短編
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フワッと鼻孔を擽る甘い香に、芥川は重い瞼を開いた。
(・・・何処だっけ、ここ)
薄暗く見慣れない室内に、体に馴染まない布団。
眠気で霞がかる思考を暫く廻らせると、漸くここが合宿施設で自分が青学との合同合宿に来ていた事を思い出した。
周囲に意識を向けると、他の部員達はグッスリと眠っているようだった。
いつの間に布団に入り眠ってしまったのかは記憶にないが、そんな事は日常茶飯事なので気にも留めない。
芥川は瞼を閉じると、再び睡魔を呼び込むべく、ゴロンと寝返りをうった。
―――が、その途端に先程目覚めるきっかけとなった甘い香が強くなり、芥川はうっすらと目を開いた。
すると、目の前に艶のある髪が渦を巻いて拡がっているのが見える。
それが見慣れた比奈の髪だと気付くのに時間はかからず、芥川はさすがに覚醒せずにはいられなかった。
「・・・比奈?」
とりあえず呼んでみるものの反応はない。
気怠げな腕を延ばして髪を掻き分けると、気持ち良さそうな寝顔が露になる。
(熟睡してるC~)
どうしたものかと改めて辺りを見渡すと、自分の向かい側で忍足が寝ているのに気付いた。
(確か・・・比奈は忍足と寝るんだったっけ?)
それなのに何故自分の隣で?と、一応疑問には思ったのだが、再び眠気が舞い戻ってきたのと、毛布も着ずに眠っている比奈が小さく震えているのに気付き、芥川は深く考えだす前に比奈を自分の布団の中に引っ張り込んだ。
(冷た・・・)
布団で温まった自分の腕に、外気で冷えた比奈の体は酷く冷たく感じる。
気が付くと芥川は包む様に比奈を抱き込み、その身体を温めようと軽くさすっていた。
自分とは違う細く華奢な体。
だが、女の子らしい柔らかさがちゃんとあり、言いようのない安心感に満たされる。
(忍足がいつも比奈を抱っこしたがるのも分かるな・・・)
比奈自身は目立つからという理由で嫌がっていたが、忍足は所構わず比奈を腕に引き寄せたがっていた。
恋人の独占欲もあるのだろうが、スッポリ腕に納まる比奈は実に抱き心地が良く、その柔らかさが癖になる。
芥川自身も無意識のうちに比奈に抱き着く様になっていた。
(忍足に怒られるけど・・・)
いつもはクールな忍足も、比奈が絡むとその飄々とした態度が一気に崩れる。
それほど比奈に惚れているのだろうと芥川は思った。
「・・・でも・・・好きになったのは俺が先だC~」
ポツリと呟くと、芥川は比奈抱く腕に力を込める。
『あの日―――もし気持ちを伝えていたら、彼女は自分を選んでくれただろうか?』
何度も押し寄せる深い後悔。
だが、彼女の笑顔を見る度に自分の選択は間違っていなかったと思える。
別にカッコつけてるわけじゃない。
ただ・・・君に幸せになってほしいだけ。
たとえ聞きたかった君の『言葉』が他の人のモノだったとしても。
たとえ君の『隣』に立つのが自分じゃなくても。
「比奈が俺を選ばなくても・・・俺は比奈を支えるよ」
君が誰を好きでも俺は変わらない。
毎日願うのは君の笑顔、君の幸せだから―――・・・
―――そして、その翌朝は忍足の絶叫から始まるのだった。
「~っ何しとんやジローっ!」
夢の世界に旅立っていた面々を一瞬で現実に引き戻した忍足の叫び声。
一同は一気に跳び起きると、また一気に固まった。
あれだけの大音声で叫ばれても起きる気配すらない芥川。
そしてそのすぐ隣には―――・・・
「比奈っ!何もされとらんか?!」
眠そうに目を擦る比奈の姿があった。
「何で同じ布団におるんや!?コラ、起きんかい比奈!」
慌てて比奈を芥川の布団から引き出す忍足。
「・・・あ~おはよう侑士」
「おはようさん・・・って、そうやなくて!」
「あ~あれ?私ってばジロちゃんの所で寝てたの?夜中に転がっちゃったのかな・・・」
どんな寝相だよ!と、漸く集団金縛りの解けたメンバーは激しくツッコンだ。
「どうやったら向かいに転がるんや?!前転か?それなら横に転がった方が楽やろ!」
「そう言われても・・・あ、でも寒くて布団に入ったのは覚えてるかも」
まさかジロちゃんの布団とはねーと、軽く笑う比奈に忍足は静かに脱力した。
「でもよ、ジローの奴よく無傷だったな」
「亮ちゃん酷っ!私そんなに酷い寝相じゃないって言ってるでしょ!?」
「ジローの所まで転がってる時点で説得力ねぇぞ」
まだ眠たげな向日にツッコまれ、比奈は「うっ・・・」と言葉に詰まる。
「い・・・いいもん!寝相悪くてもジロちゃんにケガさせてないし!!危険性はない寝相だよ!」
「開き直ったね」
寝癖一つついていないパーフェクトヘアをかき上げながら、滝が呆れたように小さく微笑む。
そうこうして周囲が騒いでいるうちに、ゆっくりと芥川の意識も浮上してくる。
(・・・・もう朝?)
静かに覚醒していく意識の中、今日も君の声がする。
(―――今日も一日、比奈が笑顔でありますように)
俺は毎日、そう願うよ―――・・・
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