Gotcha!
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ダンジョンを進もう!②
「……何も見えないねえ……」
「……壁にもぶつからない……」
一寸先は闇。レッドに担がれたミミとミミを担いだレッドは暗い闇の世界に居た。その濃さは目と鼻の先に置いてみた手が視認できない程だった。
身体を動かしている感覚はあるのに真っ直ぐ進めているかはわからず、正しく歩けているのかも、足の裏にあるのが床なのか床があるのかさえも段々と怪しくなってくる。
自分の形を把握できず輪郭が融けてゆくような錯覚と、明確な温もり。相手と触れ合った箇所だけが自我の形を繋ぎ止めてくれているようだ。
「シンオウの都市伝説に似ているなあ……」
「あぁ……なぞのばしょ……。
リーグ1戦目の“なみのり”禁止、その所為なんだっけ……」
「そうそう、神隠しに遭うぞおおって。
何でも、現実離れした場所に行ってしまうとか。こういう所なのかな」
瞳にその姿が映らなくても肌を伝う動きからその様子は手に取るようにわかる。彼は彼女に倣って遠くの方を見た。
が実感は得られない。視界を奪う黒はまだ、眼球を塗り潰しているかの如くそこから動いてくれなかった。
「失踪者達はポケモンリーグとは別の場所に出て来たって話だけど……私達はどこに出るんだろうねえ」
「……どこだろうねぇ……」
有名なその話では無事に戻って来た者も居れば壊れた者ないし消えた者が居たり、過去へ渡った者も居るのではないかと噂されている。……にもかかわらずこの二人はこの異常事態でもマイペース。ゴースト嫌いな女の子も人タイプ以外のオカルトならいいのだそうで。
時間を司る神、空間を司る神、して反物質を司る神に、果ては創造神。シンオウ神話のポケモン様方の神業とも言われているのがその現象。……そういう俗説もあって逆に生き生きしている感じさえする。
ここはアローラ地方だが、アローラはアローラで世界と異世界とを繋ぐポケモンがおり、彼等彼女等の協力を得て異文化交流が行われていると聞くし。……この未知なる現象もポケモン達の仕業と捉えれば怖くないのだろう。
「……出たらいいな……」
「そうだね、じゃあミミッキュ出てーって一緒にお祈りしようよ。2人なら効果2倍になるよねっ?」
「いいね、それ」
主語がなくとも以心伝心その上での鋼メンタルな両者による会話内容は安心のポジティブクオリティ。出てくる言葉が、出られたらとならない辺り、出してとならない辺り、流石は実力者である。悪く言えば人間に備えられし心が足りていない。
タマムシシティにはミュウが釣れるって噂が……。
あれは嘘だったよ。
等々何もない空間を他愛ない会話で埋めながら、レッドはミミと一緒に歩き続けた。前触れはなかった。
「!」「ぬわあっ!」
途端、閃光が眼の底を射貫き二人は強く目を閉じる。それは一瞬。ハッと目を開けたそこは一つの狭い部屋だった。
何もなかったのに、足を止められていたのに、いつの間に?身に覚えがない。わからない。まるでテレビのチャンネルを切り替えたみたいな、可笑しな場面転換。理解できる筈がない考察は後回しに、いの一番に身の回りの確認を行う。互いの安否は問うまでもなく肌で感じていた。
「レッドくん!来た道がないよ!」
「ミミちゃん!前!」
「あえ?」
珍しい。レッドの輝く声色に、背後を見ていた片割は前を向く。
六方をコンクリートで固められた四畳半の空間の中心、薄暗がりの中、そこに見付けたのは探していたポケモンの姿。褪せた黄色の布の胴体と木の枝の尻尾。取り繕われた見た目の――
「「ミミッキュ!」」
ピカチュウを模倣した ばけのかわ を被ったポケモンだ。
大切な彼女を当人比丁寧に下ろした男はササッと腰を低くする。彼女もその隣へ屈み込んだ。ここがどこだかは後回しだ。
かわいい!かわいい!感動興奮諸々を開けっ広げにするポケモン大好き共に対して、ミミッキュは胡乱気な眼差しを向けている。
■■■■?■■■■?恨み辛みを煮詰めた言葉になっていない音の塊がボロ布の深淵から届く。返事をしたのはその子に会いたがっていたポケモントレーナーレッドの方だった。
「うん。全然ピカチュウに似てないけど「レッドくん!?オブラートに包んで!?」
包み隠さない素直な感想に、ガーンとショックを受けたミミッキュの頭部が圧し折れた。ごめんと謝られてももう物理的に立ち直れないし前を向けない姿が物悲しい。
「でも、そこがミミッキュらしいと思うから……」
