たからもの
***キバナ***
チャンピオンダンデに挑むためにはまずオレ様を倒さなくてはいけない、けれど、オレ様の前にチャレンジャーが来ることがそもそも少ない。
ダンデがチャンピオンになり、数年経つがダンデに挑戦出来た奴はオレ様を含めて片手で足りるくらいしかいない。
ダンデを倒すのはオレだ!だからオレの前に立ちはだかる奴はどんな奴でも倒して来た、手を抜いては失礼だろうとどんな相手でも全力で倒して来た。
そして今年のチャレンジャーは─────
普通はダンデを倒して自分がチャンピオンに!が最終目標なはずなのだがこいつは違った。
毎年毎年挑戦するけれど、こいつが目標としているのはダンデではなく……オレ様だった。
「お前毎年よくここまで来るよな」
「そりゃもう!誰に密かに特訓されてたと思ってるん?あのドラゴンストームキバナ様だよ!最後までいかなきゃ合わせる顔もないでしょうよ!」
「……そしてそのドラゴンストームキバナ様に食ってかかるのな?」
「キバナに勝って!私がキバナより強いんだってガラル中に知らしめるんだ!」
「ほっほう、随分調子ん乗ってんな?その鼻へし折ってやるよ!そして万が一お前がオレ様に勝ったら、なんでもひとつ言うこと聞いてやるよ!」
「言ったな!だったら私が負けたら私もキバナのお願い事、ひとつだけ叶えてあげるよ!」
そうして目の前にいるのが幼馴染で、密かに想いを寄せている相手だとは誰も思うまい。
どれだけお前と一緒にいてお前を見て来たと思ってんだよ、この鈍ちん娘は!
───………
「キバナってモテるのになんで彼女とか作らんの?」
ほんと直球で来るっていうか、ズバッと抉ってくるっていうか……これ絶対自分がその対象だって思ってないってことだろ。
「めんどくせぇじゃん?……それに、そんな好きな奴とかいねーし」
その時は適当にそう答えてしまったけど、その時に『お前が好きだから』て言えてたら何か変わってただろうか。
………───
「キバナぁ!よそ見してる暇なんてないよ!」
あいつがオレ様に向かって全力でバトルを仕掛けてくる。
このバトルのビリビリした感じが大好きだ。
チャレンジャーとしてジムリに挑戦した時も、同期と戦った時も、ダンデに挑戦した時も、このバトル前の雰囲気と熱気と緊張と迫力に五感全て持っていかれて、それにしか目がいかずあり得ないほどの集中力にもう相手に勝つことしか考えられなくなる。
なのに!
お前が目の前にいるとどうしてもお前を傷つけてしまうんじゃないかって思ってしまう。
お前をまた泣かせてしまうんじゃないかと思ってしまう。
……──
初めてお前と一緒に野良でポケモンバトルをした日のことだ。
オレ様は7歳でバトルセンスもあると褒められていて、イキって調子に乗っていた頃だった。
お前は5歳になったばかりで初めてのポケモンを連れて近くの公園へ一緒に出掛けたんだ。
年上も年下も入り混じってバトルをしていたあの公園で、運の悪いことに柄の悪い奴に絡まれた。
噂で聞いたことがあったけど、まさか自分が遭遇するとは思わなかった。それでも調子に乗っていたオレ様は『お前はオレ様が守ってやるから安心しろ!』なんて言って、相手を挑発してしまった。
奴は確かに年上だった、けれどジムリの門下生にも勝てていたオレ様が負けるビジョンなんてこれっぽっちも想像つかなくて、初めての敗北を味わった。
ポケモンは皆瀕死で泣きながらモンスターボールに戻してポケモンセンターへ行こうとしたら捕まってしまった。
「ぼくぅ、オレ様が守ってやるから、とか言ってたっけぇ?ふーん……幼女を痛めつける趣味はないけど、俺を怒らせた報いは受けてもらわないとなぁ?」
そう言って男がロベリアを担ぎ上げた。
「うわーん!キバナ兄ちゃん!こわいよー!あああああん!」
「なっ?!ロベリアは関係ないだろう!」
「お前を痛めつけるより、お友達を痛めつけた方がお前は堪えるだろう?」
そう言って男は懐からナイフを取り出して、それをロベリアの肌にぴたりと当ててこちらを見てニヤリと笑った。
「うわああああああ!!」
