彼氏の使命 彼女の特権
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「比奈ーっ!」
「比奈さんっ!」
昼近く、合宿所周辺で氷帝メンバーの声が響き渡る。
原因はマネージャー・比奈が姿を消した事だった。
初めはどこかでサボっていると思った部員達も、朝食の時間になっても戻って来ないので疑問に感じ始める。
その段階で忍足、滝、芥川が捜しに出たが見つからず、他の部員達も朝食を中断して捜索に加わった。
「合宿施設の中はどうだ!?」
「いません!部屋にも戻った様子がなくて・・・」
「一応、青学側の部屋も調べさせてもらったけどいなかったよ」
「チッ!じゃあ外だな」
「まずいな・・・この辺はフェンスを超えたら崖が剥き出しだ!」
「比奈の奴・・・落ちたのか!?」
「―――っ!くだらんこと言うな!岳人!!」
向日の発言に一瞬ビクッと反応すると、忍足はそれを打ち消す様に怒鳴った。
そしてどこか縋るように辺りに視線を向けると、もう何度も捜した倉庫に向かって駆け出す。
それを見送りながら、滝は静かに溜め息を吐いた。
「・・・今のは無神経だったよ、向日」
「・・・悪ぃ」
ばつが悪そうに力無く俯いた向日の背を、跡部は勢い良く叩いた。
「バーカ。悪いと思ってんなら比奈を捜せ!何が何でも見つけるんだ!!」
「お・・・おう!」
跡部の声に再び駆け出す部員達。
だが、その胸には隠しきれない不安が渦巻いていた。
その頃、渦中の人物・比奈はと言うと―――・・・
「お~い!誰かぁ~!」
高さ20メートル程の崖から突き出た枝にベンチコートが引っ掛かり、そのままぶら下がっていた。
「誰か・・・侑士ぃ!」
下を流れる川の水音に掻き消されながらも比奈は必死に叫ぶ。
「助けて~!ヘルプ~!!」
しかし、努力も虚しく人の気配は微塵もなく、比奈は自分の状況に泣きそうになった。
チラッと眼下に視線をやると深そうな川が視界に広がる。
「私泳げないのにぃ・・・」
落ちたらまず、助からないだろう。
「もぉ・・・溺死は嫌だー!」
やけくそになったのと、取り敢えず何か叫ばないとと思い比奈は叫び続けた。
どれくらいそうしていただろうか。
段々と喉に痛みを感じてきた比奈の耳に、枯れ葉の擦れ合うような音が聞こえた。
(え・・・誰かいるの!?)
一気に期待が膨らむ比奈。
その耳には聞き覚えのある声が届いた。
「おーい!比奈ー!!いないのかー!?」
「この声・・・亮ちゃん!?おーい!亮ちゃん!ここだよ!!ここ~っ!」
川の音に混じってか細く聞こえる声に気付き、宍戸は慌てて足を止めた。
「比奈!?おい、比奈か!??」
「そう!私、一ノ瀬 比奈、氷帝学園在籍の三年生で男子テニス部マネージャー兼マスコットアイドルです!」
「・・・なんか、最後だけ違わねぇか?」
「こんな時にツッコミなんて求めてないよ~!」
「ならボケるな!・・・って、おまえ何やってんだよ!?」
漸く崖っぷちの比奈を見つけ、宍戸は思わず「激ヤバだな、オイ・・・」と呟いた。
「だ、大丈夫か・・・?」
「あんまし大丈夫じゃない。だから助けて~!」
命綱は枝とベンチコートのみ。
枝は太さがあまりなく、ベンチコートも長時間のぶら下がりで半分近く裂けていた。
一ノ瀬 比奈、普通の生活では経験できないであろうピンチである。
「亮ちゃ~ん!」
「よ・・・よし、ちょっと他の奴ら呼んでくるからちょっと待ってろ!」
「皆に遺言は『厚着万歳』だったって伝えて!」
