閉じ込められるなら、お前と

「で? 今日はどうするんだよ。
 また家じゅう閉めきって、オレを押し倒すのか?」

白い灯りの下で、
ターレスがソファにもたれながら、
しっぽの先をゆるく揺らして言った。

その言葉に、
私は手にしていたカーテンの端をそっと握りしめる。
外はもう薄暗くて、
満月の気配だけが静かに空気を押してくるようだった。

「押し倒してない。寝かせただけ」

そう返すと、
ターレスは目を細めて、
あの夜を思い出したように口元だけで笑った。

シャッターを全部閉めて、
外の光をひとつ残らず遮断した夜。
天井の灯りだけが部屋を淡く浮かせて、
ターレスの影がゆっくり重なった。

——閉じ込めたいなら、朝まで相手してろよ。

その声の余韻が、
胸の奥で静かに揺れる。

「……今日は、スタージョンムーンなんだって」

ぽつりと言うと、
ターレスは片眉を上げた。

「スタージョン? なんだそれ。魚か?」

「そう。チョウザメ。
 北のほうでは、この時期にたくさん獲れるから
 この満月にその名前がついたらしいよ」

白い灯りがターレスの横顔を静かに縁取る。
興味なさそうに見えて、でもちゃんと聞いていた。

「へぇ……魚の月ねぇ。
 オレの変身と関係あんのか?」

「ないよ。
 ただ……なんか、水の気配がする満月って言われてるみたいで」

「水の気配?」

ターレスは少しだけ体を起こし、
灯りの中で目を細めた。

「お前、そういうの好きだよな。
 月の名前とか、由来とか。
 ……ビビってるくせに」

「ビビってない。ただ……気になるだけ」

そう返すと、
ターレスは口元だけでゆっくり笑った。

「ま、いいけどよ。
 魚の満月でもなんでも……
 閉じ込められるなら、お前と一緒のほうが退屈しねぇしな」

ターレスは立ち上がり、
私の手を軽く取った。

「早く行こうぜ、部屋。
 ここに居ると窓開けて月見ちまうかも」

「……そんなことしないでしょ」

言葉はそう返したのに、
胸の奥がふっと温かくなる。

満月の夜にターレスを閉じ込めて、
ふたりきりで過ごす時間——
危ないからじゃなくて、
実はそれを自分も少し楽しみにしていたことを
認めざるを得なかった。

ターレスに手を引かれ、
ゆっくり寝室へ向かう。
歩くたび、満月の気配が背中を押すようだった。

ベッドのそばまで来ると、
ターレスは私を巻き込むようにして
柔らかい音を立てて倒れ込んだ。

ターレスが下になる形で横たわり、
薄暗い部屋の中で口元だけで笑う。

「ほら。
 俺を朝まで離すなよ」

挑発みたいなのに、
どこか安心している響きがあった。

私はターレスの胸にそっと身を寄せる。
外の満月は見えない。
でも、ふたりの影だけが静かに重なっていく。

スタージョンムーンの夜は、
ゆっくりと更けていった。
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