赤い月の海に影はひとつ

夜の気配は、最初からどこか濡れていた。
空に浮かぶのは、真っ赤な月のような巨大な星。
その光が、惑星全体を薄い赤に染めている。

ターレスはひとりで歩いていた。
足首ほどの深さしかない海が、どこまでも続いている。
波はない。
ただ、赤い光を静かに反射しているだけ。

歩くたび、足元で水がわずかに揺れる。
その揺れが、遠くまで赤い線となって伸びていく。
まるで、彼の歩いた軌跡だけがこの惑星の時間を動かしているようだった。

風はない。
音もない。
ただ、赤い月の光が水面に落ちて、
ゆっくりと揺れながらターレスの影を伸ばしていく。

彼は立ち止まる。
見上げる。
赤い月は、まるでこちらを見返しているようだった。

孤独は、いつものことだ。
だが、この惑星の静けさは、
その孤独を責めるでもなく、慰めるでもなく、
ただ受け入れているように見えた。

ターレスは息をつく。
赤い光がその横顔を照らし、
影が海の上にゆっくり沈んでいく。

歩き出す。
水面がまた揺れ、赤い光が砕ける。
その破片のような光が、彼の足元にまとわりつく。

どこまで歩いても、海は足首の深さのまま。
どこまで歩いても、赤い月は沈まない。

ターレスはふと、
この惑星の夜が永遠に続いてもいいと思った。

静かで、
誰もいなくて、
赤い光だけが彼を照らす場所。

その孤独は、
なぜか少しだけ、
やわらかかった。
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