Gotcha!
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レッドのおかいもの
「じゃーな。ちゃんと買って来いよー。俺は喫煙所に居るからなー」
「………………」
二つ指のピストルでこめかみを撃ち抜く気障なジェスチャー。レッドの親友グリーンは、足が重そうな彼を置いてその場を去って行った。
取り残されたレッドは手を振ることも表情を変えることもせず、見送りも漫ろに斜め後方を見上げる。
アローラの夜の始まりに灯る温かな文字。清い白色のライトが象る店の名前何ぞに関心はないが、友の紹介を思い返せばカントー系のドラッグストアだとわかっただろう。
「………………。……はぁぁ………………」
彼にしては珍しく大きな溜息を一つ吐いて、でも次にすぅぅっと吸って背に腹は代えられぬと腹を括った。
先に断っておくけども、今回の雑記はこの偉丈夫が怪我を負った話でも病気に罹った話でもないので、その点は安心して頂きたい。勿論、連れのポケモン達も元気いっぱいだ。
「………………行こう………………」
レッドの声に気力がないのはここにミミが居ないことも一因としてあるにはあるが、元々こいつはこういう奴なのだ。だから大事ない。
ピ、と短く鳴くのは彼のピカチュウの癖。指定席の黄色いボディバッグの上、背中合わせの相棒はいつもの調子で応答する。ぼそぼそと喋る男の声を集めるためだけに立てられたその長い耳は、用が済んで倒される際にもペチンペチンと、それはもう遠慮なく男の頭を叩いていった。
「ほら……シショーも………………」
何が面白いのかミミのムウマージはニマニマと目口そして体全体で弧を描きつつ浮遊している。
湿気た面の真ん前に、自由人成らぬフリーダムなポケモンが居る理由は良いとして。何がどう面白いのか、そっちの理由も知っている青少年は顔を赤くしながらゴシップガールを睨め付けた。効果がないみたいだ。
「………………………………」
この睨めっこは“♪笑うと負けよ”じゃない自分ルール。一向に負ける気がしないムウマージ。
それがどうした。今宵の相手はかたやぶりクリムガン基レッド、相手が悪かった。むんずと尾ひれの先っぽを鷲掴まれ道連れにされてしまう。
「……シショーも行くよ」
あ~れ~と宣うおちゃらけオバケだが、別に、連れて行かれなかったら連れて行かれなかったで、どっち道付いて行くけどもね、勝手にね。
「………………………………」
絶賛開放中のドアを潜って店の中へ。目的地が表示される便利機能付マップアプリ店内バージョンなんてものはなくて、初来店で物の在処がわからない彼は虱潰しに探すことに。
ここのスタッフはカントー圏の人達だから尋ね易かろうよ。グリーンが話していたがそれはレッドに取って自爆も同義の最終手段だ。使うには相応の覚悟を準備する必要がある。
「………………」
右を見て左を見て右を見て、先ずは人の確認。取り敢えずレジから遠い方へ移動する。心拍数に釣られて早足になりそうなところを、平常心を意識しつつ進む。
「………………」
風邪薬等医薬品の棚にはポケモン用の薬も揃っているし隅にはカントー系ドラッグストアらしく漢方薬も見受けられた。
ゲーマーにもお勧めの目薬や、他にはカビゴンのイラストがパッケージを飾るホットアイマスクも。
「………………」
化粧水、乳液、スキンケアコーナーには日焼け止め化粧品があり、ピカチュウデザインのパッケージが目に入る。しかし肌に鈍感な男には無用の長物、ここは一旦無視する。
「すみませんお客様、少し、宜しいでしょうか……」
「――ッ?!」
遂にレッドは店員に話し掛けられてしまった。
宜しくない!
右往左往する彼の目とは真逆で店員の目は確と彼を見詰めている。どこをどう見てもレッドに用があるようだった。
「あの……誠に申し訳ありませんが、当店はポケモンの入店をお断りしておりまして……ポケモンアレルギーをお持ちのお客様がいらっしゃらないとも限りませんので……」
キョロキョロし過ぎて不審に見えたとかではないらしい。腰の低い店員から丁寧に説明を受ける。
今回ばかりは自分を見られたくない人を見ていられないその客は、赤い帽子のつばを僅かに下ろす。視線は斜め下、目は合わせていない。
「……は、はい……すみません……で、では……出直して来ます……」
「えっ?いえいえ!この場でボールへ戻して頂ければ
人の話は最後まで聞かず一目散にUターン。
バッグの上のピカチュウは面相こそ悪いが、対人コミュニケーション弱々な愚人に代わり頭を下げバックアップ中。
どうせまた直ぐに戻って来なければいけない、そう理解していたとて、男はスタート地点へ逃げ帰った。
「………………。……はぁぁぁ………………」
相棒に肩を叩かれながら、その相棒をモンスターボールへ戻すレッド。もう1匹も、とミミから預かったダークボールを取り出すが。奴の姿が見当たらない。
「……シショー……?」
気配がする方、己の足から伸びる影へその名を呼び掛ければ、一つの眼が影に浮かんだ。抜け穴なのじゃ、とケケケと抜かす一つ目。
世話好き彼女に似て非なる世話焼きムウマージ、でも正直助かる。影はそのままにしておこう。1人では心許ないレッドは師匠の遣り口を黙認する。
「………………。リトライするかぁ……」