足も体も怖くて震えてどうしようもなかったのに、その時はロベリアを守らなくちゃとものすごい速さでその男に体当たりをかましていた。
男はひっくり返って、その衝撃でロベリアから手が離れて転がり落ちた。
慌ててロベリアの手を取って走り出そうとしたら、男に足を掴まれて今度はオレ様がひっくり返った。
逆上した男がナイフを振り上げていたのが見えて「あぁオレ様これで終わりか」と妙に達観した思いを抱いた。
「キバナ兄ちゃんをいじめるなぁ!」
男のナイフがオレに到達するかと思ったその時、ロベリアが思いっきりオレを突き飛ばした。
5歳児の、しかも女の子のどこにそんな力があるのかと思うくらいそれは強く強くオレを突き飛ばした。
その反動で、ロベリアがナイフの前に躍り出ることになり…… ロベリアの額に細い長い傷を付けることになった。
頭から血を流すロベリアを見て血の気が引いた。
曲がりなりにも公園内での出来事だったから、他の子達がジュンサーさんやジョーイさんを連れて来てくれてそれでなんとか終わったけれど…… ロベリアには心にも体にも消えない傷をつけてしまった。
オレがイキったことでロベリアに迷惑をかけた、消えない傷をつけた、オレが受けるはずの傷を負わせてしまった。
ジムリの門下生に勝とうと、年上のトレーナーに勝とうと、大事な幼馴染を傷つけてしまったことがショックでポケモンバトルを辞めようかとすら思って、家に引きこもって外に出るのが怖くなってしまった。
そんなオレにロベリアが泣きながら「キバナ兄ちゃんはそんな弱虫じゃない!」って言ってくれた。
「キバナ兄ちゃんに勝つのがロベリアの目標なんだから、それまでバトル続けてよ!」
自分が一番怖い思いをして、傷ついたって言うのに、お前はオレを奮い立たせようとしてくれた。
5歳の女の子に、だ。
それからだ、今度こそぜったいにお前を守る、お前に害を為すものはオレ様が全て排除してやると固く誓ったのは。
どんなに厳しい修行にも耐えた、どんな天候にも対応できるようにワイルドエリアで雨風に打たれながらどうしたらいいか悩み考え実践してきた。
そうしてドラゴンジムで修行して、ジムチャレンジに挑戦して、いつしかジムリーダーになるまでになった。
ロベリアは自分のことのように喜んでくれたけれど、ジムリになるのが目標だったわけじゃない。
お前を守れる強さがあればそれで良かった。なのにいつの間にかチャンピオンダンデの永遠のライバルだなんて謳われて、それが見世物のようにテレビに流れるようになった。
有名になりたかったわけじゃない!お前を守りたかっただけなのに!
「キバナに挑戦するために今年もジムチャレ挑戦するね!」
そう言って毎年ジムチャレに参加して、そしてオレ様の前までやってくる。
いつしか「兄ちゃん」と呼ばなくなった。確かに本当のきょうだいじゃないんだから当たり前なんだが、それが特別であって嬉しかったのも事実だった。
──……
「吹けよ風!呼べよ砂嵐!」
「キバナの天候対策してきたんだから!今年こそ絶対に勝つ!」
綺麗なグラデーションが入った紫色の長い髪が風に靡く。
その髪を風に舞わせているのはオレ様のポケモンの技で、その舞っている様がいつも綺麗だなと思って見ていた。
バトルをする時のその瞳には闘志が宿り、その瞳と目が合うとゾクリとして言い知れぬ想いが込み上げる。
お前を守りたかった、お前を守りたい、お前を泣かせたくない、お前を笑わせたい、お前と共に歩んでいきたい。
それは願っても良い事なのか、胸に秘めておかなければいけない想いなのか、お前と対峙するといつも悩み考える。
お前はいつも真っ直ぐにオレ様を見据える。その瞳に責められているようで、許されているようで、複雑な思いを抱く。
今年は一歩前へ進みたい、オレ様の想いをお前に伝えたい、お前はどう思ってくれるだろうか。
お前の笑っている姿が、万が一これを最後に見られなくなるとしたら……オレ様が生きていく理由もなくなるな、などと思いながらも、全力でお前を倒してお前を手に入れる!と訳のわからない事も思ったりした。
そうだ、オレ様はお前と共に並んで生きていくこれからを手に入れる!
