彼氏の使命 彼女の特権
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「おい、そいつどうかしたのか?」
比奈を抱いて戻ってきた忍足に跡部が真っ先に声をかける。
「何でもない。ちょっとバスに酔って気分が悪うなっただけや」
あれだけ走っておいてか?と怪訝そうに言いながらも、跡部はそれ以上何も聞いてこなかった。
勘の良い跡部の事。
恐らく、先程までとは雰囲気の違う忍足と、忍足に抱かれたまま顔を上げずにいる比奈の様子から何かを悟ったのだろう。
「―――行くぞ」
跡部は改めて号令をかけると、部員達を率いて宿泊施設へと歩き出した。
合宿所は新しい外観通り、施設の中も綺麗に整えられていた。
入ってすぐのロビーには既に青学のレギュラー陣が控えており、一斉に出迎えられる。
「急な申し出だったのにすまないな、跡部」
「ハッ!お堅いお前が飛び入りしてくるとは思わなかったぜ、手塚」
相変わらず尊大な態度の跡部に、手塚は生真面目に頭を下げた。
それを少し離れた所で眺めながら、忍足はさりげなく比奈の様子を観察する。
もう涙は止まったようだが顔は伏せたままだった。
青学の声がした時に微かに反応したが、それほど怯えている風もない。
(誰や・・・テニス部やないんか?)
悶々とそんな事を考えていると、不意に聞き慣れない声がした。
「―――手塚君。話の前に氷帝の皆さんを部屋にご案内したら?疲れてるだろうし荷物を下ろさないと」
甘く耳に絡むような声。
声の主を忍足が確認する前に、腕の中の比奈が小さく震え出す。
(―――こいつか)
癖のない黒髪を揺らし、愛想の良い笑みを浮かべる綺麗な少女。
その眼は跡部達を透して真っ直ぐ比奈を見ていた。
「・・・見ない顔だな。青学にマネージャーがいたとは知らなかったぜ」
「わざわざ教える必要もないだろう」
「出し惜しみか?」
挑発的な跡部の言葉に、手塚の眉間に皺が刻まれる。
そんな一触即発手前の部長同士をよそに、氷帝のメンバーは妙に浮足立っていた。
「あのマネージャーさん、凄く綺麗な人ですね、宍戸さん」
「おっ、長太郎タイプか?」
「そうじゃありませんけど・・・」
思わず頬を赤らめる鳳を宍戸がからかう。
そんな二人の会話が聞こえたのか、少女は一歩前に出た。
「初めまして、氷帝の皆さん。青学マネージャーの牧村 瑞穂です。一週間よろしくお願いしますね」
そう言って微笑むと一重の目が微かに細まる。
絵に描いたような和風美人だった。
「―――腹黒そうだね」
不意に、忍足の隣で滝が小さく呟く。
「気に入らんのか?」
「問題外だよ。・・・それより、比奈の具合は?」
サラサラと顔にかかる髪を慣れた手つきでかき上げると、滝はグッタリと忍足に抱かれたままの比奈を覗き込む。
「比奈、生きてる?何か薬貰ってこようか?」
「滝ちゃんが優しい天使に見えるから結構ヤバイかも」
「正常じゃないか。僕は普段から優しいだろ?」
「滝ちゃんとの日常生活はどっちかって言うと小悪魔との黒い日々って感じがぶぅっ!」
最後まで言いかけたところで間髪入れずに顔面を掴まれた。
「―――やり直し」
「ふぁい(はい)」
顔の造形が変わらないうちに急いで頷くと、すんなり手は放された。
「えっと・・・・・・・・滝ちゃんとの日常生活は天使に見守られているかのような平穏と安息に包まれた天国でございます」
「間が長いうえに棒読みだから48点。不合格」
「え~!点数厳しいよ~」
「『美しい天使様』に部分変更したらあと2点あげるよ」
天使が聞いても「厚かましい!」と怒りだすであろう台詞を堂々と言ってのける男―――滝 萩之介。
その後、比奈はしっかりと部分修正を行い、見事2点を追加で貰えたのだった。
「侑士、そろそろ降りる」
散々滝とじゃれあった後、比奈は軽く身じろぎながら言った。
「大丈夫なんか?」
「多分、ね。いつまでも抱っこしてたら侑士だって疲れちゃうしさ」
「俺は別にかまわんけど?比奈はちっこいから重うないし」
「いい、降りる。初日からこんなんじゃ一週間続かないし」
頑として退かない比奈に、忍足は妙に歯痒い思いを感じつつ、下に降ろしてやった。
ストンと軽い音をたてて床に着地すると、一斉に青学側から視線が突き刺さる。
「・・・一ノ瀬・・・さん?」
驚いたように呟く声がした。
「ん?大石先輩、知り合いっスか?」
「え?あ、そうか・・・桃達はまだいなかったな・・・」
話す事を渋る様子の大石。
その視線は比奈を捉えて離れなかった。
「一ノ瀬 比奈さん。僕たちが一年の時に女子テニス部だった人だよ」
静かに言いながら不二の目がキツく細められる
「その・・・少し問題を起こしてね。二年に上がる前に転校して行ったんだが・・・」
まさか氷帝だったなんて・・・と困惑気味に呟く河村。
「せっかく追い出せたと思ったのに!こんな所で会うなんてついてねぇの」
敵意剥き出しに睨んでくる菊丸。
(皆・・・変わらないなぁ)
内心苦笑を浮かべていると、コツっと音をたてて瑞穂が比奈に歩み寄る
優雅な―――勝者の笑みを浮かべて・・・。
「瑞穂・・・」
「久しぶりね―――比奈姉さん」
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