彼氏の使命 彼女の特権
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「姉・・・さん?比奈の妹か?」
怪訝そうに宍戸が呟くと、比奈は弾かれたように首を横に振った。
「違う・・・妹なんかじゃ・・・姉妹なんかじゃない!この子は」
「従姉妹なんです。比奈ちゃんのお父様の妹が私の母で・・・」
氷帝メンバーの顔をゆっくりと見回しながら言うと、瑞穂は比奈の後ろ―――忍足に視線を留める。
値踏みするように観察すると、小さく笑みを浮かべて比奈に視線を戻した。
「中学に上がる時に私の両親が他界したんで、比奈ちゃんの家に養女として引き取られたんです」
だから戸籍上は姉妹よね?と微笑みながら瑞穂は一歩、また一歩と比奈に歩み寄る。
「比奈ちゃんが転校してからだから・・・もう一年以上も会ってなかったわね」
懐かしい、と笑みを浮かべる瑞穂。
対する比奈はぎゅっと奥歯を噛み締めた。
「瑞穂~!そんな奴に構うなよ!こいつに何されたか忘れたのか?」
「だって英二・・・ご両親があんな事になったんだもん。比奈ちゃんだってきっと反省してくれてるわ」
「わからないよ。彼女は被害妄想が激しいみたいだからね。瑞穂の事を逆恨みしてるかも」
冷たく言い捨てる不二の視線に、比奈は怯みそうになりながらもグッと耐えた。
「わ・・・私は氷帝のマネージャーとして来てるの。瑞穂に関わる気はないから・・・」
震えないよう押さえ付けた声は堅く強張る。
けれどもその瞳は真っ直ぐと青学側を見据えていた。
「よくこんな奴をマネージャーにするよなぁ。氷帝って変わってる~」
「彼女が猫被ってたんじゃないかな。きっと青学での事だって話してないよ」
尚も続く菊丸と不二の厭味のラリー。
それに終止符を打ったのはそれまで一言も話さなかった氷帝側だった
「―――さっきからお前らうるせーよ」
最初に口火を切ったのは、宍戸だった
「青学の時は、青学の時はってしつこいんだよ!耳が遠いのか?こいつが今いるのは氷帝だって言ってんだろ!」
「ネチネチした言い方しやがって・・・嫌な感じだぜ」
続いて向日が呆れた様に言うと、菊丸がカッとして口を開いた。
だが、菊丸が何かを言う前にすかさず日吉が嘲笑を浮かべる。
「昔話がしたいなら自分達だけでしてもらえますかね。そんなのに付き合う為に来たんじゃないんで」
「・・・キミ達も彼女がしたことを聞けばそんなこと言えなく」
「―――必要ないですよ。俺達は比奈さんがどんな人かよく知ってますから」
不二の言葉を遮るように鳳が言うと、それまでウトウトと舟を漕いでいた芥川が大きく頷いた。
「そうそう!今の比奈ちゃんを知ってれば問題ないC~」
「手塚よぉ、こんな事に付き合わせる為に俺様達を呼んだのか?ハッ!いい度胸じゃねーの」
「・・・ウス」
いつもと変わらぬ口調の跡部だったが、その顔に笑みは欠片もなかった。
その様子に、これまで敢えて口を挟まなかった手塚がゆっくり口を開く。
「すまなかった。―――菊丸、不二、グラウンド100周だ。今すぐ行ってこい」
「えぇ~っ!?」
「・・・・」
「嫌なら今すぐ学校に帰れ。合宿へは参加させん」
頑とした手塚の言葉に菊丸が押し黙る。
そんな菊丸を促して不二は歩き出した。
「グラウンド行くよ、英二」
「うぅ~!ここのグラウンド一周どんだけあるんだよ~」
ブツブツと不満げな菊丸達を見送り、比奈は漸く息を吐いた。
「ちょっと意外、かな・・・」
「何がやねん、滝」
「比奈のこと、忍足が真っ先に庇うと思ってたからさ」
サラっと髪を揺らしながら滝が首を傾げると、忍足は小さく肩を竦めた。
「俺が比奈を庇うのは当然やん。せやから、俺は他の奴が比奈を庇う気があるんか知りたかったんや」
「・・・一応聞くけど、『何のため』に?」
既に答えを予想した上での滝の質問に、忍足は満面の笑みで答えた
「もちろん、一週間無事に比奈を守りきる為やん」
やっぱり・・・と言った様子で滝は静かにため息を吐く。
「本当に比奈を合宿に参加させるつもり?青学がいるって話しただけで脱走しようとしたくらいなんだよ?」
「比奈も何気に参加する気になっとるやん。・・・それに、逃げようとしたんは青学のせいやない」
不意に前方に向けた忍足の視線を滝の眼が辿る。
その先の人物を見て滝は納得した。
「牧村 瑞穂、か・・・」
「さっきから俺らの事もごっつう見とるで。・・・悪巧みしとるんやろなぁ」
「怖い怖い」と口角を吊り上げると、忍足は前で立ち尽くしている比奈を青学側から隠すように抱き込んだ。
「比奈、よう頑張ったなぁ。偉い偉い」
親が子を褒めるように忍足は比奈の頭を撫でる。
だが、比奈は静かに俯いたまま何の反応も返さなかった。
「比奈?」
不思議に思った忍足が後ろから顔を覗き込むと、小さな、本当に小さな呟きが耳に入った。
「大丈夫…大丈夫…今は氷帝、今は氷帝…青学じゃない……テニス部じゃない…アレは…もう終わった事…」
表情までは伺えないが、まるで自分に暗示をかけるような呟きに忍足の胸が締め付けられる。
今、立っているのもやっとだと小さな肩が訴えかけてくるようだった。
忍足は包み込む様にその肩に腕を―――・・・
「っしゃ!もう怖くない!」
・・・回そうとしたところで、勢い良く顔を上げた比奈に見事な頭突きをくらい、突如やってきた地獄の苦しみに悶絶した。
「あれ?侑士なにやってんの?」
何事も無かったかのように振り返る比奈。
「~~~っの石頭が!急に顔上げるんやない!顎割れたかと思うたわっ!」
「はぁっ!?侑士が私の後ろに立ってるからでしょ!」
「黙って立ち尽くしとるから何かと思ったんや!」
「・・・っちょっと気分が落ち込んじゃったから喝入れてただけだし!」
一瞬言葉に詰まった比奈に忍足の表情が微かに曇る。
「・・・アホか。カラ元気出しとるだけやないか」
「カラ元気も立派な元気です!・・・いいの、さっき侑士の前で泣いたから。あれでもう一週間分落ち込んで悩んだからおしまい!」
そう言って快活に笑う比奈。
忍足にさえも滅多に弱音を吐かない比奈。
(何が『立ってるのがやっと』やねん)
彼女はいつでも自分の足で立ち続けているというのに。
――それはきっと忍足が望んでいること。
自分にだけは泣き言を言ってほしいと思ってしまう忍足自身のエゴだった。
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