そうしてチャレンジャーロベリアと、ナックルシティジムリーダーキバナの戦いが始まった。
──ジムチャレンジャー控室
「うあああああ!!もうちょっとだったのにいい!!なんでだ!なんでキバナに勝てないんだああ!」
「お前、毎年それ言ってんなw」
「だって!何のためにドラゴンストームキバナ対策してると思ってるのさ?!キバナ本人相手に幼馴染特権使いまくって対策してるのに、いま一歩で勝てないとかあああ!!ぐやじいいいいい!!」
控室のベンチに転がってジタバタと暴れるロベリア。
お前がオレ本人でキバナ対策をしているなら、オレ様もロベリア本人で対策してるって気づかないもんかね?
ちょっと足りないオツムなロベリアも好きだったりするけれど。
「うがあああ!!」
ロベリアがあまりの悔しさに頭を掻きむしってぐしゃぐしゃにする。
いつもならサラリと落ちる前髪が、汗で張り付いてあの時の傷を光の元に晒しだした。
ロベリアと対峙するといつも思い出すし、忘れることのなかった傷、忘れるわけがないオレ様を庇ってついてしまった傷。
ロベリアの隣に座ってその傷をそっと撫でると、ロベリアが驚いてベンチから起き上がった。
「……………ごめん……………」
そう呟いて思わずロベリアを抱きしめる。
驚いて最初暴れていたロベリアが、オレ様が何を思ってこうしたのかを慮ってくれて大人しく抱きしめられてくれていた。
*** ロベリア***
キバナはいつまでこの傷の後ろめたさを抱えて生きていくのか。
キバナに勝って『これはもう忘れろ!これはキバナのせいじゃない!』て言いたいのに、肝心のキバナに勝てなくて言い出せないでいる。
もうこの際、勝てなくても言うべきか……言うべきだろうな……。
でも、この状況を手放したくないと思う私もいて躊躇ってしまう。
キバナが好きだ、小さい頃から好きだった。
だけどあの日、私の額に傷をつけたあの日からキバナは変わった。
『今度こそ何があってもお前を守る!』
そう言って修行して来たのを知っている、私はそれを見て来た。
私のためだっていうのが最初は嬉しかった、年数が経つにつれそれが枷になっていることに気がついた。
きっと私が『キバナが好きだ』と言えば、キバナは『お前の望むままに』と言うだろう。
それは私が好きとかではなく、私についてしまったこの傷が言わせている。
違うそうじゃない!傷があってもなくても、キバナには私自身を見て欲しいのに。
この傷がある限り、キバナは私の言うことを聞くだろう……それでいいと思った時もあった、けれど……それじゃあ、キバナも私も辛いだけだと気がついた。
『これはキバナのせいじゃないよ』って何度言って来たかわからない。
でもその度に辛そうに寂しそうに笑うんだ。キバナのそんな顔本当にもう見たくないんだ!
だから!キバナに勝ってキバナに想いを伝えて、キバナに私のことを忘れてもらう、そして私もキバナのことを忘れようと思う。
幼い頃のあの事件が、この傷が、キバナと私を縛り付ける。
年だけとって、体ばかり成長して、心が精神がそれに伴わない。
伝えて、吹っ切って、吹っ切れて、そして新しい道を進みたい。
だから!今年こそ勝つって決めて、どんなに辛い修行にも耐えて来たのにっ!
