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春本番までもう幾つか先の三月初頭、その日の天候は雨のち晴れ。早朝から降り続く細い雨は夕方には上がる予報です。
図鑑No.0150 いでんしポケモン。彼の者は色違いのミュウツーです。ニックネームは既にあります。
彼が主人等と住まうのは和モダンタイプの一軒家。フシギバナ、リザードン、カメックス、ラプラス、エトセトラ、エトセトラ……大勢の大きな友達とも一緒に暮らせるよう極力広めに設計されたリビングは、しかし走り回れる程に広くはありません。
図鑑No.0077 こうまポケモン――基、いっかくポケモンのポニータの男の娘が、カーペットの上に四肢を投げ出し寝転んでいます。
今室内には2匹のポケモンしか居ませんでした。
時間を経過させる便利アイテムはないんですの?
彼女は誰へ宛てる訳でもなく、欠伸混じりに虚空へ問い掛けます。
そのような物は永遠のフィクションです。ゲームの中からは出て来られませんよ。
窓際の棚の前、趣味であるミニ盆栽の世話をする彼はその手を動かしながらバッサリと返答しました。
仔馬はそうなんですの~?夢も希望もありませんわ~等と宣いながら、あっちへコロンこっちへコロンと寝返りを打ち始めます。
そうですわ!天候を変化させるアイテムてるてる坊主ならありますわよね。
いえ……それも……、どうでしょうね。
2匹のポケモンの親つまりポケモントレーナーは、本日の我が家の昼ご飯を買い求め、今は家を留守にしております。けれども、もうそろそろ帰って来る頃でしょう。
彼はついと窓の外へ目を遣りました。
レースカーテンのそのまた奥の、フロートガラスのあちら側。音もなく降っていた雨は、気付かぬ内に止んでいたようです。
“にほんばれ”を覚えるしかないんですのね?いいですわ……。あたくしたち に真似出来て、あたくし に出来ないことはなくってよ……!
翻訳。つうじょうのすがた に真似出来て、ガラルのすがた に出来ないことはないと言いたいそうです。
コロコロ引っ繰り返った末に腹這いになった彼女が厳かに首を持ち上げます。
行き違うように彼の方は手元へ視線を戻しました。
あなた“にほんばれ”のわざマシンをここへお持ちになってくださる?
……取り敢えず、今日のところは貴女もわたくしも無駄な努力をする必要はなさそうです。
薄雲を抜けた太陽光が覗いたのと同じ時、玄関からカチャチャッと解錠の音そしてカララッと開扉の音が鳴り、続いてただいまあと暢気な主の声が響いてきました。
あら!
スポーンと跳ね起きた女の仔は退屈を蹴り飛ばすかの如くスキップで、おっかえっりなっさいっませっ♪とオリジナルソングを歌いつつ駆けて行きます。
彼はそんな光景を尻目に、目の前、小さな盆の中に表現した自然の景その全体像を眺めます。どやっと腕組みし、顎を引いて見たり首を傾げて見たり。
……うむ。
程なくして一つ大きく頷くと、満足そうな彼は身体を浮かせ、スルーっとリビングを後にしました。
カビゴンの横幅丁度の廊下を進んだ先が玄関。これまた広い土間があります。広い理由はポケモンの為というより、日陰干しが必要な傘の為。
雨の日は パラソルおねえさん になる主はパラソルこと傘が大好きなのです。蒐集はしていませんが、お気に入りの1本を、後生大事に扱っています。
なので雨の日だった今、
それはそうと、馬っ仔はちゃんと出迎えを済ませたのでしょうか。引戸から鼻を出し空を見上げ、我等が主君には尻を向けていますけれども。
『おかえりなさい』
彼が住まいの異状ナシを伝えれば、彼の主も外での出来事を身振り手振り楽し気に話してくれました。
商店街へ焼き立て焼きおにぎりを買いに行っていた筈でしたが、それ以外にも何やら購入してきた様子です。
芳ばしい香りが入った紙袋とは別の簡素なビニール袋へ、これ見て!可愛いの!と言いながら手を突っ込んでいます。
そう言われても、まだ主の右腕とガサゴソ安っぽい音を立てる袋しか映っていないのですが。
何の騒ぎですの?
それが気になった仔馬の彼女もカポカポと近くまで寄って来ました。
カワイイものが見られるそうですよ。
あたくしならここに居ましてよ?
………………。
………………?
正式な型じゃなくて簡易版の1本タイプだけどね、そう前置きされゆっくりゆっくり引っ張り出されるのは、晴れやかカラーの手毬です。
その手毬には紐が付いており、続いて出て来るのは風車の形をした布細工。
また連なる紐と毬が現れ、次は太鼓の形の細工物が顔を出します。
ぞろぞろぞろと、毬、宝袋、毬。
赤、緑、青、黄色、様々な色が遣われていますが、全体的に受けるのは桃色の印象です。
豪華なてるてる坊主ですわ!可愛いですわね!
彼女の感想に主はからからと笑い、説明をします。
カナズミシティの方の言葉で さげもん と云うそれは吊るし雛の事です。
細工物のモチーフは様々で、野菜や果物や生き物等々、その数は百を超えると言われています。
その一つ一つに謂れがあるそうですが、全体として晴れを願って飾る点は、てるてる坊主と同じ物だと言えなくもない……でしょうか?
あたくしのベッドの近くに飾りませんこと?
それだとベビーベッドで使うベッドメリーの類いにならないかと思う彼でしたが、喧しくなりそうだとも思うので胸の奥に仕舞っておくことにしました。
ところでさ、と。
この場に不在の1匹について、主が留守番班長へと尋ねます。
図鑑No.0429 マジカルポケモン ムウマージ。
『あぁ、あれなら、わたくしの可愛い盆栽に悪戯をしたので軒先に吊るしてあります』
予報よりも早く晴れてくれたのはそのてるてる坊主のお陰だったのかも知れません。
彼の気も、早目に晴れることを願うばかりです。
おしまい