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レッドは叶えられる
アローラはホクラニてんもんだい。世界で最も天体観測に適した場所。そこから望める夜空にはとても言語で表現できない程の絶景が広がる。
一面にちりばめられた幾千万の星々が見せるはまさしく星の海。水平線の彼方にまで散らばった大小の夜光が、空に浮かぶ海を地上に下ろして来たかのような錯覚を見せている。
そして今日は7月7日。この時期の天蓋には天の川が流れていて、今も多くの観光客やカップルが尊い空を見上げては感嘆の吐息を溢しているのだが。
「……アローラにもあるんだ……」
「カントー系の人が多いからねえ」
吐く息を凍らせながらてんもんだいを訪れたレッドとミミ、2人が目を向けるのは施設の玄関である自動ドア脇に設置された3m程の高さの笹の方だった。星明かりの下で青々する笹は緑赤黄白紫の色々な願い事で着飾られている。
「……沢山書かれているね……」
「ね。
折角だから私達も書こうよ、ね?」
ミミに袖を引かれてレッドも横へ足を運ぶ。笹の隣に据えられた折畳テーブルの上にはカントー式七夕について説明されたボードと、五色の短冊と筆ペンが用意されていた。
「……リザードン、よろしく」
ドア向こうから滲む人工の薄明かりだけでは心許ない。紫の短冊とペンを取る彼女の手元を照らすためにと彼はリザードンを呼び出す。
灯り代わりもそうだが暖を取らせるためでもあった。アローラの夏とはいえ太陽が沈んだ時間帯でカントーのシロガネやまよりも高い標高でとなれば気温も10度を切るのだ。
「あ。ありがとう」
「……うん」
冷える手を擦り合わせていたミミは尻尾の炎を大きくしたリザードンとそのトレーナーに感謝。
「レッドくんは何色にする?」
「あ、じゃあ、黄色で……」
「ピカチュウ色だねえ」
ふふっと笑う彼女から、はい、と黄色の短冊とペンを受け取ったレッドはそれをじっと見詰める。
願い事、か。
書きたいことはあるものの。ペンをぐるぐる遊ばせつつ、どうしたものか、書けることはないものか、今度は他人の短冊へ視線を彷徨わせる。
勿論簡単な単語を読み取れたところでアローラ語イッシュ語その他言語の全文解読とまではいかない。熟練の冒険者は外国語に明るくないようだ。
主人の後ろ、暢気なリザードンは2人の代わりに星空を眺めている。
「………………」
“マーさんとずっと友達でいられますように”
“マーくんとずっと友達でいられますように”
「………………!」
仲良く並んだ2つの短冊、共通語であるカントー語で書かれたそれが目に入って、これだ!とレッドは口元に弧を描く。
片や隣人もボードを読み終えて何を願うか決めたようで一字一字を丁寧に書き始めた。好きな人のその隣で男はさらさらと筆を走らせる。
“ミミちゃんのお願い事が叶いますように”
もしも自分と彼女の願い事が一緒だとしたら。
「………………」
我ながらいい案だと自画自賛する男の耳に、よし、と、隣からも区切りが付いた声とペンの蓋を閉める音が届いた。ので、レッドは自分の願い事を持つとテーブルに置かれたままの紫の短冊を覗き込む。
「ミミちゃんは何をお願いしたの?」
「“指笛がうまくなりますように”!」
「………………。ぇぇ………………」
無念。
「?」
「……ぃ、ぃゃ……何でもない……」
「ふうん……?」
天の川に掛かる橋は一方通行なのかはたまた通行禁止なのか。
嗚呼無情。呵呵大笑。笹の葉の音が如くさらさらと散華。
逆に恥ずかしいことになったレッドはリザードンの尻尾に短冊を隠してしまおうかと案を練る。無邪気に首を傾げるミミから聞き返される前に、何とか時間稼ぎを、何か話を。とりあえず手は後ろに隠して。
「ええっと……僕はお願い事って特にないから……僕の分……ミミちゃんが他にお願いしたいこと、とかは……ない?」
