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軟派師が大誤算②
「ルシさんが私に秘匿したこと……。それはズバリ、本名!フルネームを教えてくれていませんよね?」
「!」
彼女が光らせたその星玉の瞳には、キュピーンとでも効果音が付きそうだ。人差指をピンと立てつつとても得意気に口の片端を持ち上げるミミに、男は驚いた表情を見せた。
「貴方の本当の名前はルシフェル!ルシフェルさんなのです!」
「な、何故、それを……ッ!?」
珍妙なノリのまま続けられる台詞。フルネームを言い当てられたその男ルシフェルは、そんなノリにも“なみのり”感覚で言葉とエモートを返す。
因みに悪魔或いは堕天使と同じその名前は、飽くまで一人の人間の名前である。
それはそうと。
彼はハッとするなり己の胸元そして首元をパタパタ叩いて探り始めた。
しかし思い当たる物は見付からず、ピタリと止めた手。丸くしたその目には、どうだと言わんばかりに鼻を高くするミミの姿が映っている。
「職員証……は掛けていないな?そうだよな……?
えっ?何でわかったんだ……?」
素直に疑問を口にすれば、ふっふっふうん……!と勿体振りながらほくそ笑まれる。
知っていること自体に大きな問題はないにしろ、初対面の人物が初対面の筈の自分の個人情報を知っている理由、その部分がわからないと些か腑に落ちない。
ルシフェルは謎を解明するべく頭を働かせる。眉間にしわが寄った。
「あ、もしかして?エーテル財団の見学に来たことがあるんだ?
それかバトルツリー上位ランカーのこのボクのファンで?バトルビデオを見てたりする?」
「あはあ……申し訳ないですが……」
現実的な線を何本か述べてみるが、ミミからは少々難しそうな作り笑いと、違いますねえ、という返事。間を置かずして改めて胸を張る彼女に、真っ直ぐ目を見詰められる。
「実は私、場末の占い師?の補佐?的な事もやっていまして」
「全部疑問系……?」
「まあ占いのようなものです。ルシさんのおパンツの色も当てられますよ!「当てられてもッ!?その結果にどんなハッピーラッキーが!?」
思わずズバッと前後ろを覆い隠して身震いした。
話し掛ける相手を間違えた?見た目はどう見ても普通の女の子だったんだが?無知な天使のようで全知の神のようでもある、得体の知れない者を前にルシフェルは少し怖くなってきた。
「おやおや、ブルーな気分?そんな貴方に幸せをもたらすかも知れないアイテムを特別にご紹介っ!
……したいのですが残念です。今手元になくて……」
胡散臭い口調の後、パーっと開いた手を左右へ大きく広げてみせて何もありませんのポーズをするミミ。そうはさせない手玉には取られないぞと警戒し出したルシフェルはグーっと腕を組む。
「いやいやさては高い壺を買わせる気じゃないの?」
「パワーストーンは可って事ですね!」「いや!?」
パシン!勢い任せ気風の良い音と共に、広げられていた両の手が揉み手へ組まれたところを脊髄反射で否定した。
何だ何なんだこの変な子は?
彼女があははと笑う。
「逃げてもいいんですよ?ランダムエンカウントに於ける私のモットーは、来る者拒まず、去る者追わず、ですから」
「言ってくれるな?ボクはバトルで降参しない主義なんだぜ?」
口車に乗る訳ないものの、まんまと怪しい占い師のペースに乗せられてしまっている。けれどもそこに嫌悪感を覚えないのは、確信はなくとも害意がないことが節々から伝わってくるからだろう。
え?可愛いから許すって?それにも一理くらいはあるかも知れない。
「変わり者ですね、ルシさんって」
「それ、ボクに言うんだ?そっくりそのまま“オウムがえし”してほしいのかな?」
「あれ?私もですかあ……。類友ってやつですか」
「キミが類だぞ?」
「じゃあルシさんは友ですね」
無邪気な笑顔へ澄ましたスマイル。そんな遣り取りをしていれば、ミミが鞄からスッと灰色のカードケースを取り出した。
初代ゲームボーイなデザインのそこから1枚、トレーナーカード……ではなくシンプルな名刺が、ルシフェルの方へ恭しく差し出される。
「本業はこっち。便利屋なんです、フリーのポケモンレンジャーやっています。
アナログで恐縮ですけど、どうぞ」
「礼は言わないぜ?」
GB画面イメージのレトロな風合。受け取ったマットコート紙には氏名とメールアドレス電話番号。図らずも連絡先を手に入れることができた青年の胸には一端の達成感、心の中でガッツポーズを決める。
しかしながら文字を解読していくと、屋号の下に書かれた住所がどうやら海の向こうっぽいと気付いて。
「ホウエン?アローラじゃないんだ?」
「ええ。事務所は」
少しがっかりだ。
「でも依頼はワールドワイドに受付中です。秘密のルートがあるので、例え草の中森の中どこへだって瞬時に飛んで行きますよ!ご用命あらば何でもします」
「へえ?何でも……?」
手首を捻ってちらりと名刺の裏側を見れば三ツ藤巴の家紋。詳しくないルシフェルはロゴマーク程度に考えつつ、話し相手へ視線を戻す。
待ち構えていたその人とは直ぐに目が合った。
「はいっ!壺の鑑定は出来ませんが、身辺調査は勿論、お米作りなら田起こしから籾摺りまでっ!」
「頼まないぞ?ボクの主食はパンだからな?
