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主人公

レッドは満たされる

さて今宵は十五夜。プレイボーイで博識な友グリーンから気障な台詞を覚えさせられたレッドは、それならおまえでも言えるよな?言ってこいよ?と幾らか馬鹿にされつつ愛する人の下へ送り出されていた。

「………………」

そういう訳でミミを誘ってゆくのはカントーのおつきみやま。御月見の名を冠したこの山では小規模だが祭りが催されているのだ。
洞窟前ポケモンセンター前の露店に並ぶのはこの行事に入用の月見団子や茶や酒。商品が入れられていたと思しきプラスチックコンテナ達が、裏返されて椅子なり机なりの代用品となってそこかしこで働いている。

「侘び寂びだねえ」

夜の帳に紫煙を燻らせる従業員。
与太話に花を咲かせる地元住民。
ニビシティジムリーダーのタケシは警備員役を一役買ってここと洞窟内の広場とを巡回しているらしい。
少年少女が、ピッピ捜索隊出動!と土煙を蹴立てて駆けて行く。
人気が然程ないため祭り独特のあの騒がしさこそないが、いつもと違う一日を感じるには十分だった。

「いいねえ、風情のある賑わいで」

二人は月下の祭り会場を立見中。
レッドに奢って貰った団子4兄弟の長男坊を頂いて、ミミは高揚した声色で感想を伝えた。

「月はどこからでも見えるけど、月を見るために遠出するのも楽しいねっ」
「……良かった……」

2個目を頬張ると残りの団子も2個になる。

「はい、お裾分け」
「ありがとう」
「こちらこそなんだよ」

出資者の前へ串を据えたらば残数は1。ラスト1は彼の頭に俯せているピカチュウの前へ。その子はピッピの焼印と数秒間にらめっこしたのち囓り付いた。

「……じゃあ行こう、ミミちゃん」
「ん……はあい……」

見せたいものがあるんだけど、が十を語らぬ男の誘い文句だった訳で、ミミはそれが何かも目的地も尋ねてすらいなかった。秘すれば花なりと深掘りせずその背中に付いて来たのだが、どうも眼前の風景はそれではないようだ。
湖に映る月を見に来たのかい?
屋台の親父から話し掛けられた時だって連れと目を合わせた男からは、秘密。の一言があっただけ。

「あ、レッドくん、ちょっと待ってね」
「うん」

立つ鳥跡を濁さず。ゴミはゴミ箱に。
それから彼が洞窟の方へ歩き始めたので彼女もまたその背を追った。

「……離れないでね」
「了解であります隊長っ!」

レッドが笑い混じりに、何それ、と言えば、だって、と楽し気な様子で説明されて笑い合う。
岩のアーチをくぐる。青年は冒険の時と同じわくわくを胸に感じながら先へ進んだ。彼女はあれを見て驚くだろうか、喜んでくれるだろうか。

「……ミミちゃん、こっち」
「はあい」

老いた白熱電球がぽつぽつ、橙色の薄光で広場までの道案内をしているが、赤い帽子の案内人はこれを無視して脇道へ。

「ピカチュウ、“フラッシュ”」

ヘッドライトよろしく前方を照らし出す相棒とどんどん進む。ミミを導いて。
次はこっち。
次の次はこっち。
度々振り返り同行者の歩調を確認しつつ道が枝分かれする度立ち止まり振り返り声を掛ける。案内人の頭の上に居るピカチュウは思っている。もう、手、繋げばいいのに。

「……こっち。登るよ」
「よおし……」

次は段差。段差は一方通行ジャンプすれば近道。しかしレッドはこれを逆に登って行くと言う。普通のポケモントレーナーは行かない道だ。
ポケモンレンジャーのミミも身体は鍛えている方なので1mなら一人で乗り越えられる。
2mならレッドに上から引き上げてもらって。
3mならレッドに下から押し上げてもらって。

「……もうすぐだから」
「うんっ」

ポケモンに頼ることも悪くはない、でも頼れる人の力で壁を越えて行くのもミミには何だか楽しかった。

「レッドくんは何mの高さまで1人で登れるの?」
「カベキックができないところとかだと……垂直跳びで4mしか……」
「アクションゲームかな?」

つづく
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