「ありがとう、でも、好きな人の事なら自分の力で叶えてみせるよっ」
「……そ、そっか……」
「女の子の愛の力って凄いんだからねっ、神様にも負けないからっ。
だからね……レッドくんには、大船に乗ったつもりで居てほしいなっ」
ふふうんと偉ぶるかわいらしい女の子。世界の破壊も、世界の創造も、その手に掛かれば容易いもの。それを身を以て経験した、否、していることを失念していた。今だってそう彼の世界はその女の子が核なのだ。
わざわざ遠い織姫彦星に祈らずとも近くの神に祈れば願ったり叶ったりなのではとレッドの悩み事は帰結。
「ねえねえ、これさ、高いところに結んでくれる?」
「……あ、うん。いいよ」
彼女は恋愛以外のささやかな願い事を彼へ託した。
ミミの短冊を受け取るとレッドは自分の短冊を重ねて手を伸ばす。
「おお……高あい……。あっ……レッドくんの願い事それでいいの?」
「うん……。
本命の方は、僕も自力で頑張るよ」
こよりを固く結び終えた後、男の子だって負けてられないよね、と締め括ってその人を瞳に映す。
これがないと落ち着かないからと夜にも拘わらず被っている赤い帽子、照れ隠しに少しだけつばを下げるがその人の姿は見失わないように。
「ミミちゃん」
「うん?」
「……よろしくね、これからも……」
ずっと。そう動かした筈の口からは息しか出てこなかったがそこはもう仕方ない。
「うん!……ずっとっ!」
そして漸く望んだ空は満天の星空。ベガもアルタイルも探し出せそうにないが、織姫と彦星の再会は愛の力とやらできっと叶うのだろう。
男の子の足元には寄り添う2つの影が出来る。
リザードンが灯す温かい揺らめきがそう見せただけかも知れないしそうだとしても。頬を朱に染めるミミを視界端に捉えて、レッドは本来の天体観測をおざなりにしつつ彼女の動きと赤い意図を汲み取ってみた。
己なりなので容赦願いたい。
「寒い?……上着、貸そうか……?」
「はええ………………。……レッドくん今Tシャツ1枚だよね?」
アローラはホクラニてんもんだい。世界で最も天体観測に適した場所。そこから望める夜空にはとても言語で表現できない程の絶景が広がる。
一面にちりばめられた幾千万の星々が見せるはまさしく星の海。水平線の彼方にまで散らばった大小の夜光が、空に浮かぶ海を地上に下ろして来たかのような錯覚を見せている。
そして今日は7月7日。この時期の天蓋には天の川が流れていて、今も多くの観光客やカップルが尊い空を見上げては感嘆の吐息を溢しているのだが。
「……アローラにもあるんだ……」
「カントー系の人が多いからねえ」
吐く息を凍らせながらてんもんだいを訪れたレッドとミミ、2人が目を向けるのは施設の玄関である自動ドア脇に設置された3m程の高さの笹の方だった。星明かりの下で青々する笹は緑赤黄白紫の色々な願い事で着飾られている。
「……沢山書かれているね……」
「ね。
折角だから私達も書こうよ、ね?」
ミミに袖を引かれてレッドも横へ足を運ぶ。笹の隣に据えられた折畳テーブルの上にはカントー式七夕について説明されたボードと、五色の短冊と筆ペンが用意されていた。
「……リザードン、よろしく」
ドア向こうから滲む人工の薄明かりだけでは心許ない。紫の短冊とペンを取る彼女の手元を照らすためにと彼はリザードンを呼び出す。
灯り代わりもそうだが暖を取らせるためでもあった。アローラの夏とはいえ太陽が沈んだ時間帯でカントーのシロガネやまよりも高い標高でとなれば気温も10度を切るのだ。
「あ。ありがとう」
「……うん」
冷える手を擦り合わせていたミミは尻尾の炎を大きくしたリザードンとそのトレーナーに感謝。
「レッドくんは何色にする?」
「あ、じゃあ、黄色で……」
「ピカチュウ色だねえ」
ふふっと笑う彼女から、はい、と黄色の短冊とペンを受け取ったレッドはそれをじっと見詰める。
願い事、か。
