Gotcha!
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レッドに黙られる
「その服で行くのか……?」
「え……変かな」
到着前に着衣水泳を楽しんだレッドは自前の服に着替えていた。好きな人に会うんだから、とアドバイザーに薦められて買った服は潮水を貯水してしまって使い時ではない。
ジーンズにTシャツ。以上。
そのTシャツがシンプルだったならまだしも、何を模しているのか不明なプリントが絶妙に微妙だった。
「もう時間ねーし、仕方ねーか」
そう、時間だ。遂にアローラ地方に上陸する時が来た。
日の光が降り頻り、元気なツツケラの語らいが聞こえる中、2人は弾む足でタラップを下りる。向こうに別の2人組が待っている筈。
「到着っ!アローラ!」
「!」
南国に立ったグリーンは常夏の空気を味わいながら辺りを見渡した。後ダイゴを探す。
一帯は船客とその歓待で賑やかだ。
動かない横の奴に、おまえも探せ、と言いかけて彼は異変に気付く。顔を覗くと鼻が赤いし気のせいか目が潤んでいる。泣いてはいないようだが、しかしそれでもそいつのそんな表情を見るのは初めてだった。
動かさない視線を辿ればスーツ姿のダイゴを見付ける。では、その隣の女の子がレッドの――。
「レッドくん!」
人波の中を通る声。ミミもまた、客人を探し出したところだった。踵を浮かせまでして大きく手を振る。
レッドは感無量だった。怪物めいた直感力を持つレッドが到着早々一瞬でミミを発見していたことは言うに及ばず。
写真と違う大人の姿を捉えた瞬間の、世界が色を塗り替えられる感覚は、二度目の一目惚れ。懐かしい色の虹彩が自分を捕まえてから、あの頃と同じ笑顔に変わる様は、もう。
レッドの世界の一方で、グリーンと目が合ったダイゴは言葉の代わりに手を挙げて微笑。走り出したミミの後を襟を正して歩き出す。
「レッドくん、久しぶり!」
「……っ」
心願成就の再会そして目を泳がせるレッド。
まだ泳ぎ足りねーのか大丈夫か、とグリーンは頭の中でツッコミつつもヒヤヒヤしている。
結んで開いてを繰り返す彼の口からは、ぁ、だの、ぅ、だの、のぼせた息しか出てこない。
「会えて嬉しいよっ」
「!?」
先制攻撃、頭突紛いの抱擁おまけは甘い香り。高身長であるレッドの胸の位置にミミの頭が来る。そこへ追撃の頬擦りは急所に当たった。壁は薄い布1枚しかないのだ。万歳。反射的に身体が硬くなる。
童貞レッドは声を出せない状態から辛うじて、僕も……、と息を絞り出し微かに空気を震わせた。
彼の腕は空中で停止している。どうしたらいいのかどうしていいのか汗臭くはないだろうか、レッドの思考は混乱して麻痺して瀕死寸前だ。
満足したミミが離れるまで、現実では1秒にも満たない時間だった。
「グリーンさん、初めまして!ミミですっ」
「おー、初めまして」
彼女がグリーンに示した握手に少しの優越感。レッドはその合間に急ぎ体を背けて深呼吸をした。
長年溜め込んできた熱い想いを吐き出していいのは今でもここでもない鎮まれ鎮まれ。
幸いなことに一人の男の孤独な戦いは誰にも悟られることはなかった。
「敬語はよしていいぜ。俺もこいつと同い年だし」
指すついでに喝を入れるため様子がおかしい幼馴染の背中を思い切り、結果的には微動だにしなかったのだが、思い切り平手で打つグリーン。
レッドとグリーンを見たミミは、うん!と素直に頷いた。
「船旅お疲れ様」
レッドも向き直ってダイゴも来て、無事4人は合流した。初めましての挨拶と自己紹介を形式的に済ませた最年長は、まずはホテルへ案内するよ、と皆をまとめて歩き始める。
