お揃いと特別

「ねぇ律っちゃん、それ高野さんとペアルック?」
「違っ…これはその、偶然色違いになったっていうか…」
「何言ってんだ小野寺。お前が俺とお揃いの物が欲しいって言うからこの前一緒に買いに行ったんだろーが」
高野さんのツッコミにドキッとしたけど、そういえばそんなこともあったような……。
でもあの時は仕事だったし、まさかこんなことになるなんて思わなかったんだよ! てゆーか、いつの間に買ったんですか!? 俺は聞いてませんよ!! しかもなんで今日に限って同じ服を着てるんですか!
お揃いのペアマグと色違いの同じ服とか……。
「律っちゃん高野さんとラブラブじゃん!良いなー。俺も雪名とお揃いで何か買おっかなー?」
木佐さんが羨ましそうな声を上げる。
ラブラブ…そうかそう見えるんだ。確かに職場での高野さんの視線が以前に比べると優しいというか、まるで愛おしいものを見るような感じになっている気がする。
そして俺に向ける笑顔は昔に比べて格段に優しくなったと思う。
チラッと高野さんに視線を向けてみると「どうした?」と柔らかい笑みで返される。……だからそういう顔をされると心臓に悪いんですよ!! 俺は慌てて目を逸らして俯いた。
「いや、何でもないです」
顔が熱い。絶対赤くなってるだろうな……。
「律っちゃん照れてるの?かーわいいなあ!高野さんが律っちゃんのこと好きになる気持ち分かるかも!」
木佐さんが嬉々として言うものだから、余計に恥ずかしくなってきたじゃないか。
ああもう早く帰りたい。
「その辺にしてやれ、木佐。小野寺が赤くなって逆上せるぞ」
高野さんが笑いながら言うと、「それもそうだね。ごめん律っちゃん」と木佐さんが謝ってくれた。
「木佐さんが雪名くんの惚気聞かせてくれたらチャラにしてあげます」
「わー!待って待って律っちゃん!!だからごめんってば!」
慌てふためく木佐さんを見て皆が笑う。
こういう時間はやっぱり楽しい。
「はあー…最近律っちゃんも慣れてきたよねえ。前はあんなに嫌がっていたのにさ」
「そりゃああれだけ揉まれれば慣れますよ。いつも遊ばれるのは俺ばかりなので更に擦れましたけど」
「へぇー。まぁいい傾向だと思うけどね。最近の律っちゃんは楽しそうに見えるし」
「そ、そうですか?普通だと思いますけど……」
「うん。前のピリピリしていた頃に比べたら全然違うよ。最近は本当に幸せオーラが出てるもん」
「幸せオーラ…」
思わず両手で頬を覆う。高野さんに漸く告白して再び付き合い始めた今、幸せじゃないわけがない。
だけど周りからはそう見えているのか……。
ふと高野さんを見ると、目が合って微笑まれた。
うぅ……この人ホントに甘い表情をするようになったな……。
「あ、今も出てる。律っちゃんのまわりに花が飛んでる感じ」
「えっ!?本当ですか!?それはちょっと困ります!!」
「何で?俺としてはもっと出して貰っても構わないんだけど?」
「ななな何言ってんですか!無理ですよそんなこと……」
「お前、会社じゃツン全開なくせにプライベートだとデレ全開じゃん。少しくらいは会社でもデレ発揮して欲しいんだけど。せめて休憩の時くらいはさ」
「うぐっ……き、休憩時間くらいならまあ……考えなくもないですけど、人が居ない時だけですよ!恥ずかしいんで…」
今となっては嫌がる理由もなくなったとはいえ、会社の人間がいるところでベタつくのはまだ抵抗がある。
それにここは社内だし、高野さんだって上司としてそういう事をするのは避けて欲しいと思っているはず。
「別に気にしなくて良いんじゃない?高野さんと律っちゃんが付き合っているのなんて丸わかりなんだし」
木佐さんの言葉を聞いてドキッとした。
そうなのだ。高野さんと付き合い始めてからというもの、社内では公認カップル扱いされていて冷やかしを受けたこともある。
「社長の井坂さんだって秘書の朝比奈さんと付き合ってるって、こないだ公表してたじゃん?だから隠す必要なんて無いと思うよ?」
そういえばそうだった……。お陰で同性同士の交際にも寛容な空気が出来上がっていて、社内でも濁さずに堂々と話している人達をよく見かけるようになったのだ。
「こないだ雪名が絵本の仕事の件で会社に来たときも「木佐さんのこと堂々と自慢できて嬉しいッス!」って言われてさー、やっぱり俺もちょっと嬉しかったんだよね。律っちゃんと高野さんが仲良いのは前から知ってたし、お似合いだよなーと思って見てたからさ」
「そうなんですね……なんか、ありがとうございます」
「あ、でも律っちゃんと高野さんがイチャイチャしてるとこを想像したらちょっとキモいかも」
「なんでですか!そこは素直に喜んでくださいよ!」
木佐さんの冗談に突っ込みを入れつつも、皆が俺たちのことを祝福してくれていることが凄く有難かった。
高野さんのことも好きだし、皆との関係も大切にしたい。
俺にとってこの場所はとても大切な場所だから、これからもずっとここで仕事をしていきたいと思う。

仕事を終えて帰宅すると珍しく早く帰宅していた高野さんに出迎えられて、「おかえり」と頭を撫でられる。漸く俺が告白したお陰か今の高野さんは穏やかで、以前のように性急に押し倒したりする事も怒涛の校了明け以外では少なくなった。
お互いシャワーを浴びてベッドに入り、恋人同士の時間を過ごす。
高野さんと肌を重ね合わせて愛し合った後は俺達は裸のままで抱き合って眠る。
「……どうしよう、なんか…恥ずかしい」
高野さんと体を重ねるのは初めてではないのに、今日はなんだか凄くドキドキしている。
「何を今更恥ずかしがってんだよ」
高野さんがくすりと笑って俺を抱き寄せた。普段のからかうような笑みではなくて、優しい微笑みを浮かべながら。
「それはそうなんですけど……でもやっぱり何か変な感じで……それに」
「何だよ」
「気持ちが通じ合ったあとの方が…より意識してしまうというか、何というか」
「まあ、確かにそうかもな。でも、俺はそういう方が嬉しいけど?」
高野さんはそう言うと俺の額に軽く口付けた。
「う……そ、それならいいんですけど…」
愛おしそうに見つめる高野さんの視線に耐えられなくて胸元にすり寄るように顔を埋めると、それはそれで高野さんの香りがして落ち着かない気持ちになった。
そんな俺を見て高野さんはクスリと笑う。
「お前、可愛いすぎ」
「か、可愛くなんかないです!」
「はいはい。とりあえず今日はこのまま寝ようぜ」
「そうですね……」
そうして高野さんの腕の中で目を閉じる。
直に感じる肌の温もりが心地良い。
こうして高野さんと触れ合えることが幸せで仕方がない。
それも全部高野さんのお陰だ。
俺は改めて高野さんへの想いを込めて、高野さんの胸に顔を擦り付けてぎゅっと抱きついた。
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