「いや、逝くなよ!?戻るまでちゃんとぶら下がってろよ!?・・・つーか、遺言としてどうだよソレ」
「え~・・・じゃあ『侑士のフェロモン良いフェロモン』でよろしく!」
「何を伝えたいのか分かんねぇよ!!・・・って違う!遊んでる場合じゃねぇんだよ!いいか、ちゃんといろよ!」
悲しい性か、ツッコミ所にはしっかりツッコミ、宍戸は人を呼びに駆け出して行った。
再び辺りが静かになると、自分の鼓動がうるさいくらいに聞こえる。
(パニックになっちゃダメだ・・・落ち着かなきゃ・・・)
見つけてもらえたのだからもう助かる。
そう自分に言い聞かせるが、後ろの方からビリリッと布を裂く音が聞こえた。
着ているコートがそろそろ限界なのだろう。
比奈は背筋を冷たい汗が流れるのを感じた。
「遺言・・・ちゃんとしたの言えば良かった・・・」
自分でも縁起が悪いと思ったが、もしこれが本当に最後だと思うと考えずにはいれない。
「跡部には・・・『ナルシーだったけど一応ありがとう』で、滝ちゃんには『いつまでも美人でね』かなぁ。樺ちゃんには『単語で良いからもっと言葉を話そう』で・・・」
一瞬、氷帝に転校してからの事が走馬灯の様に脳裏を過ぎる。
「・・・亮ちゃんには『ずっと青春しててね』で、長太郎は『そろそろ身長伸ばすのやめない?』で、若は・・・」
ビビッと更に布が裂ける音がする。
比奈はゆっくりと祈るように息を吐いた。
「若は・・・『髪形変えよう』かな?ジロちゃんは『寝違えないように気をつけて』で・・・岳人は・・・『侑士の事をよろしく』で・・・侑・・士には・・・」
『大好き』
ただそれしか浮かばなかった。
さよならなんて嫌だ。
もっとずっと・・・一緒にいたかった。
比奈の頬を伝う涙が静かに下の川へと飲み込まれていく。
それを黙って見ていた比奈の耳に幾つかの足音が聞こえた。
「比奈っ!!」
咄嗟に顔を上げると、会いたかったその姿がそこにあった。
「侑士・・・みんなぁ・・・!」
「今引き上げたるからな!もう少しの辛抱や!」
「う、うん・・・」
忍足と鳳が地べたに腹ばいになり、それを跡部、宍戸が後ろから押さえる。
「比奈さん!俺達に手を伸ばして下さい」
「ゆっくりでええから、落ち着いてな」
「うん・・・」
自分に向かって腕を伸ばす二人に頷き、比奈が恐る恐る手を伸ばそうとした途端―――・・・
ビリリッ―――!
無情にも残っていた引っ掛かりが勢い良く裂け、比奈は自分の身体がフワッと投げ出されるのを感じた。
咄嗟に比奈を掴もうとする忍足と鳳。
だが、その手は虚しく空を掴んだ。
比奈は一瞬だけ忍足と目を合わせると、そのまま成す術もなく川へと落ちていく。
すると、忍足は躊躇う事なく自分の後ろにいた跡部を振り落とし、そのまま比奈を追うようにして崖から川に飛び込んだ。
「忍足っ!?」
驚いて川を覗き込む三人。
その中で最初に冷静さを取り戻したのは跡部だった。
「川はそれなりに深さがある!上手く落ちてれば助かったはずだ!!」
「けど・・・比奈さんは泳げませんよ!?」
「だから忍足が飛び込んだんだよ!」
「下流の流れが緩やかな所で上がる可能性がある。他の奴らと合流して捜すぞ!」
跡部の号令に頷くと、宍戸、鳳は駆け出した。
一人残った跡部はグルッと周囲を見渡し、もう一度比奈がぶら下がっていた所を確認すると、宍戸達を追ってその場を立ち去った。
比奈がいた場所―――それは周りをフェンスで囲われた合宿所内で唯一、崖が剥き出しになっている場所だった。
.