ミミ自らレッドの傍に寄るので、これならとレッドのサポーターは前方へ。
「何から何まで……色々とありがとうございます」
「こちらこそ、招待に応じてくれてありがとう」
グリーン達保護者の会話の後ろにはうぶな男の子が居る。
自分にとっておひさまのような存在を直視できやしない彼は、女の子に赤い帽子を被せてそのつばをグイッと粗雑に下ろしてやった。女の子は嫌がるそぶりを全く見せずカラリと笑っている。
「♪」
「………………」
2人の間に言葉はないがいい雰囲気だ。変なことを言って引かれるよりはいいとグリーンも思う。
波止場を出てからバンバドロが曳く送迎用の馬車で移動。車窓から見る生き生きした景色に皆口々に感想を述べていた。
アマカジの群れが“はねる”していたり。
カリキリが“こうごうせい”していたり。
姉のナナミに送るのだと言って弟のグリーンはスマホで写真を撮る。
「そういえば、アローラにはスカル団とかいう不良集団が居るって親戚に聞いたんスよ」
「ああ、スカル団は解散したそうだよ。
とはいえ逮捕された訳ではないからね、厄介には変わりないけれども」
ミミは観光客2人のポケモン達を接待中。窓枠にモンスターボールを設置できるようになっていて、ポケモンも喜ぶ造りの観光馬車なのだ。
あれはアローラディグダですねえ、等とガイドごっこをしている彼女は子供っぽい。
「あ!ディグダが石を落としましたね」
「どこだい!?
おお!良い石だね!拾って行こうか!」
子供が増える。落ち着き払っていたダイゴはどこかへ去った。石マニアが御者の制止も馬車の静止も待たずに飛び出して行った。
この人はこういう人だった。
「……」
「……」
「ご、ごめんね!
ダイゴお!念力で拾ってあげるから戻って来なさあい!」
もう疲れたので早く布団に潜りたいグリーンだった。
「その服で行くのか……?」
「え……変かな」
到着前に着衣水泳を楽しんだレッドは自前の服に着替えていた。好きな人に会うんだから、とアドバイザーに薦められて買った服は潮水を貯水してしまって使い時ではない。
ジーンズにTシャツ。以上。
そのTシャツがシンプルだったならまだしも、何を模しているのか不明なプリントが絶妙に微妙だった。
「もう時間ねーし、仕方ねーか」
そう、時間だ。遂にアローラ地方に上陸する時が来た。
日の光が降り頻り、元気なツツケラの語らいが聞こえる中、2人は弾む足でタラップを下りる。向こうに別の2人組が待っている筈。
「到着っ!アローラ!」
「!」
南国に立ったグリーンは常夏の空気を味わいながら辺りを見渡した。後ダイゴを探す。
一帯は船客とその歓待で賑やかだ。
動かない横の奴に、おまえも探せ、と言いかけて彼は異変に気付く。顔を覗くと鼻が赤いし気のせいか目が潤んでいる。泣いてはいないようだが、しかしそれでもそいつのそんな表情を見るのは初めてだった。
動かさない視線を辿ればスーツ姿のダイゴを見付ける。では、その隣の女の子がレッドの――。
「レッドくん!」
人波の中を通る声。ミミもまた、客人を探し出したところだった。踵を浮かせまでして大きく手を振る。
レッドは感無量だった。怪物めいた直感力を持つレッドが到着早々一瞬でミミを発見していたことは言うに及ばず。
写真と違う大人の姿を捉えた瞬間の、世界が色を塗り替えられる感覚は、二度目の一目惚れ。懐かしい色の虹彩が自分を捕まえてから、あの頃と同じ笑顔に変わる様は、もう。
レッドの世界の一方で、グリーンと目が合ったダイゴは言葉の代わりに手を挙げて微笑。走り出したミミの後を襟を正して歩き出す。
