ターレスと歩く秋の朝

朝の空気が、肌の上で静かに深まっていく。
冷たいというほどではないのに、
指先に触れるたび、季節がひとつ進んだことを知らせてくる。

玄関を出ると、ターレスが少しだけ目を細めた。
眠気の残るその表情は、秋の光に淡く照らされて、
いつもより柔らかく見えた。

「……風が変わったな」

その声は、朝の静けさに自然に溶けて、
歩き出す前から胸の奥が少し温かくなる。

道の向こうで犬が散歩していて、
小さな足音が朝の空気を軽く叩いていた。
その音が、世界の輪郭を静かに整えていく。

ターレスは私の歩幅に合わせて、
少しゆっくりとした速度で並んで歩く。
何も言わない沈黙は、
ふたりの間にある呼吸のように穏やかだった。

風が頬に触れるたび、
ターレスの横顔が少しだけ影を帯びる。
その影の深さが、秋の気配を静かに示していた。

空は淡い青で、
夜の名残りがほんの少しだけ残っている。
見えない星座の気配が、
薄い光の向こうで静かに息をしているようだった。

ターレスは空を見上げたまま、
「影が細い。……秋の朝はこういう色なんだな」と言った。

その言葉は、
風景の中にそっと置かれた小さな灯りみたいで、
胸の奥に静かに落ちていく。

風がひんやりしてきた頃、
ターレスは私の手に触れた。
指先が触れる直前の、あのわずかな距離。
その距離が、秋の朝の静けさよりも深く感じられる。

「冷たいな」

そう言って、指を絡める。
強く握るわけではなく、
ただ温度を分け合うように、そっと。

手のひらの温度が広がるたび、
胸の奥で、ひとつ息が深くなる。
秋の朝だけが持つ静かな切なさが、
ふたりの歩く道にやわらかく溶けていく。

道端の草が風に揺れて、
季節の色がひとつ深くなる。
ターレスはその揺れを見て、
少し間を置いてから静かに言った。

「……こういう朝は、落ち着くな」

その声は、
私の隣にある温度を確かめるように、
ゆっくりと落ち着いていた。

私は今日も季節の気配を拾いながら歩いていく。
ターレスと並んで、
静かに深まっていく秋の朝の中を。
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