書きたいことはあるものの。ペンをぐるぐる遊ばせつつ、どうしたものか、書けることはないものか、今度は他人の短冊へ視線を彷徨わせる。
勿論簡単な単語を読み取れたところでアローラ語イッシュ語その他言語の全文解読とまではいかない。熟練の冒険者は外国語に明るくないようだ。
主人の後ろ、暢気なリザードンは2人の代わりに星空を眺めている。
「………………」
“マーさんとずっと友達でいられますように”
“マーくんとずっと友達でいられますように”
「………………!」
仲良く並んだ2つの短冊、共通語であるカントー語で書かれたそれが目に入って、これだ!とレッドは口元に弧を描く。
片や隣人もボードを読み終えて何を願うか決めたようで一字一字を丁寧に書き始めた。好きな人のその隣で男はさらさらと筆を走らせる。
“ミミちゃんのお願い事が叶いますように”
もしも自分と彼女の願い事が一緒だとしたら。
「………………」
我ながらいい案だと自画自賛する男の耳に、よし、と、隣からも区切りが付いた声とペンの蓋を閉める音が届いた。ので、レッドは自分の願い事を持つとテーブルに置かれたままの紫の短冊を覗き込む。
「ミミちゃんは何をお願いしたの?」
「“指笛がうまくなりますように”!」
「………………。ぇぇ………………」
無念。
「?」
「……ぃ、ぃゃ……何でもない……」
「ふうん……?」
天の川に掛かる橋は一方通行なのかはたまた通行禁止なのか。
嗚呼無情。呵呵大笑。笹の葉の音が如くさらさらと散華。
逆に恥ずかしいことになったレッドはリザードンの尻尾に短冊を隠してしまおうかと案を練る。無邪気に首を傾げるミミから聞き返される前に、何とか時間稼ぎを、何か話を。とりあえず手は後ろに隠して。
「ええっと……僕はお願い事って特にないから……僕の分……ミミちゃんが他にお願いしたいこと、とかは……ない?」
「ありがとう、でも、好きな人の事なら自分の力で叶えてみせるよっ」
「……そ、そっか……」
「女の子の愛の力って凄いんだからねっ、神様にも負けないからっ。
だからね……レッドくんには、大船に乗ったつもりで居てほしいなっ」
ふふうんと偉ぶるかわいらしい女の子。世界の破壊も、世界の創造も、その手に掛かれば容易いもの。それを身を以て経験した、否、していることを失念していた。今だってそう彼の世界はその女の子が核なのだ。
わざわざ遠い織姫彦星に祈らずとも近くの神に祈れば願ったり叶ったりなのではとレッドの悩み事は帰結。
「ねえねえ、これさ、高いところに結んでくれる?」
「……あ、うん。いいよ」
彼女は恋愛以外のささやかな願い事を彼へ託した。
ミミの短冊を受け取るとレッドは自分の短冊を重ねて手を伸ばす。
「おお……高あい……。あっ……レッドくんの願い事それでいいの?」
「うん……。
本命の方は、僕も自力で頑張るよ」
こよりを固く結び終えた後、男の子だって負けてられないよね、と締め括ってその人を瞳に映す。
これがないと落ち着かないからと夜にも拘わらず被っている赤い帽子、照れ隠しに少しだけつばを下げるがその人の姿は見失わないように。
「ミミちゃん」
「うん?」
「……よろしくね、これからも……」
ずっと。そう動かした筈の口からは息しか出てこなかったがそこはもう仕方ない。
「うん!……ずっとっ!」
そして漸く望んだ空は満天の星空。ベガもアルタイルも探し出せそうにないが、織姫と彦星の再会は愛の力とやらできっと叶うのだろう。
男の子の足元には寄り添う2つの影が出来る。
リザードンが灯す温かい揺らめきがそう見せただけかも知れないしそうだとしても。頬を朱に染めるミミを視界端に捉えて、レッドは本来の天体観測をおざなりにしつつ彼女の動きと赤い意図を汲み取ってみた。
己なりなので容赦願いたい。
「寒い?……上着、貸そうか……?」
「はええ………………。……レッドくん今Tシャツ1枚だよね?」
おしまい