水面に落ちる星の中で

この星の夜は、地球の夜とまったく違った。
空いっぱいの星が、まるで落ちてきそうなくらい近い。
その光が、足元の水面に全部映り込んでいた。

水面は鏡みたいに静かで、
星のひとつひとつが揺れながら浮かんでいる。
風もなくて、音もなくて、
ただ光だけが水の上で呼吸しているみたいだった。

こんな場所があるなんて、知らなかった。
胸の奥がじんわり熱くなる。

ターレスは少し前を歩いていて、
星を散らすように水辺へ向かっていく。
その背中を見て、
“ここを選んだのは偶然じゃない”とすぐにわかった。

わたしが立ち止まって見入っていると、
ターレスが振り返る。

「……何突っ立ってんだよ。入んぞ」

言い方はいつも通りなのに、
わたしの反応を確認するみたいに目が一瞬だけ動いた。

ターレスが水に入ると、
砕けた星の光が肩の線をなぞって、
輪郭だけが夜の中に浮き上がる。

「……すごい」
思わず声が漏れた。

ターレスはわずかに目を細めた。
気のせいじゃない。
わたしが喜んだのを見て、
ほんの少しだけ満足してる顔だった。

「おまえはほんと、すぐ感動すんだな」
呆れたように言いながら、
水を蹴って少しだけ近づいてくる。

わたしが水に入ると、
ターレスの指先が水の下で手首に触れた。
掴むんじゃなくて、
“ここにいろ”と示すみたいに。

「流されんなよ」
その声は低くて、
星の光より近かった。

水面に映るターレスの影と、
本物の輪郭が重なる。
星の光が揺れて、
彼の横顔が一瞬だけ柔らかく見えた。

その光景に息を呑んだわたしを見て、
ターレスは前を向いたまま、
水音に紛れるくらい小さな声で言った。

「……喜ぶと思って連れてきたんだよ」

聞こえたかどうか、
ターレスは確認しない。
ただ星の光の中で、
わたしの反応を静かに待っていた。
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