「比奈さんっ!」
昼近く、合宿所周辺で氷帝メンバーの声が響き渡る。
原因はマネージャー・比奈が姿を消した事だった。
初めはどこかでサボっていると思った部員達も、朝食の時間になっても戻って来ないので疑問に感じ始める。
その段階で忍足、滝、芥川が捜しに出たが見つからず、他の部員達も朝食を中断して捜索に加わった。
「合宿施設の中はどうだ!?」
「いません!部屋にも戻った様子がなくて・・・」
「一応、青学側の部屋も調べさせてもらったけどいなかったよ」
「チッ!じゃあ外だな」
「まずいな・・・この辺はフェンスを超えたら崖が剥き出しだ!」
「比奈の奴・・・落ちたのか!?」
「―――っ!くだらんこと言うな!岳人!!」
向日の発言に一瞬ビクッと反応すると、忍足はそれを打ち消す様に怒鳴った。
そしてどこか縋るように辺りに視線を向けると、もう何度も捜した倉庫に向かって駆け出す。
それを見送りながら、滝は静かに溜め息を吐いた。
「・・・今のは無神経だったよ、向日」
「・・・悪ぃ」
ばつが悪そうに力無く俯いた向日の背を、跡部は勢い良く叩いた。
「バーカ。悪いと思ってんなら比奈を捜せ!何が何でも見つけるんだ!!」
「お・・・おう!」
跡部の声に再び駆け出す部員達。
だが、その胸には隠しきれない不安が渦巻いていた。
その頃、渦中の人物・比奈はと言うと―――・・・
「お~い!誰かぁ~!」
高さ20メートル程の崖から突き出た枝にベンチコートが引っ掛かり、そのままぶら下がっていた。
「誰か・・・侑士ぃ!」
下を流れる川の水音に掻き消されながらも比奈は必死に叫ぶ。
「助けて~!ヘルプ~!!」
しかし、努力も虚しく人の気配は微塵もなく、比奈は自分の状況に泣きそうになった。
チラッと眼下に視線をやると深そうな川が視界に広がる。
「私泳げないのにぃ・・・」
落ちたらまず、助からないだろう。
「もぉ・・・溺死は嫌だー!」
やけくそになったのと、取り敢えず何か叫ばないとと思い比奈は叫び続けた。
どれくらいそうしていただろうか。
段々と喉に痛みを感じてきた比奈の耳に、枯れ葉の擦れ合うような音が聞こえた。
(え・・・誰かいるの!?)
一気に期待が膨らむ比奈。
その耳には聞き覚えのある声が届いた。
「おーい!比奈ー!!いないのかー!?」
「この声・・・亮ちゃん!?おーい!亮ちゃん!ここだよ!!ここ~っ!」
川の音に混じってか細く聞こえる声に気付き、宍戸は慌てて足を止めた。
「比奈!?おい、比奈か!??」
「そう!私、一ノ瀬 比奈、氷帝学園在籍の三年生で男子テニス部マネージャー兼マスコットアイドルです!」
「・・・なんか、最後だけ違わねぇか?」
「こんな時にツッコミなんて求めてないよ~!」
「ならボケるな!・・・って、おまえ何やってんだよ!?」
漸く崖っぷちの比奈を見つけ、宍戸は思わず「激ヤバだな、オイ・・・」と呟いた。
「だ、大丈夫か・・・?」
「あんまし大丈夫じゃない。だから助けて~!」
命綱は枝とベンチコートのみ。
枝は太さがあまりなく、ベンチコートも長時間のぶら下がりで半分近く裂けていた。
一ノ瀬 比奈、普通の生活では経験できないであろうピンチである。
「亮ちゃ~ん!」
「よ・・・よし、ちょっと他の奴ら呼んでくるからちょっと待ってろ!」
「皆に遺言は『厚着万歳』だったって伝えて!」
「いや、逝くなよ!?戻るまでちゃんとぶら下がってろよ!?・・・つーか、遺言としてどうだよソレ」
