たからもの
502 Unimplemented command.
まだかな……。湯気が立つコーヒーマグを片手に、今度はお茶を淹れる為の湯を沸かしている。レッドは1人、カウンターキッチンに佇んで居た。
こざっぱりとしたキッチンのワークトップ(天板)に用意してあるのは自分が使っている物とは不揃いのマグカップ1つ。現在進行中のミッションはガスコンロの火と土瓶の様子をぼうっと監視するだけのものだ。
「――P.S. 可愛い付箋を見付けたので同封します。良ければお仕事で使ってください。――っと。……いよし!書けたあ!」
達成感溢れる声が耳へ届いて、火の番人は炬燵机の方へ視線を移した。長いこと頭を捻りながら背中を丸めていた彼女、ミミが嬉しそうに両手をぐーんと天井へ伸ばしている。
書き損じたと見えるクシャクシャの紙数個と、折り目のない便箋が数枚。お疲れ、と彼が声を掛ければ彼女は笑顔を見せてくれた。
「画竜点睛!私が昔コレクションしていた切手……ポケモンスタンプがここで火を噴くぜっ!」
「……お手紙、燃えちゃうんじゃない……?」
「んんっ!確かにそうね。火花を散らす、なら焦げ付くくらいかな?“スパーク”させるぜっ!」
机の上で寝ている行儀の悪いピカチュウが、耳だけピクンと動かした。けど夫婦漫才だなと即時に理解して耳を倒す。ピスーとその鼻が鳴いて可愛い。
切手には はっぱポケモン チコリータ。手紙の相手が好きなポケモンの中から選んだようだ。
貼る為の水を貰いにキッチンへ来た彼女から、序でのように一口頂戴と構われて、レッドはうんと一言マグカップをはいと差し出す。
こくりと一服。
美味しいね、ありがとう、早々そう告げて指先に水を取って“とんぼがえり”。
ミミがまた黙々と作業し始めると、代わって土瓶の底がフクフク言い出した。
もう一息だね、頑張って。口にしても差し支えないエールを口にしない男は、僅かに弛緩した表情だけをその横顔へと送り付けて、まだ熱いマグの中身へふぅふぅと息を吹き掛ける。
「あ。あれ……お手紙の料金が値上げされるのって、まだ……だったよね……?」
「……うん。前に、ミミちゃんから……今年の秋以降って聞いたのは、覚えてるけど……?」
「だよね、ありがとう!
よし完璧。住所もチェックしたし、後は出すだけ」
熱ッとなりながらズズズとコーヒーを啜るレッド。
外出の準備をする様子を横目で追っていたところ、待てよ?ぼやいた彼女がバッグと封筒を持ったまま固まったので、?と首を傾げて待つ。
「や……この前、ばぁばに聞いた話を思い出してさあ。郵便屋さんが、荷物を誤配達したり紛失したりしたことがあるんだって。
わ、どうしよう、ポストに出してもきちんと届くか不安になってきた……!」
「………………、行ってきたら?」
「うん。もう、自分でポストインしてくるよっ!」
行ってきますと行ってらっしゃい。キッチンからの見送り。玄関で靴を履く音までは聞こえてきたが、戸が開く音は聞こえてこない。
何故ならば、手紙の送り主はテレポーター。
番犬が郵便屋さんの為のお茶を用意出来た頃には、ただいまとおかえりが聞けることだろう。
猫舌の番犬はコーヒーの表面をふぅと揺らした。
まだかな……。湯気が立つコーヒーマグを片手に、今度はお茶を淹れる為の湯を沸かしている。レッドは1人、カウンターキッチンに佇んで居た。
こざっぱりとしたキッチンのワークトップ(天板)に用意してあるのは自分が使っている物とは不揃いのマグカップ1つ。現在進行中のミッションはガスコンロの火と土瓶の様子をぼうっと監視するだけのものだ。
「――P.S. 可愛い付箋を見付けたので同封します。良ければお仕事で使ってください。――っと。……いよし!書けたあ!」
達成感溢れる声が耳へ届いて、火の番人は炬燵机の方へ視線を移した。長いこと頭を捻りながら背中を丸めていた彼女、ミミが嬉しそうに両手をぐーんと天井へ伸ばしている。
書き損じたと見えるクシャクシャの紙数個と、折り目のない便箋が数枚。お疲れ、と彼が声を掛ければ彼女は笑顔を見せてくれた。
「画竜点睛!私が昔コレクションしていた切手……ポケモンスタンプがここで火を噴くぜっ!」
「……お手紙、燃えちゃうんじゃない……?」
「んんっ!確かにそうね。火花を散らす、なら焦げ付くくらいかな?“スパーク”させるぜっ!」
机の上で寝ている行儀の悪いピカチュウが、耳だけピクンと動かした。けど夫婦漫才だなと即時に理解して耳を倒す。ピスーとその鼻が鳴いて可愛い。
切手には はっぱポケモン チコリータ。手紙の相手が好きなポケモンの中から選んだようだ。
貼る為の水を貰いにキッチンへ来た彼女から、序でのように一口頂戴と構われて、レッドはうんと一言マグカップをはいと差し出す。
こくりと一服。
美味しいね、ありがとう、早々そう告げて指先に水を取って“とんぼがえり”。
ミミがまた黙々と作業し始めると、代わって土瓶の底がフクフク言い出した。
もう一息だね、頑張って。口にしても差し支えないエールを口にしない男は、僅かに弛緩した表情だけをその横顔へと送り付けて、まだ熱いマグの中身へふぅふぅと息を吹き掛ける。
「あ。あれ……お手紙の料金が値上げされるのって、まだ……だったよね……?」
「……うん。前に、ミミちゃんから……今年の秋以降って聞いたのは、覚えてるけど……?」
「だよね、ありがとう!
よし完璧。住所もチェックしたし、後は出すだけ」
熱ッとなりながらズズズとコーヒーを啜るレッド。
外出の準備をする様子を横目で追っていたところ、待てよ?ぼやいた彼女がバッグと封筒を持ったまま固まったので、?と首を傾げて待つ。
「や……この前、ばぁばに聞いた話を思い出してさあ。郵便屋さんが、荷物を誤配達したり紛失したりしたことがあるんだって。
わ、どうしよう、ポストに出してもきちんと届くか不安になってきた……!」
「………………、行ってきたら?」
「うん。もう、自分でポストインしてくるよっ!」
行ってきますと行ってらっしゃい。キッチンからの見送り。玄関で靴を履く音までは聞こえてきたが、戸が開く音は聞こえてこない。
何故ならば、手紙の送り主はテレポーター。
番犬が郵便屋さんの為のお茶を用意出来た頃には、ただいまとおかえりが聞けることだろう。
猫舌の番犬はコーヒーの表面をふぅと揺らした。
おしまい
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