「うんうんっ!それはそうっ!ピカチュウとは似て非なる良さが、君にはあるよっ」
妬み嫉みの籠った陰湿な瞳がボロの隙間から覗いている。
うじうじしていると思いきや、寧ろ構え構えというドロドロとした怨念を感じる。逃げる気配はないので話は聞いてもらえそう。
「……ねぇ、訊きたいことがあるんだけど……君のその被り物、色違いピカチュウの真似?」
「言われてみれば……ミミッキュくんの頬っぺはオレンジ色だね。普通のピカチュウの頬っぺは赤色だもんね」
出口よりポケモン優先。ピカチュウマスターからの質問に彼は■■■と答える。声は二人の背筋を這う。
人の耳で聞き取れる単語もないが、通訳するとそういった意図はないのだとか。化粧感覚で布地に合わせた色合いにしているだけだと。そしてそのメイクのセンスは一匹一匹個体差があるようだ。しかし総じて女子力が高いことは窺える。
ミミが凄いねと感嘆の声を上げると、ミミッキュは彼女の称賛と裏腹に自身の事を卑下し始めて独りでにネガティブモードに陥っていった。
「いやいや、そんなことないって!元気出してっ!」
「……ピカチュウが好きなの……?」
雰囲気お構いなしな次の問い掛け。それに彼は■■と答えつつ真っ黒な両手を天に翳す。身の毛が弥立つ声を二人はやはり気にしなかった。
示されるがまま目で追えば、燻んだ壁の至る所に大人気ポケモンの写真が飾られていることに気が付いた。アニメのファンアートもある。どうやらこの蒐集家はピカチュウの熱狂的なファンらしい。
再びミミがその熱意を称えるが、またミミッキュは僻んでしまった。あれも裏目これも裏目、でも反応がないのも駄目、恐らく正解はない。
「いやいや、本当だってば……っ!私嘘吐かない……っ!」
「………………」
レッドは写真を見てミミを見て、それから彼へ向き直る。何を思ったのだろうその表情は少し優しい気がする。
「……会いたい?」
レッドがモンスターボールをカチッと鳴らせば本人登場。満更でもない様子のピカチュウが現れる。
■~~~~!?!?!?
金切声にも似た黄色い声で皆の耳を劈くと同時に、ミミッキュは喜びの余り卒倒した。
「え?レッドくん、攻撃させた?」
「え?いや……出しただけ……良かれと思って……」
幸せそうに見えなくもないその子を残して世界は明転する。
「……何も見えないねえ……」
「……壁にもぶつからない……」
一寸先は闇。レッドに担がれたミミとミミを担いだレッドは暗い闇の世界に居た。その濃さは目と鼻の先に置いてみた手が視認できない程だった。
身体を動かしている感覚はあるのに真っ直ぐ進めているかはわからず、正しく歩けているのかも、足の裏にあるのが床なのか床があるのかさえも段々と怪しくなってくる。
自分の形を把握できず輪郭が融けてゆくような錯覚と、明確な温もり。相手と触れ合った箇所だけが自我の形を繋ぎ止めてくれているようだ。
「シンオウの都市伝説に似ているなあ……」
「あぁ……なぞのばしょ……。
リーグ1戦目の“なみのり”禁止、その所為なんだっけ……」
「そうそう、神隠しに遭うぞおおって。
何でも、現実離れした場所に行ってしまうとか。こういう所なのかな」
瞳にその姿が映らなくても肌を伝う動きからその様子は手に取るようにわかる。彼は彼女に倣って遠くの方を見た。
が実感は得られない。視界を奪う黒はまだ、眼球を塗り潰しているかの如くそこから動いてくれなかった。
「失踪者達はポケモンリーグとは別の場所に出て来たって話だけど……私達はどこに出るんだろうねえ」
「……どこだろうねぇ……」
有名なその話では無事に戻って来た者も居れば壊れた者ないし消えた者が居たり、過去へ渡った者も居るのではないかと噂されている。……にもかかわらずこの二人はこの異常事態でもマイペース。ゴースト嫌いな女の子も人タイプ以外のオカルトならいいのだそうで。
時間を司る神、空間を司る神、して反物質を司る神に、果ては創造神。シンオウ神話のポケモン様方の神業とも言われているのがその現象。……そういう俗説もあって逆に生き生きしている感じさえする。
ここはアローラ地方だが、アローラはアローラで世界と異世界とを繋ぐポケモンがおり、彼等彼女等の協力を得て異文化交流が行われていると聞くし。……この未知なる現象もポケモン達の仕業と捉えれば怖くないのだろう。
「……出たらいいな……」
「そうだね、じゃあミミッキュ出てーって一緒にお祈りしようよ。2人なら効果2倍になるよねっ?」
「いいね、それ」