私の傷を見て、キバナが私を抱きしめる。
そして「ごめん」と呟く。キバナを縛り付けているのはこの傷だ、この私だ。
また勝てなかった……もうダメかもしれない、もうガラルにいてはいけないのかもしれない。
旅に出ようか、ホウエンがいいかな、シンオウやイッシュもいいな……南の国アローラも捨てがたいな……もう私はキバナの前に現れないように遠くへ行こうと思う。
お互い忘れよう、忘れたい、新しい一歩を……お互いに踏み出そう。
キバナに負けた瞬間にそう思った。そしてそれをいつ言おうか悩んでたけど、今言っちゃってもいいかな、いいよね。
「……キバナ、あのね……」
言おうとしてそれを片手で止められた。
「なんでもひとつお願い事聞くって約束したよな?」
へ?……あ、あぁそういやそんな事言ったっけ。
「それが今キバナに負けたばっかの相手に言うセリフかよ……でもま、約束だし、いいよ、女に二言はない!」
「よし言ったな!じゃあオレ様と付き合ってくれ」
「……………は?……………あ、あぁ、バトルに付き合えってこと?いいよそれくらい」
バカなセリフと間抜けヅラを晒したと思う。
「違う!オレ様と男女の関係に、恋人同士になってくれってことだよ!わかれよ!」
「……………は?……………」
またしても同じセリフを吐いてしまった。
キバナのセリフを聞いて、もう一度脳内で反復して、さらにそれを理解するのにほんの数秒の時間を要した。
そして私が出した結論は
「……嫌だ……」だった。
「なんでだよ!お願い事ひとつ聞く約束だろう?!……っておい!泣くなよ!」
く、悔しい、悔しくて泣ける、キバナの前で泣いてしまうとかとんだ醜態を晒してしまっている。
けれど涙が止まんない!悔しい!
「これだろ!これで私のことを可哀想だとか思うんだろう?!そんなんごめんだ!キバナがそんな男だったなんてっ!」
前髪をあげて傷跡を見せる。その傷跡を見てキバナが複雑な表情を見せる。
ギリリと歯が軋む音がする。やっぱり、やっぱりそうなのか!悔しい、悔しくてたまらない。
「私はこれが終わったらガラルを出るんだ!旅に出る!もう決めた!今決めた!」
涙が次から次へと溢れ出す。もうどんな情けない姿を晒してもいい、言いたいことを言って姿を消そう、そう決めた。
「見損なったよ!こんな傷ひとつでキバナがそんなことを言うなんて……私はそんな程度の女なのか!そんなお情けで付き合ってもらおうとか思わせるほど可哀想な女なのか!心外だ!」
他の誰に『女の子なのに可哀想』と思われても気にしなかった。この傷は消せないしキバナを守って出来た傷というのが私には誇らしかったから。
「長年想ってた男がこの程度だなんて!私の10年を返せ!お前を想い続けた私の10年を返せ!」
なのに、当のキバナはそれを気にしていたのかと思うと、怒りと情けなさと悔しさと、もはやよくわからないぐちゃぐちゃな感情に支配されて言わずにはいられなかった。
いつも強くて豪快に笑っている私のままでキバナの前から立ち去りたかったのに。
最後くらい綺麗に格好つけたかったのに。
もはや自分でも何を言っているのかわからなかった。
とにかく悔しかった。この傷の責任のためだけに付き合おうとか思われてるだなんて、キバナは、キバナだけは私を見てくれていると思いたかったのにっ!
「ちょ、ちょっと待て!それってお前……オレ様のこと、ずっと好きだったってこと?」
「……………は?…………?!」
今日何回目だ、このセリフ?
なんて言った今?『オレ様のこと、ずっと好きだったってこと?』誰が?私が?そんなこと言ってないよ、言わないでおこうとおも……思って、思ってたああああ!!いや今勢いで言ってしまった気がする?!
ハッとしてキバナの顔を見ると、ニヤニヤしながら私を見ていて、褐色の肌のくせに赤くなってるのがわかるくらい照れてやがる。
「ちっ!違う!キバナなんて……き、きばな……なんて……」
嘘でも『嫌い』だなんて言いたくない、言えない……どんだけお前のこと好きだったと思ってんだ……。
「キバナなんて、なに?」
嬉しそうな顔で、嬉しそうに聞いてくるのめちゃくちゃムカつく。
バトルでも、口でも勝てないとか、ムカつくことこの上ない。
「……その傷の、責任とってやるよ、て言われたら……引っ叩こうかと思ってたし、今もそのムカつく顔すごく引っ叩きたい。傷があってもなくても、私はずっとキバナが好きだった!だから!キバナを庇って出来たこの傷は私の勲章、なっ?!」
「オレは!……傷のせいで責任取るって言ったら、お前の性格上絶対嫌がると思ったから……!ずっと言えなくて……ごめん……意気地なしで……」
そう言ったかと思うと、頬に手を当てて顔を寄せてくる。
ちょっと待て!これはまさか……キスしようとか思ってる?!