彼女の為だからと好きな人の名前を出されたら、旅の恥は掻き捨て、足が凍り付こうと何だろうと踵を返すしかなかった。
「じゃーな。ちゃんと買って来いよー。俺は喫煙所に居るからなー」
「………………」
二つ指のピストルでこめかみを撃ち抜く気障なジェスチャー。レッドの親友グリーンは、足が重そうな彼を置いてその場を去って行った。
取り残されたレッドは手を振ることも表情を変えることもせず、見送りも漫ろに斜め後方を見上げる。
アローラの夜の始まりに灯る温かな文字。清い白色のライトが象る店の名前何ぞに関心はないが、友の紹介を思い返せばカントー系のドラッグストアだとわかっただろう。
「………………。……はぁぁ………………」
彼にしては珍しく大きな溜息を一つ吐いて、でも次にすぅぅっと吸って背に腹は代えられぬと腹を括った。
先に断っておくけども、今回の雑記はこの偉丈夫が怪我を負った話でも病気に罹った話でもないので、その点は安心して頂きたい。勿論、連れのポケモン達も元気いっぱいだ。
「………………行こう………………」
レッドの声に気力がないのはここにミミが居ないことも一因としてあるにはあるが、元々こいつはこういう奴なのだ。だから大事ない。
ピ、と短く鳴くのは彼のピカチュウの癖。指定席の黄色いボディバッグの上、背中合わせの相棒はいつもの調子で応答する。ぼそぼそと喋る男の声を集めるためだけに立てられたその長い耳は、用が済んで倒される際にもペチンペチンと、それはもう遠慮なく男の頭を叩いていった。
「ほら……シショーも………………」
何が面白いのかミミのムウマージはニマニマと目口そして体全体で弧を描きつつ浮遊している。
湿気た面の真ん前に、自由人成らぬフリーダムなポケモンが居る理由は良いとして。何がどう面白いのか、そっちの理由も知っている青少年は顔を赤くしながらゴシップガールを睨め付けた。効果がないみたいだ。
「………………………………」
この睨めっこは“♪笑うと負けよ”じゃない自分ルール。一向に負ける気がしないムウマージ。
それがどうした。今宵の相手はかたやぶりクリムガン基レッド、相手が悪かった。むんずと尾ひれの先っぽを鷲掴まれ道連れにされてしまう。
「……シショーも行くよ」
あ~れ~と宣うおちゃらけオバケだが、別に、連れて行かれなかったら連れて行かれなかったで、どっち道付いて行くけどもね、勝手にね。
「………………………………」
絶賛開放中のドアを潜って店の中へ。目的地が表示される便利機能付マップアプリ店内バージョンなんてものはなくて、初来店で物の在処がわからない彼は虱潰しに探すことに。
ここのスタッフはカントー圏の人達だから尋ね易かろうよ。グリーンが話していたがそれはレッドに取って自爆も同義の最終手段だ。使うには相応の覚悟を準備する必要がある。
「………………」
右を見て左を見て右を見て、先ずは人の確認。取り敢えずレジから遠い方へ移動する。心拍数に釣られて早足になりそうなところを、平常心を意識しつつ進む。
「………………」
風邪薬等医薬品の棚にはポケモン用の薬も揃っているし隅にはカントー系ドラッグストアらしく漢方薬も見受けられた。
ゲーマーにもお勧めの目薬や、他にはカビゴンのイラストがパッケージを飾るホットアイマスクも。
「………………」
化粧水、乳液、スキンケアコーナーには日焼け止め化粧品があり、ピカチュウデザインのパッケージが目に入る。しかし肌に鈍感な男には無用の長物、ここは一旦無視する。
「すみませんお客様、少し、宜しいでしょうか……」
「――ッ?!」
遂にレッドは店員に話し掛けられてしまった。
宜しくない!
右往左往する彼の目とは真逆で店員の目は確と彼を見詰めている。どこをどう見てもレッドに用があるようだった。
「あの……誠に申し訳ありませんが、当店はポケモンの入店をお断りしておりまして……ポケモンアレルギーをお持ちのお客様がいらっしゃらないとも限りませんので……」
キョロキョロし過ぎて不審に見えたとかではないらしい。腰の低い店員から丁寧に説明を受ける。
今回ばかりは自分を見られたくない人を見ていられないその客は、赤い帽子のつばを僅かに下ろす。視線は斜め下、目は合わせていない。
「……は、はい……すみません……で、では……出直して来ます……」
「えっ?いえいえ!この場でボールへ戻して頂ければ
人の話は最後まで聞かず一目散にUターン。
バッグの上のピカチュウは面相こそ悪いが、対人コミュニケーション弱々な愚人に代わり頭を下げバックアップ中。
どうせまた直ぐに戻って来なければいけない、そう理解していたとて、男はスタート地点へ逃げ帰った。
「………………。……はぁぁぁ………………」
相棒に肩を叩かれながら、その相棒をモンスターボールへ戻すレッド。もう1匹も、とミミから預かったダークボールを取り出すが。奴の姿が見当たらない。
「……シショー……?」
気配がする方、己の足から伸びる影へその名を呼び掛ければ、一つの眼が影に浮かんだ。抜け穴なのじゃ、とケケケと抜かす一つ目。
世話好き彼女に似て非なる世話焼きムウマージ、でも正直助かる。影はそのままにしておこう。1人では心許ないレッドは師匠の遣り口を黙認する。
「………………。リトライするかぁ……」
彼女の為だからと好きな人の名前を出されたら、旅の恥は掻き捨て、足が凍り付こうと何だろうと踵を返すしかなかった。
おしまい