主語がなくとも以心伝心その上での鋼メンタルな両者による会話内容は安心のポジティブクオリティ。出てくる言葉が、出られたらとならない辺り、出してとならない辺り、流石は実力者である。悪く言えば人間に備えられし心が足りていない。
タマムシシティにはミュウが釣れるって噂が……。
あれは嘘だったよ。
等々何もない空間を他愛ない会話で埋めながら、レッドはミミと一緒に歩き続けた。前触れはなかった。
「!」「ぬわあっ!」
途端、閃光が眼の底を射貫き二人は強く目を閉じる。それは一瞬。ハッと目を開けたそこは一つの狭い部屋だった。
何もなかったのに、足を止められていたのに、いつの間に?身に覚えがない。わからない。まるでテレビのチャンネルを切り替えたみたいな、可笑しな場面転換。理解できる筈がない考察は後回しに、いの一番に身の回りの確認を行う。互いの安否は問うまでもなく肌で感じていた。
「レッドくん!来た道がないよ!」
「ミミちゃん!前!」
「あえ?」
珍しい。レッドの輝く声色に、背後を見ていた片割は前を向く。
六方をコンクリートで固められた四畳半の空間の中心、薄暗がりの中、そこに見付けたのは探していたポケモンの姿。褪せた黄色の布の胴体と木の枝の尻尾。取り繕われた見た目の――
「「ミミッキュ!」」
ピカチュウを模倣した ばけのかわ を被ったポケモンだ。
大切な彼女を当人比丁寧に下ろした男はササッと腰を低くする。彼女もその隣へ屈み込んだ。ここがどこだかは後回しだ。
かわいい!かわいい!感動興奮諸々を開けっ広げにするポケモン大好き共に対して、ミミッキュは胡乱気な眼差しを向けている。
■■■■?■■■■?恨み辛みを煮詰めた言葉になっていない音の塊がボロ布の深淵から届く。返事をしたのはその子に会いたがっていたポケモントレーナーレッドの方だった。
「うん。全然ピカチュウに似てないけど「レッドくん!?オブラートに包んで!?」
包み隠さない素直な感想に、ガーンとショックを受けたミミッキュの頭部が圧し折れた。ごめんと謝られてももう物理的に立ち直れないし前を向けない姿が物悲しい。
「でも、そこがミミッキュらしいと思うから……」
「うんうんっ!それはそうっ!ピカチュウとは似て非なる良さが、君にはあるよっ」
妬み嫉みの籠った陰湿な瞳がボロの隙間から覗いている。
うじうじしていると思いきや、寧ろ構え構えというドロドロとした怨念を感じる。逃げる気配はないので話は聞いてもらえそう。
「……ねぇ、訊きたいことがあるんだけど……君のその被り物、色違いピカチュウの真似?」
「言われてみれば……ミミッキュくんの頬っぺはオレンジ色だね。普通のピカチュウの頬っぺは赤色だもんね」
出口よりポケモン優先。ピカチュウマスターからの質問に彼は■■■と答える。声は二人の背筋を這う。
人の耳で聞き取れる単語もないが、通訳するとそういった意図はないのだとか。化粧感覚で布地に合わせた色合いにしているだけだと。そしてそのメイクのセンスは一匹一匹個体差があるようだ。しかし総じて女子力が高いことは窺える。
ミミが凄いねと感嘆の声を上げると、ミミッキュは彼女の称賛と裏腹に自身の事を卑下し始めて独りでにネガティブモードに陥っていった。
「いやいや、そんなことないって!元気出してっ!」
「……ピカチュウが好きなの……?」
雰囲気お構いなしな次の問い掛け。それに彼は■■と答えつつ真っ黒な両手を天に翳す。身の毛が弥立つ声を二人はやはり気にしなかった。
示されるがまま目で追えば、燻んだ壁の至る所に大人気ポケモンの写真が飾られていることに気が付いた。アニメのファンアートもある。どうやらこの蒐集家はピカチュウの熱狂的なファンらしい。
再びミミがその熱意を称えるが、またミミッキュは僻んでしまった。あれも裏目これも裏目、でも反応がないのも駄目、恐らく正解はない。
「いやいや、本当だってば……っ!私嘘吐かない……っ!」
「………………」
レッドは写真を見てミミを見て、それから彼へ向き直る。何を思ったのだろうその表情は少し優しい気がする。
「……会いたい?」
レッドがモンスターボールをカチッと鳴らせば本人登場。満更でもない様子のピカチュウが現れる。
■~~~~!?!?!?
金切声にも似た黄色い声で皆の耳を劈くと同時に、ミミッキュは喜びの余り卒倒した。
「え?レッドくん、攻撃させた?」
「え?いや……出しただけ……良かれと思って……」
幸せそうに見えなくもないその子を残して世界は明転する。
おしまい