いやいやいやいや嫌いじゃないとか、両思いだとか関係なくだな、これは流石に……
「……………だ、だからって、キスするのはまだはやーーーーーいっ!!」
バコン!と良い音と立てて私のグーパンがキバナの顔面に炸裂した。少し鼻潰れた?多少潰れてもイケメンだから大丈夫だよね?
その拍子にパッと手を離され体が自由になった、いきなり自由になったからふらふらと足がもつれてペタンと座り込んでしまった。
キバナはというと、顔を両手で隠してうずくまっている……んん……やりすぎたかな?
そのままの体制でずりずりと近づいて「ご、ごめん……」と言いながらそーっと顔を覗き込むと
「……キバナ様の顔面にグーパンをお見舞いできる女はお前くらいじゃないかって思うぜ……」
なんて言いながら涙目の瞳をこちらに向けて悪態をついた。
「い、今のはキバナが悪いでしょう?!いきなりは……嫌だ……」
「えー両思いの男女がする事ってキスからじゃねーの?」
「なんでだよ!ま、まずは、手!手を繋いだりとかじゃねーの?」
ありえないくらい顔が熱い、今絶対顔真っ赤だ、やばい。
「……………ぶはっ?!ロベリアって意外と乙女チックなのな!w」
キョトンとした顔をしていたかと思ったら、いきなり吹き出して今度は腹を抱えて笑い出した。
しかも事もあろうに『乙女チック』とか言いやがる!
く……いいじゃんかよ!それくらい夢見たって!
「く……き、キバナのバカっ……!」
恥ずかしさでせっかく止まった涙まで出て来た、ダメだ、これ以上こんな事してたらいいように言いくるめられてしまって、私のアホさ加減がキバナにバレてしまう。
「う、うるさい!キバナなんて……」
もう今日は同じセリフのオンパレードだ!キバナのせいだ!
「なんて」の続きが言えない、嫌いだなんて思ってもないことは言えない。
「……なに?オレ様のこと嫌いになった?」
ニヤニヤしてやがる、めちゃくちゃムカつく、くっそ……何かひとつでいいから、一度でいいからキバナをギャフンと言わせたい。
と、ふと前に友人が『男がキュンとする◯◯』とかの特集を組んでいた雑誌を読んでて見せてくれたことがあったのを思い出した。
その時は話半分で聞いてたけど、多分こんな感じ……というのを実践してみることにした。
「……き、嫌いになんて、ならないよ……ずっと、ずっと好きだったもん……キバナのおバカ……イジワル……」
『涙目の上目遣いで、少し頬を染めて好きって言えば男なんてイチコロよっ!』って友人も言ってた気がする。
恥ずかしい思いなんてもう今いいだけしたんだ、今更これくらいどうってことない!これで少しでもキバナが怯んだらそれだけで溜飲を下げられる!
そう思って言ったセリフだった。
すると褐色の肌が真っ赤になってるのが見て取れる。目は潤んで驚いてる。口元を押さえてよろよろと数歩後ずさる。
思った以上に『効果は抜群だった!』
私の勝ちだ!やった!ポケモンバトルでは勝てなかったけど!今この時、私は初めてキバナに勝っ……たああああ?!
間近でキバナの顔を、その驚いた顔を覗き込んでやろうと思って、喜んでキバナに近寄ったら、またしても腕を取られて抱きしめられた。
クソこいつなんでこういう事すんだ?慣れてんのか?知ってる限りじゃお付き合いしてた人とか知らないのに!
「そんな可愛いこと言われて、オレ様が黙ってるとでも思ったの?覚悟しろ、もうぜってぇ離さねぇしどこにもやらねぇ!」
さっきとは違う力強さで腕を押さえられると、キバナの顔が近づいてきて─────……………
「き、キバナのあほーーーーーーーーーーーーーっ!!」
チャレンジャーの控え室からそんな叫び声が聞こえたかと思うと、顔を真っ赤にしたチャレンジャーが泣きながら走り去っていくのを大会関係者数名が目撃していた。
それを追いかけるように控室から出てきたキバナの頬にバッチリ紅葉マークがついていて『セクハラ』疑惑が浮上したのは言うまでもなかろうか。
そのセクハラ騒動の真相は後日二人がマスコミの前で『交際宣言』をするまで続いたという……。
マサルがチャンピオンダンデに勝利する三年前のことだった。
──終
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