Got!
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雨上がりの明るい昼下がり、そよそよと吹く風は冬の寒さ厳しさが抜けてきて、微かに春めいた匂いを帯びています。
今日の散歩はどこまで行くのでしょうか。ポケモン達が町の外れ、長閑な並木道を歩いていました。
キタカミのさと に負けず劣らず田舎を地で行くこの町に、コンクリートの道なんてそうありません。
馬用レインブーツを履いた四つの脚でピッチピッチ チャップチャップ。ランランラン♪と鼻唄と共に態々水溜まりの上を行くのはポニータの男の娘。
折角の雨の日の装いも、元気が過ぎる彼女の脚以外までは庇い切れていません。
跳ねた泥水が
ドロバンコにならないでくださいよ?
あたくしに分岐進化はなくってよ?
御機嫌ステップで右へ左へそんな仔馬に仔守役の彼が釘を刺そうとします。けれども、解っているんだか、解っていないんだか、多分後者の彼女には突っ撥ねられてしまいました。
走ること以外にも温泉や風呂を愛好するこの馬っ仔に取って、泥んこになることなぞ、その後の楽しみを思えばへいちゃら寧ろどんと来いなのでした。
チピチピ チャパチャパ、今度は雨水が流れる土側溝へ脚を突っ込んでいます。
やれやれですね。
浮かれた足跡に付き従いながらも、すいーっと我が道ド真ん中、うろちょろもせず飛沫も上げず、地面から十数センチ上を滑るのはミュウツーの彼です。
水溜まりがあろうと側溝があろうと、飛んでいれば無関係、汚れません。例え俄に空が泣き出そうと、それもいつもの如く“ひかりのかべ”で防御するだけですから、濡れることもありません。きっと。
春眠暁を覚えずじゃのう。封印されし もうひとりのわし もぐっすり眠っておるのじゃ。
はいはい。“ねごと”は“ねむる”の後ですよ。
町と町の外を区分する木々の高さにはもう1匹、傘を差したムウマージがフヨフヨと漂っています。
優しい日差しを除けるために使われている主人愛用の雨傘は濡羽色、しかしそれは外側の話です。下に居る彼や彼女の側から見えるのは、青いアジサイを思わせるネオンブルーの生地と、その麓に沿った5本の白いラインでした。
白紙の五線譜と見えない音符を青空へ広げ、御天気者ゴーストは まほろびのうた を歌っています。
傘の影に追い抜かれたポニーの彼女は歌の方へ視線を向けました。そしてふと見付けた光景へ、キャーと大きな歓声を。
透明なきのみが生ってますわ~~!
立ち上がり前肢を掻く仕草で。キャッキャッと無垢にはしやぎ始めます。
何を見たらそう言えるのでしょう。気になった彼と傘の者が、彼女の下へ寄り集いました。
背丈5m程の緑の木。3匹は何の木かを知りませんが、オジギソウに似る雰囲気のシルバーグリーンの葉が付いた枝先には、黄色い花弁をくるんだ黄緑色の小さな蕾が集まって垂れ下がっています。
彼は目を凝らしました。
きのみとやらは見当たりませんし、それに見えなくもない蕾も透明ではありません。
成程これの事かと見開いた瞳に映したのは、葉や枝を伝って蕾の下に溜まった雨水でした。蕾一つ一つにぷよっと連なった、ちいさなしんじゅサイズの無色の煌めき。
あいつはいつも急に飛び出してきて、あたくしを吃驚させるんですの。
彼女は透明なきのみと呼称しましたが、それが雨粒であるという認識はできているようです。
今日という日は、逆に!あたくしがあいつを吃驚させてやりますわ!
ハァ?ちょっ、ちょっと止まりなさい……!
ブルルンッとエンジンを掛けた彼女はそのまま、誰からの指示もなく誰かが制止させる間もなくその木へ“とっしん”をしてしまい。
どん!
衝突したので当然、衝撃を堪えられない無数の雨粒にバラララバタタタと反撃されてしまいました。
彼も漏れなく巻き添えです。濡れてしまいました。
キャーー!冷たいですわーーッ!!
でしょうね!
楽しそうに頭を振る彼女と、不愉快そうに顔を拭く彼と、高見の見物をしている傘。傘オバケの口からはカラカラと遠慮ない笑い声が洩れてきています。
彼女等と違って濡れることが大嫌いな彼は、その傘の下をじっとりと睨み付けました。
けれどもそいつが怖気付く筈ありません。こいつを貸してやるのじゃとか偉そうな事を言いつつ、彼にフヨヨ~ンと近付き影を重ねます。
ポン、ポン、と雨に打たれる傘の音。
“ひかりのかべ”では聴けない音。
悪くはないなと彼が思えるようになるのは、ほんの少し先の話です。
おしまい