彼氏の使命 彼女の特権
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「普段の運動不足が祟ったなぁ」
「面目ないです・・・」
消え入りそうな声で謝ると、比奈は掴まっている忍足の肩をキュッと握る。
先頭きって駆け出した比奈だったが、普段から練習にはマネージャーとしてしか参加していなかった為、現役テニスプレイヤーの忍足と越前に着いて行くのはかなり無理があった。
当然暫くも走らないうちにダウンし、その結果、忍足に背負われるという現状にある。
「少しは体力つけた方がいいんじゃない?」
「うぅっ・・・そうします」
越前の言葉に唸りながら頷くと、比奈はぐったりと忍足の肩に頭を預けた。
その様子に忍足は笑みを浮かべ、越前は微かに眉を顰る。
そうとは気付かずに比奈は深々と溜め息を吐いた。
「お腹空いた・・・」
「朝と昼で2食抜きやったからなぁ」
「育ち盛りなのに・・・栄養ないと背が伸びないじゃん」
「・・・別に、もう伸ばさなくていいんじゃない?」
「さすがに比奈にまで身長で負けるんは嫌か?」
「俺はこれから伸びる予定だから。老化が始まったあんたと一緒にしないでくれる?」
「・・・・」
「・・・・」
まさに一触即発の雰囲気な二人だったが、肝心の比奈は微塵も気付かずに「ひもじぃ・・・」と勝手に力尽きようとしていた。
もしこの場に滝が居れば、
「鈍いにも程があるんじゃない?」
―――と、鼻で笑われそうな鈍さである。
「比奈っ!!」
合宿施設で捜索に出ようと集まっていた部員達は、ずぶ濡れで戻ってきた比奈達に驚き、駆け出した。
その中でも芥川は先頭をきって駆け寄り、忍足に背負われている比奈を見て表情を強張らせる。
「比奈!?比奈怪我したの!??」
「ジロちゃ」
「大変だ!!早く救急車をっ」
「呼ばんでえぇから落ち着けジロー」
一人先走りだした芥川を冷静にツッコミ、忍足はゆっくりと比奈を地面に降ろした。
「ごめんね侑士。結局最後までおぶってもらっちゃって・・・」
「えぇよ。彼氏としては役得やったしな」
そう言いながらチラッと視線を向けると、越前は無言で忍足を睨みつけ合宿所へと歩き出した。
「そんなことより早う着替えた方がえぇな。ずっと濡れたまんまやし風邪ひくわ」
そう忍足が言い終わるや否や、芥川、向日、鳳、宍戸、樺地、日吉が一斉に自分の着ていたジャージを脱ぎ、比奈に被せた。
「・・・わ、わーい。選り取り見取りだぁー」
大小異なる6着のジャージに埋もれ、比奈は思わず棒読みになった。
だが、それも皆が自分を心配してくれてのことだと分かっていたので、やや照れ臭そうに「ありがと・・・」と呟く。
「―――なぁ、俺には無しなん?」
比奈と同じく濡れているにも関わらず誰からもジャージを差し出してもらえなかった忍足。
独り恨めしげに皆の方を睨んでいると、横からスッとジャージが差し出された。
「おおきに、跡部」
「・・・もう少し戻るのが遅れたら捜索ヘリを要請するところだった」
どこか不機嫌そうな跡部の言葉に、忍足はジャージを受け取りながら肩を竦めた。
「勘忍してや・・・そないに大事にされたないわ」
「だからギリギリまで待ってやっただろう。・・・たく、遅ぇんだよ!」
そう言い捨て、携帯を片手に跡部が去って行くと、ぽすっと頭の上に柔らかいタオルが乗せられる。
「跡部の奴、一番心配してたくせに素直じゃないね」
「滝・・・」
「おかえり、奇跡の生還者」
茶化すような口調とは裏腹に、心底安堵した様子の滝に忍足も苦笑を漏らす。
「ホンマ、無傷なんは奇跡やったわ」
「風呂を沸かして貰ったから入ってくるといい。ほら、比奈も早く!風邪ひくだろ」
比奈を囲むように立っていた部員達を掻き分け、滝は大きめのタオルで比奈を包み込んだ。
「ほんと、怪我がなくてよかったよ」
「滝ちゃん・・・」
「仮にも女の子を傷物にするのは可哀相だからね」
「仮も何も・・・正真正銘の女の子なんだけど・・・」
やや不服気味に呟きつつ、滝に促されるまま比奈は忍足と浴場に向かった。
「解凍終了~!」
ホカホカと湯気を上げながら浴場から出ると、比奈は待ちに待った食事をするべく足取りも軽く食堂へと向かった。
「ゴハン!ゴハン!ゴハ・・・ん?」
掛け声を上げながらロビーを突っ切ろうとした途中、比奈は不意に立ち止まった。
そして食堂ではなくロビーに備え付けのソファーへと向きを変えると、そっと近づく。
「・・・手塚くん?」
そっと声をかけると、微かに驚いた様子で手塚は顔を上げた。
「一ノ瀬か・・・」
「食堂行かないの?もうすぐ夕飯の時間だよ」
「あぁ、そうだな・・・」
頷いたものの立ち上がる気配のない手塚に、比奈は首を傾げつつ隣に腰を下ろした。
「・・・・」
「・・・・」
どちらも話さずに数分が経過する
「・・・・」
「・・・・」
いい加減に空腹に耐え切れなくなった比奈が立ち上がろうとすると、それよりも先に手塚が沈黙を破った。
「―――崖から、落ちたそうだな」
「え?あ、うん・・・」
「・・・怪我は・・しなかったのか?」
やや躊躇い気味な声だった。
比奈が大きく頷くと、「そうか・・・」と小さく呟いた。
ほとんど表情の変わらないその横顔が安堵したような気がして、比奈は先日感じた違和感を思い出した。
「・・・手塚くん」
「何だ?」
「ずっと聞こうと思ってたんだけど・・・もしかして、この合宿決めたのって手塚くんじゃないんじゃない?」
大きくはないがよく通る比奈の言葉に、今度こそ手塚の表情が変わったのが分かった。
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