく傭兵としてダグラスで活動していたオライオンと結婚。そこで生まれたのが、ハリーの母・メディアである。
つまり、同じ旧カンバーランド王家の血を引いていても、ハリーは完全に庶民の子。
アガタやピーター、その兄で現ネラック城主のポールと違い、高貴な身分ではない。
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