呪胎戴天
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*
「おいッ。おいブス、その見た目でもまあなんとか惨めに生きてッか茶髪ブス!つーか今落ちて打ったとこよりテメエの平手喰らった顔のが痛エんだけど……」
コンクリートの床に叩きつけられた月詠が苛立たしげに打ち付けた腕を擦りながら、夜桜誘夜を握り直してそう叫んだ。
全く周りの様子がわからない真っ暗闇に投げ出された。
自分が今どんな場所に立っているのか把握出来ない。何も見えない。
釘崎の返事は、聞こえない。
でも呪霊の気配はする。
月詠は鋭い舌打ちを零して、夜桜誘夜を大鎌の形から和傘の形に変化させた。
まだ特級に出くわす可能性が無きにしも非ず、それなのに切り札をここで切りたくはない。それ使ったらこの呪霊だらけの建物を、呪いを視覚できない状態で1人で歩かなくてはならない。
影の中で釘崎の手を掴んでいられなかった。影の勢いに負けた一瞬で別々に離された!
完全に自分のミスだ。これで釘崎が死んでたら絶対一生引き摺る。悔やんでも悔やみきれない。伏黒に合わせる顔もない。
閉じ合わさった夜桜誘夜の先端をビシッと前に向ける。
漸く暗闇に慣れてきた目が、廃棄油とクスリだけ吸ってデカくなったようなニキビだらけの肌をした巨大な肉塊を捉える。それは嘲笑うようにニチニチ口を動かして体を震わせていた。
はらりと美しい髪が零れて、ブラウンローズが彩る唇がツンと尖る。
目を伏せりゃ堀をより深く見せる暗い色のアイシャドウと、意思の強さをハッキリと描く鋭いアイラインが見えた。パッと目を見開くと、迫力のあるブラックカラーの長い睫毛がドレスを翻すように上を向く。晒されたブラックパールの瞳にハイライトは一切灯らない。目が合うだけで撃ち抜かれたような気分になる、弾丸のような力強さがあった。
男の不幸と自分の快楽だけが生き甲斐のような、気紛れ我儘悪戯が許される絶世の悪女。
とりあえずあのブス引っ捕まえて、そんで虎杖くんに言い過ぎたこと謝って。全部済んだら恵くんに褒めてもらう。だから生きてここを出る。
「だからまず、お前から祓うわ」
アタシは今日、【4人で生きて出る】ことだけ考えて行動してる。だから他は躊躇なく切り捨てる。
ケタケタと丸々太った腹から生えた、歪な腕を震わせていた呪霊がビタッと止まった。「ギーッ」と不機嫌そうに鳴いて、複数の人間の腕を無理矢理繋ぎ合わせたような長い腕をバチンと鞭のように振るった。
月詠はそれを夜桜誘夜でいなす。
ムキになった呪霊が腹を突き破って無理矢理腕を生やし、めちゃくちゃになって月詠に攻撃を仕掛ける。
月詠はその無数の攻撃を見て、徐に夜桜誘夜を開いた。黒地の頭紙に美しく描かれた舞い散る桜。この呪具が夜桜たる所以。
それが呪霊の攻撃を全て受け切る。
呪霊はいよいよギョッとして、表情と仕草に焦りを滲ませて、短く肥った足を一歩後ずさった。ギリギリギリととんでもない不協和音を奏でる歯軋りをしてから、ガバアッと口を開けて呪力の篭った巨大な叫び声をあげる。
すると夜桜誘夜を差す月詠を避けるように事件が抉れ、瓦礫埃が舞った。
呪霊がこれでもダメかと言わんばかりにワナワナと腕を震わせる。
「【隠密】」
月詠がそう唱える。スウ、と夜桜誘夜が月詠の姿ごと景色に掻き消えた。
これは【変化】と同じく、妖刀・夜桜誘夜に取り憑いた変化呪霊に呪力を対価に差し出すことで使用することが出来る、呪霊の術式である。夜桜誘夜が和傘形状で、尚且つ傘を開いている時、制限時間は約1分間、この能力を扱うことができる。
呪霊がギョッとこぼれ落ちそうなほど1つ目玉を見開いて月詠を探す。
が、既に遅し。
ザンッ。
呪霊の肥えた肉体が切り裂けた。呪霊が訳も分からず口から血を吐き出す。切口から焦げるように灰になり、呪霊の体が崩れていく。
