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レッドは満たされる②
暫く道なりに進むと二人の前を1匹のピッピが歩いていた。ロリポップに似た尻尾を右左に振ってその足を二人と同じ方向へ動かしている。
追い越す際はピカチュウ付きの帽子を軽く浮かせて会釈するレッド。後のミミも、こんばんは、と続く。ピッピからは指もとい手を振る形で挨拶を返される。
次第にピッピの数が増えていった。中には団子を持っている月見泥棒なピィまで。
「この先だよ」
「この先……」
行き止まりに見えた岩壁の下部には穴が空いていて、前に居たピッピがその口へ吸い込まれていく。
人一人が匍匐で漸く通れる大きさの穴、反対側から入ってくる風や光の加減から距離は短いことがわかる。
「何これっ……!?もしかして、ここを通るのおっ!?」
「……」
その言葉は不満から発せられたものではなくて。明らかに明るい声と爛々とする瞳を向けられたレッドはそれに同調して笑顔で頷いた。
「こういうの、わくわくするねえっ!」
行って参ります隊員っ!ぴょいっと一つ跳ねポケモンレンジャーは抵抗なく潜っていく。
「僕もすぐ行くから」
あまり遠くに行かないようにねミミ隊員。隊員の調子に乗せられてそう言ってしまった隊長は相棒にピピピと揶揄われた。
恥ずかしく思うのと同時に幸せにも思えるのでまあ良しとする。
もしも、レッドがグリーンに今回のルートを相談していたなら、レディに行かせる場所じゃねーじゃねーか馬鹿、と罵られてデートコース変更を余儀なくされたに違いなかった。当然の可能性があったことをデート初心者は知る由もない。
「……わあ……っ……!」
感嘆の声を追って残った1人と1匹も穴を抜けた。砂埃をざっと払って立ち上がる。
レッドは立ち惚けているミミの隣に並び立った。彼女の表情をちらり窺ってから満足そうに、自分が案内したその場所を見遣る。
「す、凄い……凄いね………………!」
「………………」
碧い碧い静かな夜、月明かりに輝く一面のススキ。白く咲き誇る花穂が靡く様は銀色の風が吹いているようで幻想的。
ゆらゆら揺れる白の隙間にピンク色の影が見え隠れする。陰に隠れて虫とむしポケモンがコロコロチリチリ鳴いている。
「ほわあ………………」
レッドはどうする?
「………………」
ふう、さて、とグリーンの教えを頭の中で反芻していたところ。足下に居たピカチュウが、ピ、と主人の脚を叩いてけしかけた。
心の準備もしないままレッドはミミの横顔を見る羽目に陥った。遠くを見詰める瞳には満月が映っている。
世界のどんなまるよりまるい月。
それよりも――
「……」
唯々美しいと思ったから。
思わず手指が伸びて、図らずも口が開いて、そっと頬に触れる、そっと想いを囁く。
「月が……綺麗ですね……」
するとくるりとこちらを向いた彼女の瞳に自分の姿を見たレッド。
はい。言えたけれども?
