Geschichte

わんわんな関係

道路脇に停車している四輪駆動車、がるがる唸る車の中に忠犬一人、主人待ち。大尉は運転席から外を眺めていた。
そこに見えるのは老舗の雑貨屋、そこから出てきたのは親子だろうか。父の傍ら笑顔の花を咲かせる娘はぬいぐるみを大事そうに抱きかかえて
ありがとう!
大好き!
と大喜びの様子。
その明るい景色が穏やかに視界を流れていった後、何気なく動いた視線は助手席へ。
幼い恋人の定位置に、今は黒やぎさんが座っている。質のいい素材で作られたふわふわ毛並は新しい。
首に結んだ絹の蝶々は赤色。既にシャンとなされているそれを整え直してみるけれども、当然ながら大した変化はない。大尉は視線を元に戻した。
しばらく待てば街の音の中に太い足音が聞こえてきて、更に待てば主人登場。緩慢な動きで後部座席に乗る少佐を後鏡で確認する。

「遅くなった。早く帰ろう」

大尉は隣を一瞥して加速板に足を乗せた。

――――……

……――――

「Feuer!」

部屋に入るや否や少女襲来。衝撃は真下から。踏切、跳躍、見事、少女のたいあたりが高い所にあるその胸へ命中する。
ガシッ!!ガンッ!!
逃げず、避けず、勢い余った弾頭が顎下を強打しても何事もなく、相も変わらぬ仏頂面の兵士は幼稚な伏兵の体を抱きとめた。
尻尾が嬉しそうに揺れる。
笑顔は眩しく今日も今日とて少女は無条件に愛らしいのである。

「大尉、おかえりなさいっ」

帽子の上からご褒美のなでなでを。しかしそうしてずれた帽子にはお構いなしに少女は床へずりずり滑り着地した。
その足下を見れば毛布と懐中時計、いくつかの絵本が置いてある。大尉が帰ってくる扉のすぐそこで待っていたようだ。
帽子の位置を戻した大尉は少女と目を合わせて無言。伸ばした五指は低い所にある頭の上に置かれる。

「どうぞ」

尻尾を振ってお返事。人の太腿に手をつきぐぐぐと踵を上げるその姿は立ちかかる四足動物仔犬そのもので、その様はいじらしい。

「いっぱいね、いっぱいしてね」

頼まれなくてもそうしただろう。狼男は仔犬を思う存分にわしわし撫でた。
白手袋の指先に生糸を感じながら、それが乱れてしまおうが無関心な大尉は少女の髪を綿飴にして。少女は楽しげに目を閉じていた。
Maeuschen
そう呼ぶと瞬くのは鼈甲飴を宝石にしたような甘々と熱した瞳。
少女は頭を振るい、顔のあちこち好き放題にかかった髪を払う。

「Wau!呼ばれた。なにかな大尉」

ENDET NIE
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