Gotcha!
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レッドとゆめのかけはし
「………………」
ザーザーと肩を打つシャワーの音。まっしろでまっさらなバスタブの底で跳ねる水玉を眺めながら、レッドは自分が置かれている状況について整理していた。
グズマに頼まれたのは、彼の知人がオーナーをしているこのホテルに一泊するだけ、の簡単なものだった。
但し。条件付き。ミミと一緒。
「………………」
今その人は隣の部屋に居るのだが、この場合は隣部屋と言えるのだろうか。廃墟風と銘打つ洋館、今回宿泊する201号室と202号室の間の壁には何と大人が通れる程の大きな穴が開いており、隣人の生活音諸共その様も文字通り筒抜なのだ。
実質一部屋。
実質同室。
何でもこういった破壊の美を売りにしているらしい。無論、怪我しないよう破断面には処理が施されているので安全面は問題なし。
ポケモンバトルの痕跡かな岩タイプの技かな、とバトル脳にスイッチしかけたレッドは、顔を上げて雑念を洗い流した。
「レッドくううんッ!!」
シャワーカーテンの向こうのドアの更に向こうでミミが呼ぶ。しかしそれは水の音に囲まれた者の元まで届かない。
切羽詰まる声の訳は、彼女と霊能力者の会話を聞いていたならば想像が付いただろう。そして先の展開も。
「……?……」
強いて述べれば、呼ばれた気がしたから。これからのことも纏まらないままレッドはハンドルを捻って音を止めた。
水が滴る前髪を後ろへ掻き上げて、耳へ入ってきたのはバスルームの外ダダダと走り寄る足音。かと思えばガチャガチャとノブを回すパニック気味な音、近くなる足音、大好きな人の声。
「レッドくん!」
「……ミミちゃん?……」
グレーのカーテンに写った影を認識した彼が硬直してしまうより早く――
シャッ!
二人を遮る最後の壁がなくなった。
そこに現れた彼女の瞳は涙を溜めて潤んでいる。うるうると震えるそこに映るのは筋肉質な裸体。
「一人は嫌やけん近くんおって――あっ……」
「………………」
「腹筋って本当に割れるんだねじゃなくてごめんなさい失礼しますじゃなくてごめんなさい失礼しましたあッ!!」
シャッ!
嵐のようなその出来事は、男が指先を動かす間もなく終了する。
「………………」
「本当にごめんんんっ!混乱して……一人で居るのが怖くって……あ、私はその、幽霊が苦手で……。
ごめん……ここに居ていい……?」
驚いている場合でないことだけは何とか汲み取って、レッドは弱々しくなっていく声を励ますため当社比1.5倍明るめにはいと答えた。安堵の息と共にありがとうと返ってくる。
「ちょっと待ってね、上がるから」
「のあっ!」
ミミに与えられた安息は束の間。閉じられたカーテンを開こうとする男の手に羞恥心は見られず、少女はあせあせと後ろを向いた。
すっぽんぽんのレッドが見付けたのはミミの背中だった。
見ていいのに。彼がそう思っているのは成熟した裸体ではなくて健全な肉体の方である。
ミミに背を向けられていることをちょっぴり寂しく思いつつ、身体を拭いて服を着る。もういいよ、と声を掛けると大きく深呼吸された。
「……大丈夫?」
「少し大丈夫になった、かな……」
「そっか。良かったね」
先程は青白く見えた彼女の顔に、今は確かに赤みが戻っている。
目の前のこと目の前の人のことしか考えていられないシングルタスクな頭は、自分もほっとしていることに気が付いていなかった。自然と出た笑顔でその人を更に赤く染めていることにも。
「……あの、今夜は、レッドくんに……いっぱいお願いしたいことがあるんだけど……」
だが、まあ、その攻撃力分はミラーコートの如く倍に膨れて跳ね返る訳だ。赤面状態での上目遣いは、確定一発。くらってクラッて精神的には崩れ落ちていたレッド。
彼が変わりなく見えるのは、感情値が表情筋のキャパシティをオーバーしたが故の、只の処理落ちだ。
「駄目かな……?」
げんきのかたまりにもなる彼女の一声で正常に戻る。泣かないでという想いで動くレッドの手はミミの頬をするりと包んで、親指の腹は目尻で揺れる涙をごしごし拭った。
「駄目じゃない。いいよ……。……僕も、いっぱい愛したい」
「愛ッ!?」
正常。
「あ!ああ!あの時の報酬の話か!吃驚した……」
「?」
レッドから萬屋ミミへ依頼という形になってしまったが、明日は二人きりでのデートなのだ。そこまでの経緯はどうあれ誘ってもらえた上に我儘も聞いてもらえるので、萬屋側には好条件な案件だった。
「じゃ……何してほしい……?」
「えっと、先ずですね……。これから私がお風呂に入るので、見張りをお願いします!」
「……。ミミちゃんの裸を!?いいの!?」
「……。何でそっち向き!?良くないよ!?」
とてつもない不安がミミを襲う。
最終的にモンスターボールからピカチュウが出てきたことによって一件落着したが。ポケモンと組まされた成人男性は、その雷尻尾のポケモンにやれやれと溜息を吐かれていた。