「ヘンゲ」
あ、言うの忘れてた。みたいな、間抜けな声が聞こえた。
消えかけている呪霊の背後に、大鎌を構えた月詠が立っていた。ブンッと、一度夜桜誘夜を力強く振るい、刃についた呪霊の血がビッと払った。
そして完全に体が崩れた呪霊の残り灰のようなものに向かってベッと生意気に舌を出して「ザッコ」と呟いた。
夜桜誘夜の変化を解く。
別に術式を使う時以外にも変化を使い、夜桜誘夜を妖刀に戻してもいいのだが。実際妖刀の方が攻撃力は抜群に高い。しかし、何分呪力を食うもので。
後普通に持ち運ぶのに不便だから。月詠は基本夜桜の和傘を好んでいた。
さて、まずはあのブスを拾うか。
と、ここから離れようとしたとき、凄い勢いでコチラに向かってくる足音と犬の鳴き声が聞こえた。
それを聞いた月詠がパアッと顔を明るくした。
ガンッ、と扉が突進で破られる。黒毛の玉犬が月詠に向かって飛び付くように走ってきた。月詠がそれをしゃがんで受け止める。
「クロのワンコちゃん!シロちゃんどしたの?恵くんは?無事?」
ヨシヨシヨシとワシャワシャと頭を撫でてやりながらそう聞くと、玉犬から肯定的な返事が返ってくる。
すると遅れて駆け足気味な足音が聞こえてきた。こっちは間違いなく人間のものである。
玉犬が突き破った扉から伏黒が「月詠!」と入ってきた。伏黒の顔を見た月詠はこれでもかと言わんばかりに目も表情もキラキラと輝かせる。
「めぐッ、恵くッ!恵くんよかったあ〜〜ッ!」
「特級と遭遇した。虎杖が足止めしてる。釘崎は」
「ゴメン影ン中であのブスの手離した、ココいねえんだ。アタシのミスです。恵くんワンコちゃんどしたの」
「玉犬の白は特級に壊された。黒は釘崎の匂いがわからねえ」
「そっかマジでごめん。も一旦別れて探そ。あーしはまだ必殺使ってない、隠密も多分後2回は使える」
「釘崎を見つけたら虎杖が宿儺を出す。俺が見つけて連れ出たら玉犬で合図をする、そしたらお前もすぐに出てこい。巻き込まれる」
「り。あーしが見ッけたら森岡が鳴くから」
「森岡鳴くんだな」
「鳴くんだわ実は。声デカイから普段黙らせてッけど」
なー、森岡。と月詠が夜桜誘夜を撫でると、取り憑いてる変化呪霊、改め森岡が「ギャ」と小さな声で返事をした。
因みに森岡とは月詠が7歳の頃に名付けた名前である。月詠の実家には他にも日本風の名前をつけられた契約呪霊がまだ何匹かいる。
伏黒が「声汚ねえな」と言うと月詠がそれに「呪霊だかんね」と答えた。
伏黒が月詠の肩をパシン、と右手で叩く。そして玉犬と共に駆け出した。
「わかったそれで行く。死ぬなよ相棒」
「OK,Buddy.」
二人が背を向いた。さてと、伏黒とは別の方向へ駆け出す。
全員でここから出る為に。
誰一人、欠けることなくここから出る為に。
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「おいッ。おいブス、その見た目でもまあなんとか惨めに生きてッか茶髪ブス!つーか今落ちて打ったとこよりテメエの平手喰らった顔のが痛エんだけど……」
コンクリートの床に叩きつけられた月詠が苛立たしげに打ち付けた腕を擦りながら、夜桜誘夜を握り直してそう叫んだ。
全く周りの様子がわからない真っ暗闇に投げ出された。
自分が今どんな場所に立っているのか把握出来ない。何も見えない。
釘崎の返事は、聞こえない。
でも呪霊の気配はする。
月詠は鋭い舌打ちを零して、夜桜誘夜を大鎌の形から和傘の形に変化させた。
まだ特級に出くわす可能性が無きにしも非ず、それなのに切り札をここで切りたくはない。それ使ったらこの呪霊だらけの建物を、呪いを視覚できない状態で1人で歩かなくてはならない。
影の中で釘崎の手を掴んでいられなかった。影の勢いに負けた一瞬で別々に離された!
