灯りの市場で
砂漠の星の夜は、昼の熱を忘れたように冷えていく。
気温差が激しいこの星では、日が沈むと風が変わる。
外の空気が静かに冷え始めた頃、
ターレスは何も言わず歩き出した。
その背中を見て、私は自然とついていく。
夜風が頬を撫でて、体の奥に残っていた熱がすっと抜けていく。
市場に足を踏み入れた瞬間、
布の隙間からこぼれる灯りが砂の粒を照らして、
夜風に揺れながら細かい光を散らしていた。
歩くたびに、足元で光がふわっと跳ねる。
屋台の上に吊られた小さな灯りは、
炎じゃなくて星の欠片みたいな光で、
色も強さも少しずつ違っていた。
「……涼しい……」
ターレスは横目で私を見て、
ほんのわずかに歩幅を合わせた。
「旅人さん、冷たいのは好きかい?」
白い髭の老人が差し出したのは、
七色の光を帯びた氷菓子だった。
青、紫、金、緑、赤。
屋台の灯りの揺れを受けて、
氷の表面がゆっくり色を変えていく。
私は受け取って、ひと口食べた。
冷たさが舌に広がって、思わず肩がすくむ。
「……きれい。甘いけど、冷たっ」
ターレスは器を覗き込み、
七色の光を追うように視線をわずかに動かした。
「この星の食い物か」
「うん。おいしいよ」
私はスプーンで少しすくい、ターレスの前に差し出す。
「一口、どう?」
ターレスは短く息を吐き、
ゆっくり身を寄せてその一口を受け取った。
氷が舌に触れた瞬間、
まぶたがほんのわずかに揺れる。
「……冷たいな。だが、悪くはない」
その声は夜風より静かだった。
私は笑って、もう一口食べる。
ターレスはその動きを横目で追った。
「急に元気になったな」
揶揄うような声。
でも、その奥にある安堵は隠しきれていない。
私は別の屋台を指さす。
「ねえ、あれも気になる。果物焼いてる」
ターレスはわずかに口角を上げた。
「食欲まで戻ったか」
焼いた果物を食べると、
甘さが夜風に溶けていくようで、思わず笑みがこぼれる。
「これもおいしい……!」
ターレスはその様子を静かに見ていた。
「歩けるなら、好きに選べ」
屋台を巡るたび、
屋台の灯りが砂の上で揺れて、
ふたりの影がその光の中で寄り添うように伸びる。
ターレスは少し後ろからついてきて、
時々私の歩幅に合わせて足を止めた。
市場全体が、
灯りと風でゆっくり呼吸しているみたいだった。
最後に買った小さな焼き菓子を食べながら、私は言う。
「連れて来てくれてありがとう」
ターレスは視線を横に流し、
私へ戻して、短く言った。
「ああ……」
その返事が胸に落ちたとき、
昼間の熱で歩けなかった自分のことがふっと浮かぶ。
涼しい夜なら、と
ターレスが歩き出した背中も。
その気遣いが、
灯りの揺れの中でそっと胸に染みた。
ふと、私の手にあたたかいものが触れた。
ターレスの手だった。
大きくてあたたかい手が、
そっと私の手を包む。
屋台の灯りが砂の上で揺れて、
光の粒がふたりの影をやわらかく照らす。
そのまま手を繋いで歩く。
夜風と灯りの揺れが、
ふたりの間を静かに満たしていた。
気温差が激しいこの星では、日が沈むと風が変わる。
外の空気が静かに冷え始めた頃、
ターレスは何も言わず歩き出した。
その背中を見て、私は自然とついていく。
夜風が頬を撫でて、体の奥に残っていた熱がすっと抜けていく。
市場に足を踏み入れた瞬間、
布の隙間からこぼれる灯りが砂の粒を照らして、
夜風に揺れながら細かい光を散らしていた。
歩くたびに、足元で光がふわっと跳ねる。
屋台の上に吊られた小さな灯りは、
炎じゃなくて星の欠片みたいな光で、
色も強さも少しずつ違っていた。
「……涼しい……」
ターレスは横目で私を見て、
ほんのわずかに歩幅を合わせた。
「旅人さん、冷たいのは好きかい?」
白い髭の老人が差し出したのは、
七色の光を帯びた氷菓子だった。
青、紫、金、緑、赤。
屋台の灯りの揺れを受けて、
氷の表面がゆっくり色を変えていく。
私は受け取って、ひと口食べた。
冷たさが舌に広がって、思わず肩がすくむ。
「……きれい。甘いけど、冷たっ」
ターレスは器を覗き込み、
七色の光を追うように視線をわずかに動かした。
「この星の食い物か」
「うん。おいしいよ」
私はスプーンで少しすくい、ターレスの前に差し出す。
「一口、どう?」
ターレスは短く息を吐き、
ゆっくり身を寄せてその一口を受け取った。
氷が舌に触れた瞬間、
まぶたがほんのわずかに揺れる。
「……冷たいな。だが、悪くはない」
その声は夜風より静かだった。
私は笑って、もう一口食べる。
ターレスはその動きを横目で追った。
「急に元気になったな」
揶揄うような声。
でも、その奥にある安堵は隠しきれていない。
私は別の屋台を指さす。
「ねえ、あれも気になる。果物焼いてる」
ターレスはわずかに口角を上げた。
「食欲まで戻ったか」
焼いた果物を食べると、
甘さが夜風に溶けていくようで、思わず笑みがこぼれる。
「これもおいしい……!」
ターレスはその様子を静かに見ていた。
「歩けるなら、好きに選べ」
屋台を巡るたび、
屋台の灯りが砂の上で揺れて、
ふたりの影がその光の中で寄り添うように伸びる。
ターレスは少し後ろからついてきて、
時々私の歩幅に合わせて足を止めた。
市場全体が、
灯りと風でゆっくり呼吸しているみたいだった。
最後に買った小さな焼き菓子を食べながら、私は言う。
「連れて来てくれてありがとう」
ターレスは視線を横に流し、
私へ戻して、短く言った。
「ああ……」
その返事が胸に落ちたとき、
昼間の熱で歩けなかった自分のことがふっと浮かぶ。
涼しい夜なら、と
ターレスが歩き出した背中も。
その気遣いが、
灯りの揺れの中でそっと胸に染みた。
ふと、私の手にあたたかいものが触れた。
ターレスの手だった。
大きくてあたたかい手が、
そっと私の手を包む。
屋台の灯りが砂の上で揺れて、
光の粒がふたりの影をやわらかく照らす。
そのまま手を繋いで歩く。
夜風と灯りの揺れが、
ふたりの間を静かに満たしていた。
1/1ページ