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たまには素直に


「あの、高野さん…そろそろ離してください…っ」 
校了明けで、いつものように高野さんの部屋に連れ込まれて迎えた朝。
目が覚めたら高野さんがじっと見つめながら俺を抱き締めていた。
「嫌だ。離したらお前逃げるだろ?それとも、嫌か?」
「嫌じゃないですけど…あの…何か恥ずかしくて…」
付き合い始めてから何度も身体を重ねているのに、こんな風にただ抱き締められるだけなんて今までなかった。
それに昨日は久しぶりに高野さんと二人きりだったせいもあって、ちょっとだけ浮かれてしまったのだ。
だからあんな事を口走ってしまった訳だけど……。
「今更何言ってんだよ。つーか、昨日だってあんなに「うわああああっ!!」
「何だよ。大声で叫ぶな」
「朝から思い出させるような事言わないでくださいっ!」
「俺は嬉しかったけどな。積極的な律が見れて」
「あ、あの時は深刻な高野さん不足だっただけなんです!そうでなかったらあんな……」
思い出すだけで顔に熱が集まる。
高野さんに求められて触れられるのが嬉しくて、無意識に両脚で高野さんの体を抱え込んで…まるで体が高野さんを離したくないって言ってるみたいな。
そんな自分が恥ずかしいやら情けないやらで、思わず両手で顔を覆う。
「あー…俺もスゲー律不足だった。ずっと触りたくて仕方なかったのにキスも出来ねーし。つーか、誰が忘れるかよ。あんな可愛い事してくれて、さ」
「可愛くなんかないですよ!」
「じゃあ、律は俺の事嫌いになったのか?」
「そういう聞き方はズルいと思います……っ」
何だよもう……この人はホントに狡い。
嫌いになれるはずがないじゃないか。
そもそも高野さんは俺がどんなに酷い態度を取っても、その度に好きだって伝えてくれたんだから。
それがどれだけ嬉しかったかなんて、きっと本人には解らないだろうけど。
「そうだな、今の質問は卑怯だった。悪かった」
クスリと笑って額に触れるだけのキスを落とす。そのまま頭を撫でられて、胸の奥がきゅんとなった。
やっぱり高野さんに触れられていると安心する。
くすぐったい感触と、優しく触れてくる指先がくすぐったくて、でもそれが気持ち良くて……。
もっと、って言うみたいに身体を寄せたら今度は深く口付けられた。
何度も角度を変えて貪るように求められるそれに次第に思考が溶け始めていく。
暫くして漸く離れた時にはお互い息が上がりきっていた。

朝なのに、とか昨夜さんざん抱いたくせにとか言いたい事は山ほど浮かんでくるけど、今はそれよりも高野さんと触れ合いたい気持ちの方が強かったから。

「まあ、いつもこれくらい素直だったら嬉しいんだけどな」
「そっ……それは、俺の心臓がもたないのでまだ無理です……」
「まだ、って事は慣れたらやってくれんの?」
「……俺の気まぐれに合わせてくれるなら考えなくもないです」
だからそんな嬉しそうな顔で見ないで欲しい。こっちはいつも高野さんのペースに振り回されて乱されてドキドキさせられっぱなしで、自分からなんて雰囲気に後押しされないと出来そうに無いから。
「そんなのいくらでも合わせてやるよ。律から求めてくれるなら嬉しいし、安いもんだ」
「……バカ」
結局高野さんの手の上で転がされているような気がするのは気のせいだろうか。
悔しいから少しだけ反撃しようと思ったけれど、額や頬に軽く口付けられて反射的に目を閉じるとそのまま唇も奪われて翻弄される。
ああもう……高野さんのペースに乗せられるのは仕方ないか。どうせ俺はこの人に逆らえないんだし。
諦めに似た感情を抱いて高野さんの首に腕を回すと、ぎゅっと抱き締められたままベッドに押し倒された。ベッドの上で縺れ合いながら心地よい肌の温もりに身を任せる。
「律……」
高野さんの優しい声色と共に、首筋にチクリとした痛みを感じた。
一瞬何をされたのか理解できなかったけど、すぐに思い当たる事が一つだけあった。
「高野さん、痕付けました?」
「悪い。今日は休みだしいいかなって」
「じゃあ俺も高野さんにつけます」
休みの間なら家の中で過ごしている時は誰に見られるわけでもないし、高野さんも俺も仕事柄着替える事も多いから大丈夫だろう。
高野さんの鎖骨に吸い付くようにキスをして、歯を立てないように甘噛みするとピリッとした痛みを感じて高野さんも同じ事をしたのだという実感が湧いてきた。
「律もつけた?」
「はい……高野さんみたいに上手くはつけられませんでしたけど」
「初めてなんだし仕方ねーだろ。これから練習すれば良いだけだ」
「……そうですね」
高野さんが俺の練習台になってくれるというなら喜んで引き受けよう。俺だって高野さんの体に痕を残したいし。
「あのさ律……俺、ちょっと我慢できそうにないんだけど……」
「俺もです」
本当はもう少しこうして居たかったけど、このままだと高野さんが暴走しかねないから仕方がない。
それに昨日散々ヤッておいて今更って感じもするけど、それでもやっぱり好きな人と触れ合うというのは特別なものだから。
「律……好きだよ」
「俺も……好き、です」
再び重なった唇の熱さに頭の芯まで蕩けそうになる。
高野さんの腕に抱きしめられながら、俺は幸せに浸るのだった。
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