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※sincerity<中編>

 

初めて見た、一檎ちゃんの家。優しそうな両親、温かい家庭。

僕がお母様と話しているうちに、一檎ちゃんは自分の部屋に駆け込んで。散らかっていた本や服を全部クローゼットに押し込んだ。


『…一檎‥ちゃん』

昨夜、僕の挿入と同時に一檎ちゃんは気を失ってしまって。
申し訳なくは思いながらも、汚れたシーツを取り替えたくて、新しいシーツを探す為にクローゼットを開けた。

クローゼットの中には、写真立てが何個も重ねられていて。そこに飾られていた写真に自分の姿を見つけた時は、涙が出る程嬉しかった。


『待っていてね…』

再び眠りについてしまった一檎ちゃんの髪を撫でながら、幸村さんに話さなければいけない内容を整理した。

幸村嬢に、一檎ちゃんを会わせたくはない。
あの人は、欲しい物を手に入れる為ならば、何でもするような人だから。一檎ちゃんが逆恨みされたりしたら、きっと危ない目に合わせてしまう。


『…ゆっくり、お休み』

一緒に来てほしいなんて。弱い自分を後押ししてほしくて、一檎ちゃんに縋ってしまった。

一檎ちゃんを信じてもいい、愛してもいい。確かな言葉が欲しかったんだ。

名残惜しいけれど、柔らかい髪から手を離して。まだ眠っている一檎ちゃんの額に口づけて、気持ちを落ち着かせる為に目を閉じた。


『………』

僕の問題は、僕が一人で解決する。
幸村さんと幸村嬢の元に、破談の話し合いに行って。頭の堅い父に、全てを説明しなければならない。

もし、外崎の家を出されれば。勘当されてしまえば。
僕には何も残らない。
月々のバイト代なんて限られているから、たいして貯金もないし、家もない。
何とか部屋を借りられたとしても、高校に通い続ける事ができるのかも分からない。


『しっかり…しなくちゃ‥ね』

とても怖いけれど、一檎ちゃんを失う恐怖と比べれば、こんなものは…たいして怖い事じゃない。

一檎ちゃんの体に毛布を掛け直して、一度だけ深呼吸をする。


大丈夫、大丈夫。
自分を強くするおまじないみたいに、何度も心の中でそう呟いて。

僕はそのまま、一檎ちゃんの家から幸村さんの家へと向かった。

 

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