けど、悩みを聞かせてあげるなら……友達が欲しいと思わなくもない……」
「それなら私にも、ちょっとしたお手伝いは出来ますよっ。丁度――あっ!来た来たっ!」
不意に視線を切った彼女が自分調べ今日一番の笑顔で手を振るので、彼もそちらの方へ目を遣った。待ち人来たりて、それは同時に時間切れということ。GAME OVERの文字が頭に流れる。
手を振り返した人物は男から見てもグッド ルッキングな銀髪の男性。だが10分足らずの友達は別れを告げるでもなく去りもしない。ルシフェルは遠慮なく胸を張った。
「私の幼馴染です、歳は結構離れていますけど」
「ボーイフレンド?」
「幼馴染ですって」
まだ距離がある内にミミから紹介を受ける。疎らな人通りの中、彼女はそいつに丸印を付ける如く人差指をくるくる回している。
「あの顔どこかで見たことあるような気がするぞ?」
「さすらいの石集めダイゴをご存知ですと!?」
「……。人違いだったかもな?」
類は友を呼ぶ。無事ルシフェルの中では大企業の御曹司ダイゴも変わり者に位置付いた。
「お待たせ」
「重役出勤だなあ」
「あはは、ごめんごめん」
そんな感じで緩く始まる幼馴染同士の会話は短めで、そちらの方は?と輪に呼ばれるのは友達の友達。
「エーテル財団の職員のルシフェルさん。話し相手になってくれたんだよ」
「そうなるかな?」
ありがとうねえ、そう言うミミに次いで、僕からも感謝するよ、との言葉と柔和な微笑み。双方から礼を言われて上機嫌になっているのは俗に言う軟派師だ。
この場面に彼が居たら大騒ぎだったかもね?
私がこうして普通にしている分には 邪魔したら悪いと思って とか言って遠巻きに待っているような人だよ。
誰の事だろうか?自分が主人公ではなさそうなので聞き流した身内話は1ターンで終了したようだ。
「ねダイゴ、対人運が上がるコ居るよね?ルシさんに紹介してあげたいんだけど」
「いいねっ!勿論、連れて来ているよ!」
「?誰も居ないぞ?」
彼女と見合っていたダイゴがぐるんっと振り向く。キラッキラ、ブルートパーズの瞳が爛々と輝いていた。
「ルシフェル君、だったよね?君は何色が好きなんだい?
願いに対しての候補が1つの石しかない……なんて事はないから、好きな色から選ぶのをお薦めするよ」
「は?石?やっぱり何か買わせる気なん「シトリンやアベンチュリンはどうだい!?恋愛運も合わせた方がいいかい!?バトルも強くなりたいかいッ!?」
さすらいの石集めは好きな石を世に広めたい。
「ミミ!?ミミ!?」
気圧されてじりりと後退りした数を同じ数だけ詰められる。後ろには岩があってそれ以上は下がれない。
助けを求めて顔を背けた先、彼女はあっけらかんと笑って見せた。
「お金は要らないから、受け取ってあげて。お礼も要らないから」
「クソ……ッ!お前ら、グルだったのか……!?」
「単なる幼馴染だってば」
その後のなんやかやは省いてしまうが、なんやかやあってメガストーンも押し付けられたルシフェル。
「それじゃ僕等は失礼するよ」
「私は暫くこの地方を冒険しているから、またどこかで会うかもね。
アローラっ!またねっ!」
職場とバトル施設を往復するだけの生活を送っていた彼は、そんな風にミミ達と別れてから、少しだけ行動範囲を広げてみようと思った。
明日はちょっと寄り道してみよう。
そう思うだけでも世界が広がる気がする。
「ルシさんが私に秘匿したこと……。それはズバリ、本名!フルネームを教えてくれていませんよね?」
「!」
彼女が光らせたその星玉の瞳には、キュピーンとでも効果音が付きそうだ。人差指をピンと立てつつとても得意気に口の片端を持ち上げるミミに、男は驚いた表情を見せた。
「貴方の本当の名前はルシフェル!ルシフェルさんなのです!」
「な、何故、それを……ッ!?」
珍妙なノリのまま続けられる台詞。フルネームを言い当てられたその男ルシフェルは、そんなノリにも“なみのり”感覚で言葉とエモートを返す。
因みに悪魔或いは堕天使と同じその名前は、飽くまで一人の人間の名前である。
それはそうと。
彼はハッとするなり己の胸元そして首元をパタパタ叩いて探り始めた。
しかし思い当たる物は見付からず、ピタリと止めた手。丸くしたその目には、どうだと言わんばかりに鼻を高くするミミの姿が映っている。
「職員証……は掛けていないな?そうだよな……?