完全に自分のミスだ。これで釘崎が死んでたら絶対一生引き摺る。悔やんでも悔やみきれない。伏黒に合わせる顔もない。
閉じ合わさった夜桜誘夜の先端をビシッと前に向ける。
漸く暗闇に慣れてきた目が、廃棄油とクスリだけ吸ってデカくなったようなニキビだらけの肌をした巨大な肉塊を捉える。それは嘲笑うようにニチニチ口を動かして体を震わせていた。
はらりと美しい髪が零れて、ブラウンローズが彩る唇がツンと尖る。
目を伏せりゃ堀をより深く見せる暗い色のアイシャドウと、意思の強さをハッキリと描く鋭いアイラインが見えた。パッと目を見開くと、迫力のあるブラックカラーの長い睫毛がドレスを翻すように上を向く。晒されたブラックパールの瞳にハイライトは一切灯らない。目が合うだけで撃ち抜かれたような気分になる、弾丸のような力強さがあった。
男の不幸と自分の快楽だけが生き甲斐のような、気紛れ我儘悪戯が許される絶世の悪女。
とりあえずあのブス引っ捕まえて、そんで虎杖くんに言い過ぎたこと謝って。全部済んだら恵くんに褒めてもらう。だから生きてここを出る。
「だからまず、お前から祓うわ」
アタシは今日、【4人で生きて出る】ことだけ考えて行動してる。だから他は躊躇なく切り捨てる。
ケタケタと丸々太った腹から生えた、歪な腕を震わせていた呪霊がビタッと止まった。「ギーッ」と不機嫌そうに鳴いて、複数の人間の腕を無理矢理繋ぎ合わせたような長い腕をバチンと鞭のように振るった。
月詠はそれを夜桜誘夜でいなす。
ムキになった呪霊が腹を突き破って無理矢理腕を生やし、めちゃくちゃになって月詠に攻撃を仕掛ける。
月詠はその無数の攻撃を見て、徐に夜桜誘夜を開いた。黒地の頭紙に美しく描かれた舞い散る桜。この呪具が夜桜たる所以。
それが呪霊の攻撃を全て受け切る。
呪霊はいよいよギョッとして、表情と仕草に焦りを滲ませて、短く肥った足を一歩後ずさった。ギリギリギリととんでもない不協和音を奏でる歯軋りをしてから、ガバアッと口を開けて呪力の篭った巨大な叫び声をあげる。
すると夜桜誘夜を差す月詠を避けるように事件が抉れ、瓦礫埃が舞った。
呪霊がこれでもダメかと言わんばかりにワナワナと腕を震わせる。
「【隠密】」
月詠がそう唱える。スウ、と夜桜誘夜が月詠の姿ごと景色に掻き消えた。
これは【変化】と同じく、妖刀・夜桜誘夜に取り憑いた変化呪霊に呪力を対価に差し出すことで使用することが出来る、呪霊の術式である。夜桜誘夜が和傘形状で、尚且つ傘を開いている時、制限時間は約1分間、この能力を扱うことができる。
呪霊がギョッとこぼれ落ちそうなほど1つ目玉を見開いて月詠を探す。
が、既に遅し。
ザンッ。
呪霊の肥えた肉体が切り裂けた。呪霊が訳も分からず口から血を吐き出す。切口から焦げるように灰になり、呪霊の体が崩れていく。
「ヘンゲ」
あ、言うの忘れてた。みたいな、間抜けな声が聞こえた。
消えかけている呪霊の背後に、大鎌を構えた月詠が立っていた。ブンッと、一度夜桜誘夜を力強く振るい、刃についた呪霊の血がビッと払った。
そして完全に体が崩れた呪霊の残り灰のようなものに向かってベッと生意気に舌を出して「ザッコ」と呟いた。
夜桜誘夜の変化を解く。
別に術式を使う時以外にも変化を使い、夜桜誘夜を妖刀に戻してもいいのだが。実際妖刀の方が攻撃力は抜群に高い。しかし、何分呪力を食うもので。
後普通に持ち運ぶのに不便だから。月詠は基本夜桜の和傘を好んでいた。
さて、まずはあのブスを拾うか。
と、ここから離れようとしたとき、凄い勢いでコチラに向かってくる足音と犬の鳴き声が聞こえた。
それを聞いた月詠がパアッと顔を明るくした。
ガンッ、と扉が突進で破られる。黒毛の玉犬が月詠に向かって飛び付くように走ってきた。月詠がそれをしゃがんで受け止める。
「クロのワンコちゃん!シロちゃんどしたの?恵くんは?無事?」
ヨシヨシヨシとワシャワシャと頭を撫でてやりながらそう聞くと、玉犬から肯定的な返事が返ってくる。
すると遅れて駆け足気味な足音が聞こえてきた。こっちは間違いなく人間のものである。
玉犬が突き破った扉から伏黒が「月詠!」と入ってきた。伏黒の顔を見た月詠はこれでもかと言わんばかりに目も表情もキラキラと輝かせる。
「めぐッ、恵くッ!恵くんよかったあ〜〜ッ!」
「特級と遭遇した。虎杖が足止めしてる。釘崎は」
「ゴメン影ン中であのブスの手離した、ココいねえんだ。アタシのミスです。恵くんワンコちゃんどしたの」
「玉犬の白は特級に壊された。黒は釘崎の匂いがわからねえ」
「そっかマジでごめん。も一旦別れて探そ。あーしはまだ必殺使ってない、隠密も多分後2回は使える」
「釘崎を見つけたら虎杖が宿儺を出す。俺が見つけて連れ出たら玉犬で合図をする、そしたらお前もすぐに出てこい。巻き込まれる」
「り。あーしが見ッけたら森岡が鳴くから」
「森岡鳴くんだな」
「鳴くんだわ実は。声デカイから普段黙らせてッけど」
なー、森岡。と月詠が夜桜誘夜を撫でると、取り憑いてる変化呪霊、改め森岡が「ギャ」と小さな声で返事をした。
因みに森岡とは月詠が7歳の頃に名付けた名前である。月詠の実家には他にも日本風の名前をつけられた契約呪霊がまだ何匹かいる。
伏黒が「声汚ねえな」と言うと月詠がそれに「呪霊だかんね」と答えた。
伏黒が月詠の肩をパシン、と右手で叩く。そして玉犬と共に駆け出した。
「わかったそれで行く。死ぬなよ相棒」
「OK,Buddy.」
二人が背を向いた。さてと、伏黒とは別の方向へ駆け出す。
全員でここから出る為に。
誰一人、欠けることなくここから出る為に。
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