「レッドくん、久しぶり!」
「……っ」
心願成就の再会そして目を泳がせるレッド。
まだ泳ぎ足りねーのか大丈夫か、とグリーンは頭の中でツッコミつつもヒヤヒヤしている。
結んで開いてを繰り返す彼の口からは、ぁ、だの、ぅ、だの、のぼせた息しか出てこない。
「会えて嬉しいよっ」
「!?」
先制攻撃、頭突紛いの抱擁おまけは甘い香り。高身長であるレッドの胸の位置にミミの頭が来る。そこへ追撃の頬擦りは急所に当たった。壁は薄い布1枚しかないのだ。万歳。反射的に身体が硬くなる。
童貞レッドは声を出せない状態から辛うじて、僕も……、と息を絞り出し微かに空気を震わせた。
彼の腕は空中で停止している。どうしたらいいのかどうしていいのか汗臭くはないだろうか、レッドの思考は混乱して麻痺して瀕死寸前だ。
満足したミミが離れるまで、現実では1秒にも満たない時間だった。
「グリーンさん、初めまして!ミミですっ」
「おー、初めまして」
彼女がグリーンに示した握手に少しの優越感。レッドはその合間に急ぎ体を背けて深呼吸をした。
長年溜め込んできた熱い想いを吐き出していいのは今でもここでもない鎮まれ鎮まれ。
幸いなことに一人の男の孤独な戦いは誰にも悟られることはなかった。
「敬語はよしていいぜ。俺もこいつと同い年だし」
指すついでに喝を入れるため様子がおかしい幼馴染の背中を思い切り、結果的には微動だにしなかったのだが、思い切り平手で打つグリーン。
レッドとグリーンを見たミミは、うん!と素直に頷いた。
「船旅お疲れ様」
レッドも向き直ってダイゴも来て、無事4人は合流した。初めましての挨拶と自己紹介を形式的に済ませた最年長は、まずはホテルへ案内するよ、と皆をまとめて歩き始める。
ミミ自らレッドの傍に寄るので、これならとレッドのサポーターは前方へ。
「何から何まで……色々とありがとうございます」
「こちらこそ、招待に応じてくれてありがとう」
グリーン達保護者の会話の後ろにはうぶな男の子が居る。
自分にとっておひさまのような存在を直視できやしない彼は、女の子に赤い帽子を被せてそのつばをグイッと粗雑に下ろしてやった。女の子は嫌がるそぶりを全く見せずカラリと笑っている。
「♪」
「………………」
2人の間に言葉はないがいい雰囲気だ。変なことを言って引かれるよりはいいとグリーンも思う。
波止場を出てからバンバドロが曳く送迎用の馬車で移動。車窓から見る生き生きした景色に皆口々に感想を述べていた。
アマカジの群れが“はねる”していたり。
カリキリが“こうごうせい”していたり。
姉のナナミに送るのだと言って弟のグリーンはスマホで写真を撮る。
「そういえば、アローラにはスカル団とかいう不良集団が居るって親戚に聞いたんスよ」
「ああ、スカル団は解散したそうだよ。
とはいえ逮捕された訳ではないからね、厄介には変わりないけれども」
ミミは観光客2人のポケモン達を接待中。窓枠にモンスターボールを設置できるようになっていて、ポケモンも喜ぶ造りの観光馬車なのだ。
あれはアローラディグダですねえ、等とガイドごっこをしている彼女は子供っぽい。
「あ!ディグダが石を落としましたね」
「どこだい!?
おお!良い石だね!拾って行こうか!」
子供が増える。落ち着き払っていたダイゴはどこかへ去った。石マニアが御者の制止も馬車の静止も待たずに飛び出して行った。
この人はこういう人だった。
「……」
「……」
「ご、ごめんね!
ダイゴお!念力で拾ってあげるから戻って来なさあい!」
もう疲れたので早く布団に潜りたいグリーンだった。
おしまい