胸元に落ちる微かな熱

ターレスの寝室は、夜の気配が薄い。
外の風も星の音も届かなくて、
ただ船の低い振動だけが遠くで続いている。

壁際の照明が淡く光り、
その青白い光がターレスの肩や胸の線を静かに縁取っていた。
上半身裸の肌は、金属の光とは違う、
柔らかい温度を帯びている。

その近さに、胸の奥が落ち着かなくなる。

少しだけ距離を取ろうとして、
そっと彼の腕を押した。
ほんの指先ほどの力だったのに、
ターレスはすぐに反応する。

逃がす方向じゃなくて、
私を戻す方向へ。

「……どこ行く」

低い声が、静かな部屋に落ちる。
怒っているわけじゃない。
ただ、離れようとした動きだけを捉えた声。

胸に額が触れた瞬間、
ターレスの肌の温度がじわっと伝わってきた。
熱すぎるわけじゃないのに、
触れたところだけ確かに“生きている”と分かる温度。

その温度が、頬にゆっくり広がっていく。

頬に触れている部分から、
かすかな匂いがした。
匂いと呼ぶほど強くはない。
ただ、温度が運んでくる“気配”のようなもの。

「……恥ずかしい」

小さく漏れた声は、
ターレスには届かなかったみたいだった。

彼はただ、
私が落ち着く場所を探しているとでも思ったのか、
腕の力を少しだけ強める。

抱きしめるというより、
“ここでいい”と無言で示すような抱き寄せ方。

背中に置かれた手のひらが、
呼吸に合わせてゆっくり動く。
その動きに合わせて、
頬に触れている体温もわずかに揺れる。

船の静けさの中で、
彼の温度だけが確かなものとしてそこにある。

胸の奥がじんわり熱くなって、
私はそっと彼の胸元に顔を寄せた。

ターレスは、
その意味に気づかないまま、
ただ静かに私を抱いていた。
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