1話「非戦闘員の夜歩き」

夜の空気は、昼より少しだけ鉄の匂いがした。
街灯の光が地面に薄く落ちて、
その上を歩くたびに影が揺れる。

本当は、非戦闘員がこんな時間に出歩くのはよくない。
わかっているのに、
どうしても外の匂いが気になってしまった。

静かな通りをそっと歩いていると、
背後から低い声が落ちてきた。

「……おい」

振り返ると、ラディッツが腕を組んで立っていた。
その横でターレスが片手を上げて笑っている。

「非戦闘員がこんな時間に何してんだよ」
ラディッツは呆れたように言うけど、
その目はちゃんと私の無事を確認している。

「いいじゃねぇか。夜風に当たりたかったんだろ?」
ターレスは面白がっている。
私の“ちょっとした反抗”が気に入ったらしい。

「……戻れとは言わねぇけどよ」
ラディッツがため息をつく。

ターレスが顎で前方を指す。
「俺たちラーメン食べに行くとこだったんだよ。
 どうせ腹減ってんだろ、一緒に来いよ」

三人で歩く夜の街は、
さっきよりもずっと明るく見えた。

ラーメン屋の赤い灯りが見えた瞬間、
ターレスが口の端を上げる。

「ほら、あった。
 こんな時間に開いてるの、ここくらいだ」

店に入ると、
湯気とスープの匂いがふわっと広がる。

ラディッツは私の隣に座り、
ターレスは向かいに腰を下ろす。

ラーメンが運ばれてきて、
湯気が三人の間にゆっくり広がる。

私が箸を取ろうとした瞬間、
ターレスがわざとらしく身を乗り出した。

「なぁ、お前……」

低い声で呼ばれて、思わず顔を上げる。

ターレスはニヤッと笑って、
私の顔をじっと覗き込む。

「さっきの、何だったんだよ。
 夜に一人で歩いてよ。
 ……誰かに会いに行くつもりだったのか?」

わざと声を落として、
ラディッツに聞こえるギリギリの距離で言う。

否定しようとした瞬間、
ターレスは口の端を上げる。

「そんな急いで否定すんの、逆に怪しくねぇ?」

軽く言うのに、逃げ道はちゃんと塞いでくる。
ラディッツが低く言う。
「ターレス、やめとけ」
「やだね」
ターレスは肩をすくめる。
「こういう時のこいつ、分かりやすいんだよ」

そう言って、
私の頬を指でちょんとつつく。

「ほら、赤い。
 ……ラーメンのせいじゃねぇよな?」

ターレスに頬をつつかれて、
むっとしながらも視線をそらして、小さく言う。

「……散歩したくなっただけだもん」

ほんとに小声。
でも、ちゃんと聞こえる距離。

ターレスの口元がさらに上がる。

「へぇ……“だけ”ねぇ」
ラディッツが箸を置く音が、
静かな店内に小さく響く。

「ターレス」

「はいはい、わかったよ」
ターレスは笑いながら手を引っ込める。
「ほら、食えよ。
 冷めたら旨くねぇだろ」

その笑い方は、
“私が困る顔を見られて満足した”
そんな顔だった。

食べ終わった丼が片付けられて、
店内の湯気がゆっくり薄れていく。

ターレスが椅子の背にもたれ、
私を見て表情が悪戯っぽく変わった

「で? ここで帰るなんて言わねぇよな」
「せっく夜に出てきたんだ。もうちょい行くだろ?」

少し迷った私を見て、
ラディッツがふっと笑う。

「……帰る気ねぇだろ、お前」

ターレスが立ち上がり、
夜の外気を吸い込むように伸びをする。

「ほら、行くぞ。
 まだ夜は長ぇんだからよ」

ラディッツも立ち上がり、
私の横に自然に並ぶ。

外に出ると、
惑星ベジータの夜風がひんやりと頬を撫でた。

街灯の下、
三つの影が並んで伸びていく。

静かな夜の続きが、
ゆっくりと始まっていった。
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