えっ?何でわかったんだ……?」
素直に疑問を口にすれば、ふっふっふうん……!と勿体振りながらほくそ笑まれる。
知っていること自体に大きな問題はないにしろ、初対面の人物が初対面の筈の自分の個人情報を知っている理由、その部分がわからないと些か腑に落ちない。
ルシフェルは謎を解明するべく頭を働かせる。眉間にしわが寄った。
「あ、もしかして?エーテル財団の見学に来たことがあるんだ?
それかバトルツリー上位ランカーのこのボクのファンで?バトルビデオを見てたりする?」
「あはあ……申し訳ないですが……」
現実的な線を何本か述べてみるが、ミミからは少々難しそうな作り笑いと、違いますねえ、という返事。間を置かずして改めて胸を張る彼女に、真っ直ぐ目を見詰められる。
「実は私、場末の占い師?の補佐?的な事もやっていまして」
「全部疑問系……?」
「まあ占いのようなものです。ルシさんのおパンツの色も当てられますよ!「当てられてもッ!?その結果にどんなハッピーラッキーが!?」
思わずズバッと前後ろを覆い隠して身震いした。
話し掛ける相手を間違えた?見た目はどう見ても普通の女の子だったんだが?無知な天使のようで全知の神のようでもある、得体の知れない者を前にルシフェルは少し怖くなってきた。
「おやおや、ブルーな気分?そんな貴方に幸せをもたらすかも知れないアイテムを特別にご紹介っ!
……したいのですが残念です。今手元になくて……」
胡散臭い口調の後、パーっと開いた手を左右へ大きく広げてみせて何もありませんのポーズをするミミ。そうはさせない手玉には取られないぞと警戒し出したルシフェルはグーっと腕を組む。
「いやいやさては高い壺を買わせる気じゃないの?」
「パワーストーンは可って事ですね!」「いや!?」
パシン!勢い任せ気風の良い音と共に、広げられていた両の手が揉み手へ組まれたところを脊髄反射で否定した。
何だ何なんだこの変な子は?
彼女があははと笑う。
「逃げてもいいんですよ?ランダムエンカウントに於ける私のモットーは、来る者拒まず、去る者追わず、ですから」
「言ってくれるな?ボクはバトルで降参しない主義なんだぜ?」
口車に乗る訳ないものの、まんまと怪しい占い師のペースに乗せられてしまっている。けれどもそこに嫌悪感を覚えないのは、確信はなくとも害意がないことが節々から伝わってくるからだろう。
え?可愛いから許すって?それにも一理くらいはあるかも知れない。
「変わり者ですね、ルシさんって」
「それ、ボクに言うんだ?そっくりそのまま“オウムがえし”してほしいのかな?」
「あれ?私もですかあ……。類友ってやつですか」
「キミが類だぞ?」
「じゃあルシさんは友ですね」
無邪気な笑顔へ澄ましたスマイル。そんな遣り取りをしていれば、ミミが鞄からスッと灰色のカードケースを取り出した。
初代ゲームボーイなデザインのそこから1枚、トレーナーカード……ではなくシンプルな名刺が、ルシフェルの方へ恭しく差し出される。
「本業はこっち。便利屋なんです、フリーのポケモンレンジャーやっています。
アナログで恐縮ですけど、どうぞ」
「礼は言わないぜ?」
GB画面イメージのレトロな風合。受け取ったマットコート紙には氏名とメールアドレス電話番号。図らずも連絡先を手に入れることができた青年の胸には一端の達成感、心の中でガッツポーズを決める。
しかしながら文字を解読していくと、屋号の下に書かれた住所がどうやら海の向こうっぽいと気付いて。
「ホウエン?アローラじゃないんだ?」
「ええ。事務所は」
少しがっかりだ。
「でも依頼はワールドワイドに受付中です。秘密のルートがあるので、例え草の中森の中どこへだって瞬時に飛んで行きますよ!ご用命あらば何でもします」
「へえ?何でも……?」
手首を捻ってちらりと名刺の裏側を見れば三ツ藤巴の家紋。詳しくないルシフェルはロゴマーク程度に考えつつ、話し相手へ視線を戻す。
待ち構えていたその人とは直ぐに目が合った。
「はいっ!壺の鑑定は出来ませんが、身辺調査は勿論、お米作りなら田起こしから籾摺りまでっ!」
「頼まないぞ?ボクの主食はパンだからな?