「………………」
ザーザーと肩を打つシャワーの音。まっしろでまっさらなバスタブの底で跳ねる水玉を眺めながら、レッドは自分が置かれている状況について整理していた。
グズマに頼まれたのは、彼の知人がオーナーをしているこのホテルに一泊するだけ、の簡単なものだった。
但し。条件付き。ミミと一緒。
「………………」
今その人は隣の部屋に居るのだが、この場合は隣部屋と言えるのだろうか。廃墟風と銘打つ洋館、今回宿泊する201号室と202号室の間の壁には何と大人が通れる程の大きな穴が開いており、隣人の生活音諸共その様も文字通り筒抜なのだ。
実質一部屋。
実質同室。
何でもこういった破壊の美を売りにしているらしい。無論、怪我しないよう破断面には処理が施されているので安全面は問題なし。
ポケモンバトルの痕跡かな岩タイプの技かな、とバトル脳にスイッチしかけたレッドは、顔を上げて雑念を洗い流した。
「レッドくううんッ!!」
シャワーカーテンの向こうのドアの更に向こうでミミが呼ぶ。しかしそれは水の音に囲まれた者の元まで届かない。
切羽詰まる声の訳は、彼女と霊能力者の会話を聞いていたならば想像が付いただろう。そして先の展開も。
「……?……」
強いて述べれば、呼ばれた気がしたから。これからのことも纏まらないままレッドはハンドルを捻って音を止めた。
水が滴る前髪を後ろへ掻き上げて、耳へ入ってきたのはバスルームの外ダダダと走り寄る足音。かと思えばガチャガチャとノブを回すパニック気味な音、近くなる足音、大好きな人の声。
「レッドくん!」
「……ミミちゃん?……」
グレーのカーテンに写った影を認識した彼が硬直してしまうより早く――
シャッ!
二人を遮る最後の壁がなくなった。
そこに現れた彼女の瞳は涙を溜めて潤んでいる。うるうると震えるそこに映るのは筋肉質な裸体。
「一人は嫌やけん近くんおって――あっ……」
「………………」
「腹筋って本当に割れるんだねじゃなくてごめんなさい失礼しますじゃなくてごめんなさい失礼しましたあッ!!」
シャッ!
嵐のようなその出来事は、男が指先を動かす間もなく終了する。
「………………」
「本当にごめんんんっ!混乱して……一人で居るのが怖くって……あ、私はその、幽霊が苦手で……。
ごめん……ここに居ていい……?」
驚いている場合でないことだけは何とか汲み取って、レッドは弱々しくなっていく声を励ますため当社比1.5倍明るめにはいと答えた。安堵の息と共にありがとうと返ってくる。
「ちょっと待ってね、上がるから」
「のあっ!」
ミミに与えられた安息は束の間。閉じられたカーテンを開こうとする男の手に羞恥心は見られず、少女はあせあせと後ろを向いた。
すっぽんぽんのレッドが見付けたのはミミの背中だった。
見ていいのに。彼がそう思っているのは成熟した裸体ではなくて健全な肉体の方である。
ミミに背を向けられていることをちょっぴり寂しく思いつつ、身体を拭いて服を着る。もういいよ、と声を掛けると大きく深呼吸された。
「……大丈夫?」
「少し大丈夫になった、かな……」
「そっか。良かったね」
先程は青白く見えた彼女の顔に、今は確かに赤みが戻っている。
目の前のこと目の前の人のことしか考えていられないシングルタスクな頭は、自分もほっとしていることに気が付いていなかった。自然と出た笑顔でその人を更に赤く染めていることにも。
「……あの、今夜は、レッドくんに……いっぱいお願いしたいことがあるんだけど……」
だが、まあ、その攻撃力分はミラーコートの如く倍に膨れて跳ね返る訳だ。赤面状態での上目遣いは、確定一発。くらってクラッて精神的には崩れ落ちていたレッド。
彼が変わりなく見えるのは、感情値が表情筋のキャパシティをオーバーしたが故の、只の処理落ちだ。
「駄目かな……?」
げんきのかたまりにもなる彼女の一声で正常に戻る。泣かないでという想いで動くレッドの手はミミの頬をするりと包んで、親指の腹は目尻で揺れる涙をごしごし拭った。
「駄目じゃない。いいよ……。……僕も、いっぱい愛したい」
「愛ッ!?」
正常。
「あ!ああ!あの時の報酬の話か!吃驚した……」
「?」
レッドから萬屋ミミへ依頼という形になってしまったが、明日は二人きりでのデートなのだ。そこまでの経緯はどうあれ誘ってもらえた上に我儘も聞いてもらえるので、萬屋側には好条件な案件だった。
「じゃ……何してほしい……?」
「えっと、先ずですね……。これから私がお風呂に入るので、見張りをお願いします!」
「……。ミミちゃんの裸を!?いいの!?」
「……。何でそっち向き!?良くないよ!?」
とてつもない不安がミミを襲う。
最終的にモンスターボールからピカチュウが出てきたことによって一件落着したが。ポケモンと組まされた成人男性は、その雷尻尾のポケモンにやれやれと溜息を吐かれていた。
おしまい