誰かの話

また一緒にスパイスたくさん使ったサンドイッチを食べようねって、君は何回言ってたっけ。それはボクは食べた事ないし誰かと間違えてるんじゃないの?と適当に聞き流した事はちょっぴり後悔している。
開いた窓からは心地よい風が吹き込んでくる。穏やかで、ずっと向こうまで見えるくらいに今日はいい日和だ。
だけど、今のボクにとっては少し肌寒い。カラカラとサッシの音を立てながら窓を閉め、振り返って部屋を見渡す。
この前まではこのベッドに君は寝ていたはずなのに、と整えたシーツにそっと指を這わせ、腰をかけた。このベッドから歩くこともできない程に老いた君と、君の思い出を詰めたアルバムを見ながら声を交わしたあのときを瞼の裏に思い浮かべる。出会った時とは違う、しわくちゃで硬くなった指先も好きだったな。
君の終の住処となったこの家は、明日には君の遺言通りに新たな主人がやってくる。それまでにある程度片付けておいてやらねば。アイツのこともなんやかんやでお気に入りだし、ボクの新たな主にもなるわけなのだから。
そうとなれば、君の残したアルバムも早くデータに置き換えていかなければいけない。部屋の壁一面の本棚に隙間なく詰めてやがるのだ。日焼けだとか虫干しだとか湿気だとか、管理するには骨が折れるだろう。どうしてこのご時世にこんなアナログな形にこだわったのか。
とりあえず一冊、本棚から抜き出そうと背表紙に指をかけた。ひらり、と視界の端で何かが舞い落ちる。写真だ。アルバムとアルバムの間から滑り落ちてきたのか?今の今までそんな扱いの写真に気づかないなんて。
そっと拾い上げてその写真を見る。ど真ん中に映るサンドイッチを片手にこちらを見る女性のこの髪と瞳の色は若い時の君だろう。その隣にはボクが写っていた。
……ありえない。ボクが知っている君よりもうんと若い君と、今とそう変わらない姿のボク。ありえない写真に困惑する。どういうことだ?ボク以外のミライドンと暮らしていたことがあるのか?いや、ドラゴンは長寿だ。この写真のボクとボク自身が出会ってないなんて寿命を考えればそんな事があるわけない。それなら……?ハッと写真の隅に写り込んだ他のドラゴンに目が行く。トドロクツキ。彼女は確か、大昔からタイムマシンでパルデアにやってきたって話をしていたような。それに、ボク自身もパルデアの大穴の奥底でタイムマシンの誤動作に巻き込まれてこの時代にやってきたような記憶が薄らとある。
もしかして、これはボク自身?それならば君が何度も言っていた「また一緒に」という言葉にも辻褄が合う。
慌てて窓の外を見る。日はまだ高い。明日になるまで時間がある。今日まではボクのパートナーは書類上はまだ君のままだ。つまり、ボクが何をしようとボクのせいで怒られる人はいないのだ。準備をする時間なんてない。思い立ったが吉日と大慌てで戸締りのひとつも確認せずに家を飛び出した。目指すはパルデアの大穴。動くかどうかも分からないタイムマシン。
あの写真の真相を確かめたい。……いや、違う。寂しいのだ。例え若い時の君だとしても、もう一度でいいから会いたい。他愛のない話をして、一緒にご飯を食べて……。
ああ、そうだ。君が何度も言っていた、スパイスをたくさん使ったサンドイッチ。ボクはその味を知らないけれど、また君と食べたいんだ。
ねえ、ハル。ボクは君と会えたらなんて言おうか。ちょっと洒落た事が言えればカッコつくと思うんだ。君が出会った時にかけてくれた言葉なんてどうだろう。
「ボクは、君の"最期"の頼れる相棒さ!」
……なんてね。
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