台詞にした月を見ていないではないか自分の眼中にないではないか、手を引っ込めて月を探してあせあせと今更虚空を見上げる。
“I love you.”を、はにかみ屋な文豪がそう訳したとかいう逸話があるその台詞。大丈夫。再翻訳されない限りは只の日常会話だから大丈夫。手が出た件はごめんなさい。
明鏡止水の心境に到るためレッドが耳を澄ませば詠うようなたおやかな声が聞こえてくる。
「百年目に咲く百合の花のようですね」
「………………。………………???」
眉間にしわを寄せつつミミの言う百合を探してみるもここにはススキしかない。
「ご、ごめん……、それってどういう意味……?」
眉尻を下げて降参する。
「じゃあレッドくんの方はどういう意味なのかな?」
「あれは、愛してるって――あ」
出て来る前に脳を経由して来いって話なのだ。レッドには無理。
気付いてぱくんと口を閉じたが時既に遅し。秘密ではなくなった秘密を意味もなく塞き止めて膨らんだ両頬は息を止めていることとは別のせいで赤くなった。嬉しそうなミミの人差指に片方を刺されてプシューと気が抜ける。
レッドの愛するその人は鈴を転がすように笑っている。
「……一杯食わされた……」
「腹ごなしの運動なら付き合うよっ」
暫く道なりに進むと二人の前を1匹のピッピが歩いていた。ロリポップに似た尻尾を右左に振ってその足を二人と同じ方向へ動かしている。
追い越す際はピカチュウ付きの帽子を軽く浮かせて会釈するレッド。後のミミも、こんばんは、と続く。ピッピからは指もとい手を振る形で挨拶を返される。
次第にピッピの数が増えていった。中には団子を持っている月見泥棒なピィまで。
「この先だよ」
「この先……」
行き止まりに見えた岩壁の下部には穴が空いていて、前に居たピッピがその口へ吸い込まれていく。
人一人が匍匐で漸く通れる大きさの穴、反対側から入ってくる風や光の加減から距離は短いことがわかる。
「何これっ……!?もしかして、ここを通るのおっ!?」
「……」
その言葉は不満から発せられたものではなくて。明らかに明るい声と爛々とする瞳を向けられたレッドはそれに同調して笑顔で頷いた。
「こういうの、わくわくするねえっ!」
行って参ります隊員っ!ぴょいっと一つ跳ねポケモンレンジャーは抵抗なく潜っていく。
「僕もすぐ行くから」
あまり遠くに行かないようにねミミ隊員。隊員の調子に乗せられてそう言ってしまった隊長は相棒にピピピと揶揄われた。
恥ずかしく思うのと同時に幸せにも思えるのでまあ良しとする。
もしも、レッドがグリーンに今回のルートを相談していたなら、レディに行かせる場所じゃねーじゃねーか馬鹿、と罵られてデートコース変更を余儀なくされたに違いなかった。当然の可能性があったことをデート初心者は知る由もない。
「……わあ……っ……!」
感嘆の声を追って残った1人と1匹も穴を抜けた。砂埃をざっと払って立ち上がる。
レッドは立ち惚けているミミの隣に並び立った。彼女の表情をちらり窺ってから満足そうに、自分が案内したその場所を見遣る。
「す、凄い……凄いね………………!」
「………………」
碧い碧い静かな夜、月明かりに輝く一面のススキ。白く咲き誇る花穂が靡く様は銀色の風が吹いているようで幻想的。
ゆらゆら揺れる白の隙間にピンク色の影が見え隠れする。陰に隠れて虫とむしポケモンがコロコロチリチリ鳴いている。
「ほわあ………………」
レッドはどうする?
「………………」
ふう、さて、とグリーンの教えを頭の中で反芻していたところ。足下に居たピカチュウが、ピ、と主人の脚を叩いてけしかけた。
心の準備もしないままレッドはミミの横顔を見る羽目に陥った。遠くを見詰める瞳には満月が映っている。
世界のどんなまるよりまるい月。
それよりも――
「……」
唯々美しいと思ったから。
思わず手指が伸びて、図らずも口が開いて、そっと頬に触れる、そっと想いを囁く。
「月が……綺麗ですね……」
するとくるりとこちらを向いた彼女の瞳に自分の姿を見たレッド。
はい。言えたけれども?
台詞にした月を見ていないではないか自分の眼中にないではないか、手を引っ込めて月を探してあせあせと今更虚空を見上げる。
“I love you.”を、はにかみ屋な文豪がそう訳したとかいう逸話があるその台詞。大丈夫。再翻訳されない限りは只の日常会話だから大丈夫。手が出た件はごめんなさい。
明鏡止水の心境に到るためレッドが耳を澄ませば詠うようなたおやかな声が聞こえてくる。
「百年目に咲く百合の花のようですね」
「………………。………………???」
眉間にしわを寄せつつミミの言う百合を探してみるもここにはススキしかない。
「ご、ごめん……、それってどういう意味……?」
眉尻を下げて降参する。
「じゃあレッドくんの方はどういう意味なのかな?」
「あれは、愛してるって――あ」
出て来る前に脳を経由して来いって話なのだ。レッドには無理。
気付いてぱくんと口を閉じたが時既に遅し。秘密ではなくなった秘密を意味もなく塞き止めて膨らんだ両頬は息を止めていることとは別のせいで赤くなった。嬉しそうなミミの人差指に片方を刺されてプシューと気が抜ける。
レッドの愛するその人は鈴を転がすように笑っている。
「……一杯食わされた……」
「腹ごなしの運動なら付き合うよっ」
おしまい