短編
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「幸ちゃんが来てるんだって?」
そう言いながら比奈が勢い良く部室に駆け込むと、ミーティング用の椅子に腰掛けていた幸村が振り返り、柔らかく微笑んだ。
「やあ比奈、久しぶり」
「久しぶり~!相変わらず美人だね!!」
「比奈こそ、まだ忍足と付き合ってるんだって?フフ・・・しぶといよね」
最後の方だけ小さく呟くと幸村は笑顔のまま舌打ちをする。
「まぁ元気そうで良かったよ」
「元気元気!って言うかその言葉はそっくりそのまま返すよ。手術したって聞いたけど・・・もう大丈夫なの?」
どこか窺うような比奈に幸村は苦笑すると、小さく肩を竦めた。
「ご覧の通り、もうピンピンしてるよ」
「元気過ぎて有り余った体力をウチとの練習試合で解消したいそうだ」
そう言って余裕の笑みを浮かべる跡部は、負ける気等ないと言わんばかりだった。
「練習試合は俺のためじゃないよ。他の奴らの良い刺激になればと思ってね」
「さっすが部長!部員の事を考えて」
「―――まぁぶっちゃけ、俺のいない間にどれだけ実戦での技術を磨いたのかが見たいんだよね。たいして進歩がなかったら・・・フフ、それなりの覚悟をしてもらうけど」
「「・・・・」」
冷ややかな空気を幸村から感じとり、跡部と比奈は思わず押し黙った。
「あ、そういえば今日はうちの2年生を連れて来てるんだ」
「2年生?・・・ああ、あの強いって噂の2年生エース?」
「日吉にコートを案内させてるんだが、そろそろ戻るだろ」
「なんて名前だったかなぁ・・・確か~」
比奈が「う~ん」と考え込んでいると、不意に部室のドアが開いた。
「幸村部長ー!コート見てき」
「キレ原赤也!ね、そんな名前じゃない?」
「・・・あ?」
一瞬、部室内に気まずい雰囲気が流れる。
比奈は部室に入ってきたワカメヘアの少年に釘付けになり、少年は少年で自分の名前を堂々と間違える比奈に見入った。
「え~と・・・どちら様?」
「・・・切原赤也っス」
「あ、キミがキレ原くん?」
「(・・・この人わざとか?)」
明らかに不機嫌そうになる切原。
そしてそれに気付かない比奈。
そんな二人を楽しげに見守っていた幸村は、クスクスと笑いながらも助け舟を出した。
「比奈、確かにキレやすいけど名前は切原だよ」
「あ・・・ゴメン」
「部長!俺別にキレやすくないっスよ!?」
「説得力がゴマ粒程もないよ、赤也」
笑顔のままピシャっと言われ、切原はグッと言葉を詰まらせる。
入院していたとはいえ試合の様子等はその都度細かく伝えており、退院してからは真っ先に部員全員の試合をビデオでチェックしていたのを切原も知っていたのだ。
それだけ部員を気にかけてくれている心優しい部長であると同時に、不甲斐ないプレイには副部長を超える厳しさを見せる部長でもある幸村。
自分にはどんなペナルティがあるのかと内心冷や冷やしていた切原は、まさに蛇に睨まれた蛙の心境だった。
そんな事を露程も知らない比奈は、顔の前で手を合わせて切原に頭を下げた。
「ごめんなさい!私も他の部員から聞いてうろ覚えだったから・・・」
「別に・・・もう良いっすよ」
「ホント、ごめんねキレ原くん」
「キレてねぇ!切原だっ!アンタわざとやってるだろ!!」
「あ、キレた」
「ほら、キレたから説得力がミジンコレベルまで下がったよ」
どんなレベル?微生物レベル??
ミクロな世界にまで比較対象を拡げられ、それでもツッコむ勇気が持てない切原。
そのまま「キレたキレた」と騒ぐ比奈と幸村に、切原は全神経を集中させて怒りを抑え込むと、その上から全力で笑顔を貼り付けて言った。
「キレてないっスよ!」
それはまるで―――某お笑い芸人のようだったとか・・・
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