「え~・・・じゃあ『侑士のフェロモン良いフェロモン』でよろしく!」
「何を伝えたいのか分かんねぇよ!!・・・って違う!遊んでる場合じゃねぇんだよ!いいか、ちゃんといろよ!」
悲しい性か、ツッコミ所にはしっかりツッコミ、宍戸は人を呼びに駆け出して行った。
再び辺りが静かになると、自分の鼓動がうるさいくらいに聞こえる。
(パニックになっちゃダメだ・・・落ち着かなきゃ・・・)
見つけてもらえたのだからもう助かる。
そう自分に言い聞かせるが、後ろの方からビリリッと布を裂く音が聞こえた。
着ているコートがそろそろ限界なのだろう。
比奈は背筋を冷たい汗が流れるのを感じた。
「遺言・・・ちゃんとしたの言えば良かった・・・」
自分でも縁起が悪いと思ったが、もしこれが本当に最後だと思うと考えずにはいれない。
「跡部には・・・『ナルシーだったけど一応ありがとう』で、滝ちゃんには『いつまでも美人でね』かなぁ。樺ちゃんには『単語で良いからもっと言葉を話そう』で・・・」
一瞬、氷帝に転校してからの事が走馬灯の様に脳裏を過ぎる。
「・・・亮ちゃんには『ずっと青春しててね』で、長太郎は『そろそろ身長伸ばすのやめない?』で、若は・・・」
ビビッと更に布が裂ける音がする。
比奈はゆっくりと祈るように息を吐いた。
「若は・・・『髪形変えよう』かな?ジロちゃんは『寝違えないように気をつけて』で・・・岳人は・・・『侑士の事をよろしく』で・・・侑・・士には・・・」
『大好き』
ただそれしか浮かばなかった。
さよならなんて嫌だ。
もっとずっと・・・一緒にいたかった。
比奈の頬を伝う涙が静かに下の川へと飲み込まれていく。
それを黙って見ていた比奈の耳に幾つかの足音が聞こえた。
「比奈っ!!」
咄嗟に顔を上げると、会いたかったその姿がそこにあった。
「侑士・・・みんなぁ・・・!」
「今引き上げたるからな!もう少しの辛抱や!」
「う、うん・・・」
忍足と鳳が地べたに腹ばいになり、それを跡部、宍戸が後ろから押さえる。
「比奈さん!俺達に手を伸ばして下さい」
「ゆっくりでええから、落ち着いてな」
「うん・・・」
自分に向かって腕を伸ばす二人に頷き、比奈が恐る恐る手を伸ばそうとした途端―――・・・
ビリリッ―――!
無情にも残っていた引っ掛かりが勢い良く裂け、比奈は自分の身体がフワッと投げ出されるのを感じた。
咄嗟に比奈を掴もうとする忍足と鳳。
だが、その手は虚しく空を掴んだ。
比奈は一瞬だけ忍足と目を合わせると、そのまま成す術もなく川へと落ちていく。
すると、忍足は躊躇う事なく自分の後ろにいた跡部を振り落とし、そのまま比奈を追うようにして崖から川に飛び込んだ。
「忍足っ!?」
驚いて川を覗き込む三人。
その中で最初に冷静さを取り戻したのは跡部だった。
「川はそれなりに深さがある!上手く落ちてれば助かったはずだ!!」
「けど・・・比奈さんは泳げませんよ!?」
「だから忍足が飛び込んだんだよ!」
「下流の流れが緩やかな所で上がる可能性がある。他の奴らと合流して捜すぞ!」
跡部の号令に頷くと、宍戸、鳳は駆け出した。
一人残った跡部はグルッと周囲を見渡し、もう一度比奈がぶら下がっていた所を確認すると、宍戸達を追ってその場を立ち去った。
比奈がいた場所―――それは周りをフェンスで囲われた合宿所内で唯一、崖が剥き出しになっている場所だった。
.