「イゾウさーん、おはようございまぁす。朝ですよーぅ、起きてくださぁい」

私の一日はイゾウさんを起こすところから始まる。

ふっかふかの温かいお布団の中、さらにはイゾウさんの優しい腕の中から私はイゾウさんの頬をつんつんと突っついてみる。
するとイゾウさんはクスクスとくすぐったそうに笑いながらブラックコーヒーみたいな深い色をした瞳を見せてくれた。

「その起こし方も可愛いが、もうちょっとやりようがあるんじゃないか？」
「だってイゾウさんがギュッてしてるから、片腕しか動かせなかったんですよ」
「じゃあこれならどうするんだ？」

そう言いながらイゾウさんの腕は私から離れて行った。
ちょっと…いや、だいぶ寂しいと思いながらも身を起こして少し上へ移動すると、さっき突っついていた場所と同じ所にチュッとキスをしてみた。

どうやら正解だったらしい。

イゾウさんは満足気に笑うと私の顎をすくい取りながら上半身を起こした。

「おはようメイ」

私が挨拶を返す前に私の唇はイゾウさんのそれで塞がれた。
今日もイゾウさんは私に甘々だ。
まるで砂糖菓子みたい。
甘いキス、なんてよく言うけど煙管を吸っているのにイゾウさんのキスは本当に甘いから不思議だ。
その甘さはとっても癖になる。
もっと、もっとって思ってしまう。
はしたない、と思いながらも自然と口が開いてしまい、そうなるとキスはもっともっと深いものになっていく。
夢中でイゾウさんを味わっていたのに、急にイゾウさんは離れて行ってしまった。

「馬鹿。そんな顔してると朝飯の前に喰っちまうぞ」

そんな顔ってどんなだろう。
あぁ、でも甘いお菓子を食べていたのに急に取り上げられて悲しいと…そんな顔だろう。
私はどれだけ食い意地がはっているんだ。
ちょっと恥ずかしくなる。

イゾウさんは私に高いリップ音付きの軽いキスを一つしてくれてから私から少し離れて大きく伸びをした。
ぱらぱらと肌の上を流れる真っ直ぐな黒髪が朝からイゾウさんの色気を無駄に引き出している。
真っ直ぐな髪が羨ましくて、ふわふわとしてまとまりのない自分の前髪を思わず指先でツンツンと引っ張った。
自分で切っておいてなんだが、結ぶにはもうちょっとだけ足りない長さにだんだんうっとおしさを覚えてきた。
もうちょっと、あともう少し、と我慢しているけど…

「なんだ？ぼーっとして。まだ眠かったか？」

いつの間にかイゾウさんは着替えを終えていて、いったいどれだけ私はぼーっとしていたんだろう。
思わず髪の毛を引っ張ったままという変な格好でイゾウさんを見上げてしまった。
するとイゾウさんは私が何を考えていたのか察したらしい。
私が今日着る分の肌着と長襦袢をクローゼットから取り出してくれて、今だ布団の中の私の上に放り投げた。

「頭、邪魔にならねぇようにしてやるから早く着替えちまえ」
「はーい」

もそもそと布団から這い出て、布団を半分に折ると、イゾウさんはできたベッドのスペースに腰掛けた。
私はそのイゾウさんの背中を見ながら急いで長襦袢まで身につけてベッドから降りれば、イゾウさんも立ち上がって私が着物を着るのを手伝ってくれる。

ちなみにモビーに来て早数ヶ月。
実はもう着物も一人で着れるようになっている。
イゾウさんが遠征に出ている時なんか私一人で着替えているのだ。
だけどイゾウさんがこうしてそばにいる時は毎回手伝ってくれる。

イゾウさんは私にとっても甘々なのだ。

ワックスとヘアピンを駆使して私の頭を整えていくイゾウさんは美容師さんかなにかだっけ？と時々勘違いしそうになるのは仕方がないと思う。