たからもの


 なんでも… 翠が遠くに住んでるお友達に手紙を書くのだとか… 。
えぇそれは良いのですよ、良いことですよね、お手紙をもらう方も嬉しいですしね。
 先日、翠と二人で文房具を見に行って、春らしい可愛らしい封筒とセットになった便箋を買って来ました。
せっかくなのでペンも新しくしたら良いのでは? と言ったら嬉しそうに 『うん! 』 と言って嬉々として選んでおりました。
頬を朱に染めてアレがいいとかコレがいいと、きらきらするペンなどもあって目移りして迷っている翠を見ているのも楽しくて、そんなさまを一番近くで見ることができる幸せを、わたくししみじみと噛み締めておりました。

わたくし世界一幸せであると、えぇとてつもない幸福感にその時は・・・・は包まれておりました。

 その翌日のことです。
「翠、良いお天気ですしお散歩に行きませんか、その帰りに翠の好きなカフェでお茶して帰って来ましょう」
と声をかけたら
「お散歩良いですね、今日は風が気持ち良いですし、可愛いお花の写真送ったら喜んでくれるかな」
との返事が返ってきました。 お手紙を書くと言っていましたものね、色々考えちゃいますよね。
 お散歩がてら春ですし、桜や道に咲く花、お家の花壇にきれいに咲いている花など… 撮るのは良いのです。
そんな写真を撮っている翠も大変可愛らしいでしょうし、それを一番良い席で見られるのはわたくしの特権でしょう。

ですがっ!

「このお花、ミミちゃん見たことあるかなぁ、あるよね。 ミミちゃんはね、ポケモンレンジャーだからあちこちに行ってて知らないことないんですよ、すごいですよね、私はここしか知らないから、いつかミミちゃんのように世界中を旅してみたいなぁ」

とか

「ミミちゃんにお手紙書きたいから、今日はそろそろ帰りましょう」
「ミミちゃんどんなお花が好きかなぁ」
「ミミちゃんにお花送ってあげたいなぁ」
「ミミちゃんにはね、レッドくんていう素敵な人が…… 」
「ミミちゃんが…… 」

もおおおおおお! お手紙を書くと言ってからずっと 『ミミちゃん』 ばかりでございます!
わたくしと一緒にいるのに、わたくしを見てくださらない! わたくしを! 構ってくださいましっ!
相手は女性だというのに、わたくし嫉妬の炎で焼き尽くされそうでございます!
しかもミミさまの恋人はレッドさまですと?!
あのとてもお強い無口なレッドさまでしょうか、でしたらわたくし是非戦ってみたいものですね!
ポケモントレーナー、目と目が合ったらポケモンバトルでございますっ! …… ってそうではなくてっ!

「翠… わたくしミミさまに、お手紙に嫉妬いたします、もう少しわたくしも構ってくださいませ… 」

 ここは素直に淋しいと、構ってくれと言ってみましょう。 翠のことですしきっと 『淋しい思いをさせてごめんなさい』 と言ってくれていつもより甘えても許されるはず。 なんならあんな事やこんな事も出来たり…… 。
「え、えぇ… えと、ご、ごめんなさい… でもあの、お手紙書き終わるまで… もうちょっとだけ… 待ってて、我慢してください、ね? 」
「えっ?! 」
 まさかの翠がわたくしを後回しにっ?!

「そんなっ! わたくしもう随分と我慢しておりますよ! 翠が! 翠が欲しいですっ! 」
「えっ、わ、まって、ノボリさん、どこ触って… ちょ、やぁだぁ! 」

 翠吸いってなんだか言葉がおかしいですね、でも良いのです。
翠を吸えるのはわたくしだけですので、わたくししか使わない言葉ですし。
わたくしがどんな言葉を使っても、翠はわたくしのものですので問題はないでしょう。

── もはやノボリ自身が何を言っているのか著しくわかっていない気がするが、ノボリのことだし、と若干諦め気味にもなる。

 翠が大きさを気にしている胸ではありますが、顔を埋めると弾力があり柔らかい… やはり翠の胸は最高ですね、翠の胸しか知りませんし他を知ろうとは思いませんけれども… 「ん? 」
 翠の柔らかな胸に顔を埋めて、その匂いに、柔らかさに浸っているとペチンと足に何かが当たった感触が。
何かと思い胸から顔を離し、足元を見ると翠の護衛のヒトモシがわたくしの足をぺちぺちと叩いているではありませんか。 ヒトモシには 『翠を守るように』 と言い聞かせているので、それを忠実に守っているのですね。 さすがわたくしが育てたヒトモシです、たとえそれがわたくしノボリであろうとも、翠を守るためなら… 感心な心がけですね。
ですが今はいじめているわけでもなんでもないのです。

「ヒトモシでしたか、翠をいじめているわけではありませんよ、スキンシップです、愛し合っているもの同士の愛の営み… いたっ?! 」
『も、もし? 』
「何言ってるんですかっ! もしちゃんに変なこと教えないでください! 」
「なっ?! 変なこととはなんですか! 翠がわたくしに反抗するなんてっ! 」

「もう言ってることがめちゃくちゃですよ! … す、好きのはノボリさんだけ、ですよう… ミミちゃんに書くお手紙に嫉妬しないでください、書き終わったらたくさんお話ししましょうね、だから… 「書き終わったらたくさんイチャイチャしましょう、今度のお休みなんならおうちに篭って朝から晩まで翠と抱き合っていたいです、ずっとずっと抱き合って愛を確かめたいです」

「何恐ろしいこと言ってるんですか… 朝から晩まで愛し合うとか… わ、私が死んじゃいます! 」
「だって今好きなのはノボリさんだけって言ったではないですか! 嘘なんですかっ?! 」
「嘘なんて言いません! お友達にお手紙を書いてるだけですって… ね、あとちょっとだから、待ってて欲しいな」
「ああもうくっそ可愛いんですよ! 貴女は! わかりました、待ちます、ですが終わったらお休みの日の一日本当にわたくしに付き合ってくださいませ! デートしましょう、全てわたくしに任せていただけるデートがしたいです! 」

「… え、あ、で、デート… そ、それでいいなら、ノボリさんが、満足するまで付き合いますよ… でもあのほどほど…… お、お手柔らかに、お願いします…… 」

「もちろんでございます! 翠に無理をさせたいわけではありません! 約束ですよ、わたくし完璧なデートプランを立てて見せます。 翠がお友達にお手紙を書いている時間にデートプランを練りますね、ではわたくし失礼致します」

── そうして嬉々としてノボリは部屋を出て行ったが、約束したとはいえ若干の不安と恐怖を翠が抱いていたなどとは、ノボリはこれっぽっちも考えもしていなかった。


── 終?



 それから数日後、あるお宅に春らしい可愛らしい封筒に入った 1通の手紙が届いた。

「わー、翠ちゃんからお手紙届いたよ、一緒に読も? 」

 そうして届いた手紙をミミちゃんとレッドくんが読んでいる頃、翠は約束通りにノボリと一日デートをしていたのだが…… あの時翠が感じた不安と恐怖がある程度的中したなどと、微笑ましく手紙を読んでいる二人には知るよしもなかった…… 。


── 終
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