けど、悩みを聞かせてあげるなら……友達が欲しいと思わなくもない……」
「それなら私にも、ちょっとしたお手伝いは出来ますよっ。丁度――あっ!来た来たっ!」
不意に視線を切った彼女が自分調べ今日一番の笑顔で手を振るので、彼もそちらの方へ目を遣った。待ち人来たりて、それは同時に時間切れということ。GAME OVERの文字が頭に流れる。
手を振り返した人物は男から見てもグッド ルッキングな銀髪の男性。だが10分足らずの友達は別れを告げるでもなく去りもしない。ルシフェルは遠慮なく胸を張った。
「私の幼馴染です、歳は結構離れていますけど」
「ボーイフレンド?」
「幼馴染ですって」
まだ距離がある内にミミから紹介を受ける。疎らな人通りの中、彼女はそいつに丸印を付ける如く人差指をくるくる回している。
「あの顔どこかで見たことあるような気がするぞ?」
「さすらいの石集めダイゴをご存知ですと!?」
「……。人違いだったかもな?」
類は友を呼ぶ。無事ルシフェルの中では大企業の御曹司ダイゴも変わり者に位置付いた。
「お待たせ」
「重役出勤だなあ」
「あはは、ごめんごめん」
そんな感じで緩く始まる幼馴染同士の会話は短めで、そちらの方は?と輪に呼ばれるのは友達の友達。
「エーテル財団の職員のルシフェルさん。話し相手になってくれたんだよ」
「そうなるかな?」
ありがとうねえ、そう言うミミに次いで、僕からも感謝するよ、との言葉と柔和な微笑み。双方から礼を言われて上機嫌になっているのは俗に言う軟派師だ。
この場面に彼が居たら大騒ぎだったかもね?
私がこうして普通にしている分には 邪魔したら悪いと思って とか言って遠巻きに待っているような人だよ。
誰の事だろうか?自分が主人公ではなさそうなので聞き流した身内話は1ターンで終了したようだ。
「ねダイゴ、対人運が上がるコ居るよね?ルシさんに紹介してあげたいんだけど」
「いいねっ!勿論、連れて来ているよ!」
「?誰も居ないぞ?」
彼女と見合っていたダイゴがぐるんっと振り向く。キラッキラ、ブルートパーズの瞳が爛々と輝いていた。
「ルシフェル君、だったよね?君は何色が好きなんだい?
願いに対しての候補が1つの石しかない……なんて事はないから、好きな色から選ぶのをお薦めするよ」
「は?石?やっぱり何か買わせる気なん「シトリンやアベンチュリンはどうだい!?恋愛運も合わせた方がいいかい!?バトルも強くなりたいかいッ!?」
さすらいの石集めは好きな石を世に広めたい。
「ミミ!?ミミ!?」
気圧されてじりりと後退りした数を同じ数だけ詰められる。後ろには岩があってそれ以上は下がれない。
助けを求めて顔を背けた先、彼女はあっけらかんと笑って見せた。
「お金は要らないから、受け取ってあげて。お礼も要らないから」
「クソ……ッ!お前ら、グルだったのか……!?」
「単なる幼馴染だってば」
その後のなんやかやは省いてしまうが、なんやかやあってメガストーンも押し付けられたルシフェル。
「それじゃ僕等は失礼するよ」
「私は暫くこの地方を冒険しているから、またどこかで会うかもね。
アローラっ!またねっ!」
職場とバトル施設を往復するだけの生活を送っていた彼は、そんな風にミミ達と別れてから、少しだけ行動範囲を広げてみようと思った。
明日はちょっと寄り道してみよう。
そう思うだけでも世界が広がる気がする。
おしまい